アート&カルチャー
2018年06月20日 15時15分 JST | 更新 2018年06月24日 19時11分 JST

是枝監督が『万引き家族』で描こうとした世界 「多様な人がいるのが自然で、その方がいい」

「映画の世界でも実際の世の中でも、僕の価値観を体現した人ばかりが出てくるのは違うから」

HuffPost Japan

犯罪でつながった「家族」を描いた是枝裕和監督の『万引き家族』が大ヒットを記録している。第71回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受賞し、公開1週間で観客100万人を突破した。

是枝監督は、2003年公開の『誰も知らない』で、血の繋がった母親から捨てられてしまう子どもたちを描いた。2013年の『そして父になる』では、病院で赤ん坊を取り違えられた2つの家族が、「血のつながりか、ともに過ごした時間か」を迫られ苦悩する話だ。

今回の『万引き家族』が映し出すのは、また別の「家族のかたち」だ。是枝裕和監督はどんな思いで彼らの"絆"を描いたのか。

カンヌに飛び立つ直前、ハフポスト日本版の単独インタビューでこう語っていた。

カンヌ国際映画祭の審査員長を務めたケイト・ブランシェットは、2018年の同映画祭は「inivisible people(見えない人々)」がテーマだったと振り返った。

『万引き家族』は、まさしく日本社会の隅に置き去りになった人々を描いた作品だ。

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
映画『万引き家族』より

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

都会の片鱗にある、高層ビルに囲まれたボロボロの平屋で暮らす柴田家。

日雇い労働者の父・治(リリー・フランキー)、妻の信代(安藤サクラ)、女子高生の風俗店で働く亜紀(松岡茉優)、そして祥太(城桧吏)は、家の持ち主である、高齢の初枝(樹木希林)の年金をあてにして暮らしている。足りない生活費は万引きで賄う。世間では「犯罪者」として扱われる人々だ。

治と信代は、ある寒い夜、親から虐待を受ける近所の少女・ゆり(佐々木みゆ)をこっそりと家に連れて帰る。ここから、"犯罪でしか繋がれない家族"の物語が、少しずつ変化していく。

是枝監督によると、同作には"血の繋がり"について「10年間考え続けてきたこと」を込めたという。

「家族の繋がりって何だろう、という疑問を、いろいろなかたちで問いながら映画を作ってきました。『歩いても 歩いても』からちょうど10年くらい経ったけれど、血縁で繋がっていない"共同体"というのは、その頃から継続して考えているモチーフでもある。ここ10年くらいずっと自分なりに考えてきたことが、この作品でひとつになった、と思っています」

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
メイキング写真

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

血の繋がりがないと親になれないのか。家族とは何なのか。是枝監督が長年映画を通して問い続けているテーマだ。

2013年公開の『そして父になる』では、6年間育ててきた息子が出生時に病院で取り違えられた子であることが判明し、「血の繋がり」か「ともに過ごした時間か」のどちらが本当の家族なのか、という選択を迫られ、葛藤する親の姿を描いた。

『そして父になる』は「父親」に焦点を当てたが、今回の『万引き家族』では、「子供を産まずに母親になろうとする人」を描きたかったという。

「『そして父になる』では、父親はいつ父親になるのか、血の繋がりと時間はどちらが大事なのか、考えていました。あの時は、自分に子供ができて、『あれ、自分は父親になったのか?』と自問自答していた時期でもあった。自分のかみさんは確実に母親になっている。それは子供がお腹の中にいる10カ月の違いがそうさせるのか、とも考えていました」

「ただ、『そして父になる』を撮り終えてから、決して子供を産んだから母親になるというわけではない、と気づいた。子供を産んでも母親になれなくて苦しんでいる人もいれば、子供を産まなくても母親になろうとする人もいる。そこはもう少し複雑に見ていくべきだと思って、今回は『産まないけれど母親になろうとする人』を描こう、と思いました。『そして父になる』のあとに自分の中に出てきたテーマを、安藤サクラさん(信代)に重ねているんです」

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

安藤サクラは2017年6月に第一子を出産しており、復帰作となったのが『万引き家族』だ。

彼女の演技に感嘆したと話す是枝監督は、「よく引き受けていただけたな、という気持ちでした」としながら、「いいタイミングで役と役者が出会ったんじゃないかな」と感慨深げに振り返った。

