セブンのネットコンビニ慎重姿勢に潜む「遠大な戦略」

小規模店のコンビニだからこそ、やるべき仕掛けがありそうなのである。
セブンの「強み」をネットでも生かせるか!?
セブンの「強み」をネットでも生かせるか!?

セブン-イレブン・ジャパンはネットコンビニの拡大を明らかにした。これまで北海道札幌・小樽地区のわずか15店で実験をしてきたが、これを20店に拡大し、カバーエリアを広げたというのである。「ネットスーパーの方がネットコンビニよりも品ぞろえが多くて便利」とか、「近くにあるコンビニだから、店行った方が早いでしょ」という声が聞こえてきそうだが、セブン-イレブンの考えるネットコンビニは、ネットスーパーに対抗できる小規模店のコンビニだからこそ、やるべき仕掛けがありそうなのである。(流通ジャーナリスト 森山真二)

セブンも手ごたえを感じているネットコンビニとは

 ネットコンビニは実際の店舗に並んでいる商品を、スマートフォンを利用して購入できる仕組みである。

 現在札幌・小樽地区の実験では、午前7時から午後5時までスマートフォンで注文を受け付け、最短2時間で宅配する。配送料は216円である。

 昨年から実験を始めた札幌・小樽地区では対象店舗の配送対象地区以外からのアクセスも増えているといい、セブン-イレブンでも手ごたえを感じているようだ。3月末からは対象店舗を5店増やし、カバーエリアも従来の6万1000世帯から、12万1000世帯に拡大した。

本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

 とはいえ、ネットコンビニといっても商品数はせいぜい3000品目あまり。「2万点、3万点と品目数があるネットスーパーには品ぞろえで全然敵わない」、「やはり使い慣れたネットスーパーで注文するのではないか」という声もありそうである。

 事実、コンビニの主力商品はまだまだ弁当や総菜が中心で、日用品なども揃いつつあるが、生鮮食品も取り扱いが少ないし、価格はスーパーなどに比べ安くはない。表面上はネットスーパーと勝負になっていない。

 しかし、考えてみてほしい。

 コンビニが登場した時も「あんな小さい店で、商品も揃っていないコンビニはすぐに潰れる。スーパーに勝てはしない」と言われたが、24時間営業や銀行ATM、公共料金の収納代行と次々に新サービスを導入し、「コンビニ」という"新しい業態"を作り上げ、現在の地位を築いたのは周知のとおりである。

セブンが"コンビニの勝者"となった 3つの経営戦略をネットコンビニでも展開

 セブン-イレブンを"コンビニの勝者"にのし上げた経営戦略として、マーケティング上の3つの戦略がある。

 それは、まず「一つひとつ、ドミナント(地域集中出店)を実行した」、次に「競合店と差別化が図れる品揃え、商品開発で競争状態から脱出した」。3つ目として、とくにセブン-イレブンでは"コンビニの父"といわれる鈴木敏文セブン&アイ・ホールディングス名誉顧問が「接客の重要性を繰り返し、繰り返し説いてきており、地域・顧客とのコミュニケーションを大事にしてきた」ことだ。

 この戦略で現在、1日1店あたり売上高(日販)は65万円と、2位のファミリーマートや3位のローソンに10万円以上の差をつけており、チェーン店舗数2万店規模にまで成長した。

 実はネットコンビニでも、この戦略が展開される見通しである。それどころか、ネットコンビニからは遠大なセブン-イレブンの戦略が透けて見えてくるのである。

 まずセブン-イレブンはネットコンビニの実験成果がよくても、一気に地域を拡大することはしないと見られている。密かに北海道の15店から実験をスタートしていることからも、急激な地域拡大戦略はとらないと予測されている。

 実験を継続していくならば北海道の札幌・小樽の結果を見て隣接する地域への拡大という、一つひとつドミナントを形成する戦略をとる見通しだ。

 さらに、ここからが問題だ。ネットスーパーではなく、ネットコンビニに注文しようという気持ちを起こさせる必然的な品ぞろえや商品戦略が必要となる。

 セブン-イレブンのネットコンビニでは基幹システムを通さずクラウド型のシステムを採用し、注文やデータの処理に素早く対応、「PDCA(計画、実行、評価、改善)サイクルを高速に回転させていく」としている。

 つまり、この仕組みの構築から読み取れるのが、"地域の嗜好"の把握である。品目数が少ないネットコンビニがネットスーパーに打ち勝つには、"地域の嗜好"を確実に把握して品ぞろえに反映させることにある。

購買動向や趣味嗜好を把握すれば品揃えの少なさは弱みにならない

 ネットコンビニで1世帯1世帯の購買動向や趣味嗜好を把握し、それをビッグデータとして処理すれば、品揃えの少なさは弱みにならない。

 実際、セブン-イレブンではネットコンビニ展開にあたって「MVP(実用最小限の製品)を実現する」としている。

 MVPとは、マーケティング用語で「顧客に価値があり、利益を生み出せる最小限のもの」と定義されている。セブン-イレブンがいう場合、ネットコンビニでは最小限の品ぞろえで顧客に価値を与えるというわけだ。

 配送は西濃運輸がセブン-イレブン専用の配送会社として100%出資して設立したGENie(ジーニー)が担当する。ジーニーは配送と同時に配送員が顧客や世帯情報を収集、今後の配送業務に役立てると見られている。

ネットビジネスを確立した業種が"異種格闘技"から脱出できる

 まさに実店舗のコンビニのここまでの成長を支えてきた法則である「ドミナント」「差別化された商品政策」「接客」と同じ手法で、ネットコンビニも展開されるのである。

 それこそ、ネットコンビニを拡大し、地域として対応店舗が"ひと塊"となった時に、地域別の商品開発がさらに進化する可能性もあるのだ。

「セブン-イレブンは将来的にネットコンビニを全国に拡大するでしょうね」と話すのは大手流通業の幹部である。

 今後、コンビニは実店舗ではドラッグストアや小型食品スーパーに攻め込まれ、"異種格闘技"を戦い抜かなければならない。その中でネットビジネスを確立した業種が、異種格闘技から脱出できるのである。

 ネットコンビニはその戦いから抜け出せる切り札となるし、今後のネットスーパーやアマゾンフレッシュとの"空中戦"を切り抜ける武器になるのだ。

 今は「ネットコンビニ」といってもピンとこないかもしれない。だが、国立社会保障・人口問題研究所は、20年後の2040年には単身世帯が全体の約4割になると予測しており、とくに未婚者の増加により65歳以上の単身世帯が増えるという。

 スマホを自由に操れて仕事を持つ高齢者が増加する時代には、コンビニをうまく活用することが、効率よく生きる術になることはいうまでもない。

 その時に備えたセブン-イレブンのネットコンビニの実験であると考えたら、コンビニはこれからも姿を変えて生き残る業態といえる。

 最小の商品・品揃えで最大の効果を引き出すコンビニという業態は、ネット時代になっても、ますます重要な意義を持ってくるといえるかもしれない。

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