独身時代は、結婚生活に憧れを抱いていた人も多いのではないだろうか?
わたしもそのひとりである。ところが実際に結婚してみると、イメージしていた結婚生活とはかけ離れていたりするものだ。「またケンカしちゃった...」「なんでこんなにうまくいかないの?」。SNSをのぞくと友達の夫婦が幸せそうに見える。不安はつのるばかり。
「ミノン」の短編映画「ごめんねと大丈夫」は、大島優子さん演じる麻子(あさちゃん)と、坂口健太郎さん演じる遼介(りょうちゃん)の夫婦の物語だ。新婚ならではともいえる悩みや、ふたりの葛藤が描かれている。10分少々の短編映画なので、ちょっと見てほしい。
「新婚生活こそ過酷だ」と語るのは、自身の恋愛・結婚体験を書いてきた作家のアルテイシアさん。今回ハフポスト日本版は、「ミノン」の短編映画公開と、11月22日の「いい夫婦の日」にちなみ、人気作家のアルテイシアさんにインタビューを行った。出会いから結婚、そして現在に至るまで、夫婦の愛をつづってきたアルテイシアさんに、「お互いが機嫌よく、楽しく過ごす」ために必要な3つの心得を聞いた。
1.朝からシャケを焼かない
—— アルテイシアさんは結婚12年目だそうですね。新婚当初はどんな奥さんだったのでしょうか?
ミノンの短編映画のように、わたしも新婚の頃は、うまくいかないこともありました。他人同士が一緒に暮らすわけですから、新婚生活は過酷です。夫は「結婚は戦場だ」という覚悟で臨んだそうです(笑)。
新婚当初を振り返ると、今よりもがんばっていましたね。まったく無駄ながんばりでした(笑)。わたしは「良妻賢母なんてまっぴらだ」というタイプですが、それでも一応、夕飯だけはちゃんと作ろうと思っていました。
締め切りに追われる中でもがんばって夕飯を作っていましたが、夫に「俺のごはんのことなんて考えなくていい、仕事を優先してほしい」と100回くらい言われて。
—— 100回(笑)
100回言われないと「がんばらなきゃ」という呪いが解けなかったんでしょうね。せっかく作ったのに、夫の帰りが遅いうえに「さっき会社で菓子パン食べた」とか言われたり、ろくに味わいもせずに丸飲みされたりするとイラッとするんですよ。「私はこんなにがんばってるのに!」みたいな。それで夫婦仲がギスギスしたりもしたので、がんばるのをやめて正解でした。
周りの夫婦も「お互いに帰りを待たない」「夕飯は別々にとる」と決めた方がうまくいくようになった、と言います。世間で言われている「いい夫婦」のイメージにとらわれず、自分たちに合ったルールを作った方がいいですよね。無理は続かないし、無理すると不満が積もって爆発しますから。
——世間で言われている「いい夫婦」。ミノンの短編映画では麻子が「理想の奥さん」というワードでネット検索していましたね。
ネットじゃなく夫に聞くべきですよね(笑)。相手が何を望んでいるかは、相手に確認しないとわからないから。
たとえば、新婚生活というと夫婦そろって朝ごはんを食べるシーンがよく出てきますよね? 早起きしてごはんを作る素敵な奥さん。ごはんと味噌汁、焼いたシャケにお漬物を用意して、ちゃんと出汁をとって、ぬか床もお手製です、みたいな丁寧な朝ごはん。
でも出された方の夫は「朝からこんなに食われへん」と思ってたりする(笑)。独身時代はバナナとかでサッと済ませていて、その方が体調もよかったりして。旅先で食べる旅館の朝食なんかも、食べ過ぎてお腹パンパンでランチ食べられないじゃないですか。
——あるあるですね(笑)。普段はあまり朝ごはんを食べないから、つい張り切って食べ過ぎてしまう。
旅館の朝食みたいなメニューを毎朝食べるのはキツいけど、作ってくれた妻に悪いからと、無理して食べたり。妻の方も早起きしてしんどかったりして、お互いが無理している状態。そこで「実はバナナだけの方がありがたい」「え、そうだったの?」と本音で話し合う方が、結婚生活はうまくいくと思います。
「がんばるのをやめたら夫婦仲が良くなった」は既婚者あるあるです。忙しい共働き夫婦ならなおさら。完璧で理想の妻や夫になろうとすると、相手にも完璧や理想を求めがちで、お互いストレスになります。だから、朝からシャケを焼くのはやめましょう!
2.結婚生活は「病めるとき」ベースで考えよ
みんな「病めるときも、健やかなるときも」と愛を誓って結婚したわけですが、健やかなときに仲良くいられるのは当たり前。肝心なのは病めるときにどれだけ相手を大切にして、支えられるかです。
たとえばインスタに「夫と思い出のレストランでデートしました」と素敵な写真をアップしても、「そのあと牡蠣にあたってお腹を下しました」とは書きませんよね? みんな他人の結婚生活はキラキラして見える。だけど、インスタには決して載っていない「お腹を下して大変だった」部分こそが「現実」なんです。わたしは、夫婦は下痢嘔吐している時に看病し合う関係だと思っています。
—— 「病めるとき」こそが大事だと感じたエピソードはありますか?
