離婚⇒国際再婚。3人の子育て。スタイリスト大草直子さんが、女性に伝えたい「働くこと」

家族の生活を支える、目の前の仕事は「命懸け」

女性誌でカリスマ的人気を誇るスタイリスト、webマガジン「mi-mollet(ミモレ)」編集長、そして三児を育てる母であり、ステップファミリーの大黒柱。

40代の女性として多忙を極めながらも、充実した日々を送る大草直子さん。彼女は目の前の仕事を、「命懸け」と言い切る。

スタイリストの大草直子さん
Kaori Sasagawa
スタイリストの大草直子さん

「誰に何を言われようとも、自分にとって大事だと思えることは守る。そういう強さも必要」と語る大草さん。

離婚によって味わった敗北感、ベネズエラ人の夫との再婚、3人の子育てとおしゃれへの信念......。大草さんのライフストーリーには、女性が自分らしく働くヒントが詰まっていた。

離婚は「負け」だと思っていた

――ファッション誌の編集者から人気スタイリストへ。順風満帆なキャリアのように思えますが、人生のターニングポイントはどこでしたか。

20代の終わりに離婚を経験したことです。それまではずっと脇道にそれない人生だったんですよ。

小学校から高校まで同じ付属校で、大学卒業後は雑誌「ヴァンテーヌ」編集部に入ることができて。大学時代からつきあっていた人と結婚して、28歳で出産して......。ずっと努力すれば何とかなっていた。

夫から突然、離婚を切り出されたとき、「負けた」って感じたんです。具体的に何かに負けたわけじゃないんだけど、すごく大きな敗北感がありました。

「世の中にはどうにもならないことがあるんだ」と初めて実感しました。2年くらいは落ち込んでいましたね。

でもそのおかげで数年後に今の夫に出会えたし、彼とのあいだに授かった長男と次女を産むこともできた。夫は(南米の)ベネズエラ出身なんですが、ベネズエラって日本とシステムが何もかも違うんですよ。彼と出会えたことで、価値観がぐわーんと広がりましたね。

「夫とはしょっちゅうケンカします。でも...」

――フリーのスタイリストとして仕事をしながら3人の子育て、大変だったのでは。

私、3人目を産んだのが38歳のときなんですよ。当時はちょうど、10年お仕事をさせていただいていた女性誌で「次からはあなたがメインで行くよ」と言われたタイミングだったので、3人目の妊娠は、すごく言いづらかったですね。

もちろん今は産んでよかったなと心から思っていますけど、あの時期はとにかく大変でした。10歳の長女の反抗期が始まって、5歳の長男はまだ幼稚園に通っていて、自分は妊娠中だけど働き続けて、夫もフルタイム勤務だったので。

それでも次女が2歳になるまでは、何とかやりくりできたんですよ。夫も両親もベビーシッターもアシスタントも、全員がフル稼働して。でもそんな慌ただしい日々の中で、夫が運転中に電信柱にぶつかる事故を起こしてしまったんですね。

——え! 大丈夫でしたか。

幸い誰も怪我人は出なかったんですけど、その頃、子どもたちも毎日(園に)お迎えに来る人が違うから疲れていて。「このままじゃまずい」と実感しました。

そんなことがあったので、私から夫に提案したんです。「しばらくは家のローンや教育費を自分が持つから、子どもたちのお世話をしてくれないか」って。

彼は17歳からバイトを続けて、奨学金でアメリカの大学に通って、その後もずっと働き詰めだったんですね。その彼が「家族を持つことが自分の夢だったから、それに集中させてくれるのはすごくありがたい」と言ってくれた。

――彼が仕事を辞めて家事をするようになって、変化はありましたか。

子どもたちが安定したんです。もうびっくりするくらいに。本当に夫のおかげで、彼は教育者の資質があったんだと思う。

一番変わったのは長女ですね。反抗期に入りかけていた彼女のメンタルが、すごく落ち着いたんです。長女は彼と血がつながっていないけど、今ではすごく仲良し。

最近は2人でずっと私がわからないロックの話をしてますよ。「ダディ、あれ聴いた?」「めっちゃ名曲だよね!」みたいな(笑)。

夫とはしょっちゅうケンカもしますよ。でも、あの人以上の人はいないと思っています。

Kaori Sasagawa

「自由でいい? こっちは命懸けです」

――一方で、「家族を養う」プレッシャーもやはり感じますか。

危機感はすごくあります。「すごく楽しそうにお仕事されてますね」なんてよく言われるんですけど、こっちは命懸けですよ。

子どもを育てていかなきゃいけないから、胃がキリキリ痛むときだってたくさんある。家族を背負っているから、キャリアを考え直すときなんて、本当にドキドキしますよ。

「自由そうでいいですね」とも言われますけど、自由って、責任があることと同じなんですよ。今の私には、自由はあるけれど同じ分だけの責任もあります。

――責任を取れば、自由になれる。

そうそう。だから「女性だから」なんて思っていないで、女性はどんどん自分で責任を取っていかなきゃ。夫とか、子どもとか、誰かに責任を転嫁するのは絶対にだめ。

仕事も子育てもおしゃれも、全部そう。ちょっと厳しいくらいに自己分析をして、キャリアプラン、ライフプランについて考えたほうがいいと思います。

「子どものための我慢」も危ういと思うんですよ。「子どものためにいろんなことを我慢している」は、いつか簡単に「この子のせいで」という気持ちに変わっちゃうから。

だから私は、細かい目標を5年単位、大きな目標を10年単位で設定して、常に頭の隅に置いて考え続けています。世間のニーズ、時代の潮目、自分がやりたいこと。すべて変わっていきますから。

Kaori Sasagawa

毎日がんばっている人こそ大切にすべきこと

――これからの時代は、大草さんのように、ファミリー単位でキャリアプランを考える家庭が、もっと増えていきそうです。

わが家だけじゃなくて、それが普通になってくると思いますよ。「今は私が子どもといる時間を大事にしたいから家庭に入るね。でも次の10年は私がキャリアを優先させるね」ということを、夫婦で話し合うことがすごく大事だと思います。

——長期的な視点があるといいですね。

おしゃれも同じですよ。投げ出さないことが何よりも大事。忙しくてお休みする時期があっても、絶対に舞台から降りないこと。完璧を目指さなくてもいいんです。自分の中で優先順位が高いものだけ守っていけばいい。

たとえば、足の爪だけは塗っておきたいとか、髪のツヤだけは保ちたいとか。自分の中にパワーがたまることを、何か2つくらい決めておくといいと思います。その2つだけは努力してキープしていく。

それは自分へのご褒美じゃなくて、自分自身がパワーを出すために必要なことですから。誰に何を言われようともそこは守る。そういう強さを持つことも大事なことだと思います。他者の承認は脆いし、それだけで自分を保っていくのは難しいので。

毎日がんばっている人こそ、意識して自分を大切にしてほしいですね。

......

"男女格差"は過去のもの? でも、世界のジェンダーギャップ指数で、日本は144カ国中114位です。

3月8日は国際女性デー。女性が生きやすい社会は、男性も生きやすいはず。社会の仕組みも生き方も、そういう視点でアップデートしていきたい。#女性のホンネ2018 でみなさんの考えやアイデアを聞かせてください。ハフポストも一緒に考えます。

(取材・文:阿部花恵 編集・撮影:笹川かおり)