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

犯罪でしか繋がれない"不完全"な家族。その関係は薄いガラスのように脆く、危ういが、彼らが過ごす日々はあたたかい。家族の間には、たしかに、かけがえのない"絆"がある。

その意味では、『そして父になる』の頃よりも、一層「血の繋がりだけが、すべてではない」との監督の思いが込められているようにも見える。

しかし是枝監督は、「血縁のない家族共同体は素晴らしい、と謳いあげる話ではない」と念を押す。

「この作品には、血の繋がりがなくても絆を作ろうとする人と、血の繋がりの方が強いんじゃないかと思いたい人、両方いる。樹木希林さんが演じたおばあちゃん(初枝)は、やっぱり血の繋がりがある方に期待をしてしまうというか、そんな簡単に血の繋がりを捨てられない、と思っている人だから」

「おばあちゃんが、自分の愛した男の息子(亜紀の父)の顔を見ながら『鼻が似ている』と言うのは少し気持ちが悪いし、それは彼女を幸せにはしないかもしれない。けれど、ああいう感情は、きっと死ぬまで捨てられないんです。いろいろな愛憎も含んでいてなかなか捨てられないし、血の繋がりに拘泥してしまう」

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

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何より、是枝監督自身も、「血の繋がり」にこだわってしまう一面もあるという。

「たとえば、『そして父になる』の状況を自分に置き換えた時、自分の内側を探ってみたら、『血より(共に過ごした)時間だ』とはっきり言えるかというと、そうではない。6年間育ててきた子供を手放したくはないけれど、血が繋がっているけれど会ったことのない子供に会わずに済むかといったら、やっぱり会いたいと思う。それは一体なぜだろう、と考えるんです。その実子に『会いたい』と思う自分を見つめていく、という作業こそ大事なんだと思います」

「血の繋がりを求めるのは、自分の中にある保守性がそうさせるのかもしれない。意識するしないに関わらず、『こうあってほしい』、『こうあるべきだ』という伝統的な価値観があって、それは自分の親が影響しているのかもしれないし、この社会で生きる上でそうなったのかもしれない。人間は保守的な生き物でもあるから、そこには目を瞑らないほうがいいだろうと思います。その保守性を否定した生き方を選んだりするのは可能かもしれないけれど、作品でそれを描こうとすると逆に嘘くさくなるんです」

(C)2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.

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『万引き家族』の中で是枝監督は、伝統的な家族観を否定することもなければ、そうではない考え方を賞賛することもない。また、誰かを「断罪」することもない。これは過去の作品でも同じだ。

『誰も知らない』(2004年)で、育児放棄をした母に対して、批判的な描き方をしなかったように、『万引き家族』でも、社会のひずみが生んだ"見えない"場所にいる人々と、彼らが直面する出来事をありのまま伝えるだけだ。

作品を通して明確な答えを示したり、「これが正しい」とジャッジメントを下したりすることはない。

「映画の世界でも実際の世の中でも、僕の価値観を体現した人ばかりが出てくるのは違うから。初枝のようなすごく保守的な人がいたり、そうではない共同体に希望を見出す信代のような人がいたり、何にも考えていないおっさん(治)がいたり...。そうやって多様な人がいるのが自然で、その方がいいと思っています。それを映画の中で描いているつもりです」

世の中や人の考え方は多様で、複雑で、一概に答えを出せるものではない。そんな思いが伝わってくる。そして、簡単に答えが出せない問題をどう捉えて、どう考えていくか。これは受け手側である私たちに委ねられている。

Photo gallery是枝裕和監督インタビュー / 『万引き家族』場面・メインキング写真 See Gallery

【訂正 2018/6/24】

当初の記事で、「おばあちゃんが、自分の愛した男の娘(亜紀)の顔を見ながら『鼻が似ている』と言うのは...」としていましたが、正しくは「おばあちゃんが、自分の愛した男の息子(亜紀の父)の顔を見ながら『鼻が似ている』と言うのは...」でした。お詫びして、訂正いたします。

万引き家族

監督:是枝裕和

出演:リリー・フランキー 安藤サクラ / 松岡茉優 池松壮亮 城桧吏 佐々木みゆ

緒形直人 森口瑤子 山田裕貴 片山萌美 ・ 柄本明 / 高良健吾 池脇千鶴 ・ 樹木希林

配給:ギャガ