ネットの連載にも書きましたが、私は去年、子宮筋腫のため子宮全摘手術を受けたんですね。入院中、夫は毎日病院に来て、親身に支えてくれました。私が寂しくないように毎晩、猫の写真を送ってくれて、手術の前には般若心経の写経を渡されました(笑)。
—— 写経ですか(笑)
封筒を渡されたので「ラブレター...? トゥクン」と思って開いたら、写経でした。夫に「ラブレターかと思った」と言うと「ラブレターなんて何の効力もない」と返されました(笑)。手術と入院を経験して「結婚は"病めるとき"ベースで考えるべき」と実感しました。
結婚は単なる箱で、中身は50年の共同生活です。「あの箱さえ手に入れば幸せになれる」と信じる独身女性は多いですが、中身をしっかり考えることが大切。
50年の間にはお腹をくだしたり、嘔吐したり、病気になることだってあります。夜中に子どもがギャン泣きしたり、熱を出して夫婦のどちらかが仕事を休まないといけなかったりする時もある。そういうリアルな場面を想像したうえで、結婚相手を選んでほしいです。
3. 「なんで察してくれないの? 言ってくれなきゃわからないよ!戦争」は撲滅せよ
—— ミノンの短編映画では麻子が「こんな奥さんになりたくなかった。旦那さんが家でくつろげるような家にしたかった」と泣きながら言うシーンが印象的でした。
このふたりの場合、お互いに「優しさ」や「気づかい」があるがゆえに、本音をぶっちゃけられない状況かなと思いました。相手も仕事で疲れているから愚痴を言えない、申し訳ない。だからこそ口から出てくる言葉は「ごめん」や「大丈夫」なんですよね。
夫婦生活において気づかいや思いやりはとても大事ですが、同時に「本音で話し合うこと」も大事だと思います。
——本音を話せない夫婦は意外と多いのかもしれません。今回、既婚男女100名にアンケートをとってみたのですが、パートナーに不満をもつ人が約6割。不満の上位に「言葉遣い・会話」がありました。
<エピソードの一例>
・話をする気がないのか、会話が少ない(40代・女性)
・言ってくれないと分からないのに、言わないでもわかって欲しいと言ってくる。(30代・男性)
古くから男女間では「なんで察してくれないの? 言ってくれなきゃわからないよ!戦争」が続いてきました。結婚したからといって人間はニュータイプにはなれないので、大事なことは言葉で言わないと伝わりません。
だから我が家では「察して禁止令」を導入しています。相手にニュータイプ能力を期待せず、話し合いで戦争を終結させる方針。言わずに我慢していると、モヤモヤやイライラがたまっていきますから。
ミノンの短編映画では最後は、ふたりがちゃんと本音で話し合えてよかったな、と感じました。
—— 「もう一度結婚するとしたら今のパートナーと結婚したいか」という質問には約6割が「はい」と回答しています。アルテイシアさんならどう回答しますか?
わたしは腹の底から「ハーイ!!」です。どんな手段を使ってでも夫と結婚したいです。そう言える相手と結婚したかったので、婚活はとても苦労しました(笑)。
アンケートの結果をみると、不満を持っているものの、この質問に対して「はい」が多いのはいいですね。「別の人がいい」、「結婚しない」という回答を合わせると4割なのは、3組に1組が離婚すると言われている現代を表しているような気がします。
—— ミノンの短編映画では、遼介の「一番言いたいことはなに?」に対する、麻子の答えがよかったですよね。
「夫 死んでほしい」で検索する妻が多いと言われる世の中で、心が洗われました(笑)。麻子の答えはぜひ動画を見てほしいのですが、最後に言っていた「ふたりにとっての優しさを探していけたら」というセリフもよかったです。夫婦はこうあるべきという一般論ではなく、それぞれに合った夫婦のカタチを見つけてほしいですね。
それから、自分に優しくすることが、相手に優しくすることにもつながると思います。うちは自分にも相手にも厳しくない、ゆるゆるの夫婦なんですよ(笑)。
わたしの実体験をつづった「59番目のプロポーズ」がドラマ化され、共演された女優さんと芸人さんがドラマをきっかけに交際し、その後ご結婚されました。新婚当初、その芸人さんが「お互いの前ではおならをしないのがルールです」と話すのを聞いて、うちの夫は「おならのできない家庭は滅びる」と言っていました。そして夫の予言は当たりました(笑)。
おならに限った話ではなく、家では自然体でリラックスできるのが一番だということです。
新婚生活というとお花畑のようなイメージがありますが、新婚時代の方が揉めることは多いもの。麻ちゃんと遼ちゃんも、ふたりにとっての優しさを探しながら、おならのできる家庭を築いていってほしいと思います。
◇◇◇
アルテイシアさんの著書の中で「この人と結婚しよう」と決意した、こんなエピソードがある。大げんかの末にとった彼の行動。会社でもらったお土産のおまんじゅうが美味しかったから、ひとつ余分にもらってきたと言っておまんじゅうを手渡すのだ。
「美味しかったから、あの子にも食べさせたい」人が人を大切に思うことよりも素晴らしいことなんてこの世にはないのに――。わたしはこのフレーズがとても好きだ。
いい夫婦ってなんだろう?
たまには夫に言えない本音を話してみてもいいかもしれない。妻のためにゆったり温まれる入浴剤を買って帰るのもいいかもしれない。体調が悪そうな日は、ゆっくり休んでもらおう。夫婦の日常は、本当に、ささいなことの積み重ねだ。