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2018年06月05日 14時22分 JST | 更新 2018年06月06日 12時17分 JST

「ウルトラマンを世界展開できるという主張は無理がある」創業者の一族が円谷プロを批判

「特撮の神様」の孫にあたる円谷英明さんが、日本マンガ学会で講演

Kenji Ando
講演する円谷英明さん(5月25日撮影)

円谷プロの創始者で「特撮の神様」として知られる円谷英二さんの一族が、ウルトラマンをめぐる円谷プロの対応に異議を唱えた。

5月25日に都内で開かれた日本マンガ学会の著作権部会の講演の一幕だ。円谷英二さんの孫で、円谷プロ6代目社長を務めた円谷英明さんが「このままでは、ウルトラマンが世界に羽ばたくことはない」と、現在の円谷プロの対応を批判した。

かつて円谷プロは、円谷家の人間が歴代社長を務めた同族企業だった。しかし2010年以降は、経営難からパチンコ関連企業のフィールズと玩具大手バンダイの2社の傘下企業となり、円谷という名字の人物は役員名簿に見当たらない。

 

■「海外展開の全権利を確認」と円谷プロは発表

争いを起こしたタイ人実業家のソンポート・センゲンチャイさんは、ウルトラマンの監修をした「特撮の神様」故・円谷英二氏に1960年代に師事した。また、円谷英二氏の息子で円谷プロ元社長、故・円谷皐(のぼる)氏ともセンゲンチャイさんは親交を深めた。

1995年の皐氏の死去後、センゲンチャイさんは円谷プロに対して、次のように主張した。

「皐さんから、ウルトラQからウルトラマンタロウまでの作品の海外利用権を譲渡するというサインと社判入りの契約書を1976年にもらった。円谷プロは自分に無断で海外展開しないで欲しい」

センゲンチャイさんが提示した契約書に対して、円谷プロは「偽造されたものだ」と反発。日本では1997年から裁判が始まった。2004年に最高裁は「契約書の社判は本物である」と認定したことでセンゲンチャイさん側が勝訴した。円谷プロには、ウルトラマンシリーズの海外利用権がないという判決が下った。

一方、タイでも裁判になっており、2008年に「契約書はサインが違うので偽物」として円谷プロの勝訴が確定した。こうして、少なくともタイでは円谷プロに権利があるという判断になった。

同年12月、センゲンチャイさん側の権利は、東京都港区のユーエム社(上松盛明社長)に譲渡されたが、各国での裁判は続いた。

2013年の中国では、社判を理由にセンゲンチャイさん側の勝訴が確定するなど一進一退の攻防が続いていた。

そんな中、円谷プロは4月24日、アメリカのカリフォルニア中央区地方裁判所で全面勝訴したと発表した

プレスリリースの中で、円谷プロは、問題の契約書が「円谷皐によって署名され捺印された真正な契約書ではなく、効力はない」と判断されたと説明。

今回の判決では「当社が『ウルトラマン』キャラクターに基づく作品や商品を日本国外においても展開する一切の権利を有することが確認された」とコメントしていた。

 

■円谷英明さんは「無理がある」声明を批判

しかし、円谷英明さんは講演の中で、この声明を厳しく批判。「これまでウルトラマンは国ごとに裁判の管轄が違うということで世界各国で裁判をやってきました。アメリカの地裁で勝っただけで世界的に全部できるというのは無理がある」と話した。

また、著作権部会の司会を務めた久留米大学名誉教授の大家重夫(おおいえ・しげお)さんも円谷英明さんの意見に賛同した。

ハフポスト日本版の取材に対して大家さんは「アメリカの裁判の効力は、アメリカでしか発揮できない。もし今後、最高裁で勝ったとしても、円谷プロが言うように全世界での権利が認められるわけではない」とコメントした。

著作権部会での円谷英明さんのウルトラマンに関する主な発言は以下の通り。

 

■「このままではウルトラマンが世界に羽ばたくことはない」

ソンポートさんの契約書が偽物が本物かという裁判が東京であったとき、僕は円谷プロにいて当事者でした。残念ながら最高裁で、円谷プロは負けてしまった直後に社長に就任しました。それから後、いろいろあって僕は円谷プロから距離を置いています。

それには大きな理由があって。円谷プロは円谷英二が作って、初代ウルトラマンは父親の円谷一が中心となって、プロジェクトを立ち上げて作っていきました。そのときはスタッフも若くて、円谷学校みたいな形で後進に技術を教えていきました。すごく若い力で作られたのがウルトラマンです。

そのスピリットがずっと続いていれば、僕も円谷プロから逸脱した行動をすることはなかったと思います。でも、ごく一部の人がウルトラマンを私物化しようとするんですね。ウルトラマンは自分が作った」と言い始める。そういう人のせいで、東宝などそれまで支えてくれた会社の力添えがなくなってしまって、独自の道を走った挙げ句にスピリットがどんどんなくなってしまいました。

最近のウルトラマンシリーズをご覧になっている人も多いと思います。ですが、今のウルトラマンは、はっきり言ってウルトラマンではない。一族から見てもファンから見ても、本来は制作者はメッセージを込めて作品を作るものですが、そういうものはなくなってしまった。オモチャが売れればいい、カードが売れればいい、ということで作っているので、スピリッツがない。

そこから派生して、僕はタイのソンポートさんの一族の方と仲良くさせていただいています。今はどちらかというと、円谷プロが国内の会社であるとするなら、日本以外のインターナショナルの仕事ができればと思って、タイの方と厚意にさせていただいてます。

東京の裁判で、契約書の真偽が争われたんですが、1996年に当時の円谷一夫社長が76年契約書を追認する手紙を出しているんですよ。これが東京での(判決の)決め手になってしまった。そのあと、円谷プロは「そんな契約はない」とさんざん言ったのですが、最後までひっくり返せないで判決が確定しました。

文章の中身は別として「契約書は本物である」と日本の最高裁では(2004年に)確定しました。4月18日に、アメリカの裁判所の判決が出ましたが、そのときに円谷プロがコメントを出していたんです。

僕は全部見させてもらいました。円谷プロの社内は生え抜きの人がいないので、細かい事情を知っている人は誰もいない。当事者がいないんです。円谷プロの中で裁判のことがどうなっているかというと、(日本の)最高裁の判決は『あれはメモ』だと社内でずっとそう言い続けている。

だから、ニュースサイトに載っていた円谷プロのコメントを見てびっくりしたのは「契約書の真偽について争うところはない」と。東京の裁判はずっとそれをしてたのに、それすら知らないわけですね。

円谷プロはこれまで、日本で負けたけど、中国、タイ、アメリカで裁判でやったから、他の国の裁判に影響を受けないんだ...という主張をしていました。

「日本で負けたけどタイで勝った」から、「中国で負けてもアメリカではまだ判決が出てない」ということでずっと裁判をしてきただけに、今回の円谷プロのコメントには驚きました。

4月18日の判決で「これでウルトラマンを全世界的にやっていけるんだ」という主張でした。これまでウルトラマンは国ごとに裁判の管轄が違うということで世界各国で裁判をやってきたので、アメリカの地裁で勝っただけで「世界的に全部できる」というのは無理がある。

世界に誇るキャラクターを持っている会社のコメントとは思えなかった。円谷プロには脈々と受け継がれてきたものはなくなって、商売に走った方向に行ってるのかなと感じました。円谷プロは一方的に報道陣にPRして「勝ちました」みたいな印象を植え付けているのが今の現状です。

これから、どうなるのか。即時控訴しているので、次は日本でいう高裁なんですね。その次は最高裁。あと5年はかかりますよ。あと5年間、円谷プロは今と同じスタンスで戦う気ですかと。

ただ、中国と日本は(タイ側の勝利で)確定しているので、そこには(円谷プロは)手をつけられないはずなんですけど、円谷プロは特に中国に関してはいろいろなことやろうとしています。

中国のビジネスは難しい状況にあり、今後、円谷プロとタイ側は同じようにウルトラマンの権利を行使していくことになると思います。

私が社長在任時の2005年くらいからずっと「和解しかないですよ」と言ってきました。でも、和解しようとすると、なぜか和解できない。弁護士さんに聞くと「もう少しやれば勝てるから、勝った方がいいでしょ」と言われる。そっちになびいていくと、勝ったり負けたりを繰り返して、もう20年近くこういう裁判をやっている。

一人でも理解者を増やして本物のウルトラマンを作ってほしいなと。そうするためには、どうしたらいいかを伝えていただいて。

このマンガ学会でも毎年、「来年は何かやります」と言ってますが、まだできてない。中国で何かやろうとすると必ず円谷プロが訴えられるところは、訴えてきますから、相当難しい。

これはある種の線引きがされない限り、ウルトラマンが世界に羽ばたくことはないのかなと思ってます。

さっきTPPで著作権の有効期間の話がありましたが、ウルトラマンでいえば1966年だから52年目です。70年たてば映像自体は著作権フリーになってしまうという危惧はあります。著作者隣接権は分かりませんが、誰でもウルトラマンが使えるような状況になるのかなと。そこまで僕が生きているかは分かりませんが、次の世代に引き継いでいかないといけないなと思っています。

ウルトラマンの件でもそれ以外でも構いませんが、会場から質問のある方がいれば受けたいと思います。

------ハフポスト日本版の記者の安藤と申します。先ほど「このままだとウルトラマンが世界に羽ばたくことはできない」とのご発言がありましたが、ではどのようにするのが最善でしょうか?

毎回言っているように、一番いいのは和解なんですけど、それがお互いのプライドもあるし、できないので。一定の期間は「お互いにやりましょう」みたいな。その間は不可侵条約を結んで3年とか5年、ウルトラマンをやってみてお互いにそこで線引きができればすればいいし、線引きができないなら、再交渉の席につくとか。

今は世界的に出せるような新しいウルトラマンがないんですね。ここで締結すれば、映画でも30分のテレビドラマでもきちんとした予算をかけて、(1話あたり)2000万円とか3000万円近くかかってしまうけど、それぐらいかけて、子供たちへの文化的な価値がある良い物を作って、情報発信をしていくのが大事だと思っています。

■円谷プロの見解は?

ハフポスト日本版は米国裁判の件で、円谷プロにも取材を申し込んだ。質問に対して6月4日、法務担当者から以下のような回答があった。ユーエム社が控訴したことや、アメリカの判決は基本的に国内でのみ有効と認めた上で、「他国において同様の争いが生じた場合においても、同様の判断が下される可能性が高い」と主張している。

回答の詳しい内容は以下の通り。

--- ユーエム株式会社が今回の判決について控訴したという情報もありますが、事実でしょうか?

5月8日付で控訴の申し立てを裁判所が受理したと聞いております。ただし米国裁判におい ては、事実審理(76年書面が真正な書面であるか否か等の判断)は原則として第一審のみであり、第二審以降は、事実審理の過程において法律上の問題があるか否かの判断をするのみだと聞いております。

従いまして、本件事件の性質も踏まえますと、二審以降の判決においても、一審の判決が覆される可能性は非常に低いと当社は考えております。

--- 米国での判決は、基本的に米国内でのみ有効とされるため、 円谷プロの今回の声明は誤解を招くのではという声もありました。米国での判決が、世界的に効力を発揮するのかどうか見解を教えてください。

ご指摘のとおり、各国の判決の効力は各国内でのみ有効(一部条約国除く)です。

しかしながら、弊社が開催した記者発表等においても説明させていただいておりますが、米国訴訟における 証拠開示手続きの厳格性や公明正大さを鑑みると、今後、もし他国において同様の争いが生じた場合においても、同様の判断が下される可能性が高いと当社は考えております。

なお米国裁判所が「76年書面は真正な契約書ではなく、何ら効力はない」と判示したことが確認されたのは事実ですので、声明内容に誤解が生じる余地はないかと思われます。

--- 円谷プロがユーエム社側と裁判以外で話し合いの席を持ったり、和解に向けた交渉をしたりする予定はありますか?

現状の予定はございません。