アメリカンフットボールの日本大学の選手が、悪質な反則プレーで関西学院大学の選手にけがをさせた問題を考えるイベントが、6月22日に東京都内で開かれた。
メディアに関するさまざまなテーマでトークイベントを開催する「メディア分析ラボ」が、ライター・リサーチャーの松谷創一郎さんと社会学者の新雅史(あらた・まさふみ)さんをゲストに迎えた。大学教育の内情を知る2人が、「人々はなぜ日大に怒るのか」というテーマでそれぞれの立場から日大アメフト問題を読み解いた。
「自分の問題かもと思ったから、みんな日大を批判した」
新さんは、今回の問題が起きた背景には、生き残りをかけた大学間の競争や、我慢を強いる日本の部活動の体質があったとみる。
ここ十数年ほどで、スポーツ系の学部・学科を設置する大学が増え、ブランドづくりや学生獲得のための宣伝材料としてスポーツが利用されている。
「規模の大きくない大学が、積極的にスポーツを押し出していきました。それほど競技人口が多くない競技であれば、中小の大学にもチャンスがある。こうしてスポーツを用いたブランド力の向上という流れができたのです」
これに危機感を持ったのが、昔からスポーツ・体育に力を入れている日大だという。
「以前であれば、定員の多いマンモス大学には、有望なスポーツ選手が集まっていましたが、その構造が崩れてしまった。日大のスポーツ関係者が危機感をもったことは容易に想像がつきます。今回の事件はこうした文脈のなかで起きたわけです」
反則した選手は記者会見で、「監督、コーチからの指示に自分で判断できなかった」「やるしかないという状況だった」などと語っている。彼のようにスポーツで入学した学生は、母校との関係などから、指導者の言いなりになってしまうこともある。
「留年や途中退部すると、その高校からはもう推薦がこないので、迷惑をかけるなとか言われるわけですね。基本的に上意下達で言うことを聞かざるを得ない。(辛くても)大学4年間は我慢し続けないといけないと思い込まされてしまいます」
こうした「体育会系」風土の象徴として日大の問題が起きたと、新さんは指摘する。
「もしかすると、私もこうなったかもしれないとドキっとした学生や親は多いと思うんですよね。自分の問題かもしれないと思ったからこそ、みんな日大を批判して、出口を探しているところがあると思います」
「体育会系」の風土がなくならないのは、「我慢すればいいことある」という部活動特有の思い込みが原因だという。ただ、部活動が就職に有利に働くことがあるのも現実だ。
「長時間労働もいとわず、理不尽なことも聞く人が必要だと思う経営者がいたら、体育会系の人をとりますよね。だから世の中にブラック企業が生まれてしまう。やせ我慢したらいいことがあると思っている人が活躍する社会はまずいわけです」
️「スポーツ選手は勉強しなくていいという考えは、改めるべき」
一方松谷さんは、旧態依然の部活動の指導方法や、スポーツ・部活動だけをさせる日本の大学教育に疑問を投げかける。
「今回のアメフト問題や高校野球の無理な連投などもそうですが、スポーツとしてデタラメで、指導方法があまりにも時代遅れすぎる。理論に基づいた教え方のスキームがありません。また大学スポーツはあくまでも部活動なので、ちゃんと学業もさせるべきです」
アメリカの大学では、スポーツを統括する全米大学運動協会(NCAA)が学業優先の姿勢を打ち出しており、スポーツのトップ選手も学業との両立を求められる。NCAAが定める成績基準を下回ると、練習や試合に参加できないといったルールを設けている。
「例えば、日本で格闘家として知られるボブ・サップさんは、ダブルメジャー(2つの異なる専攻を学ぶこと)で社会学と薬学の学位を持っています。もともとアメフト選手として活躍して、けがでできなくなったので格闘技に転身しました。アメリカの大学はスポーツでは卒業できず、勉強もしないといけません。スポーツで入った人は、勉強ができなくてもいいという考えを持つ日本の大学があるならば、改めたほうがいいでしょう。そもそも、スポーツは頭を使ってやるものですから」
スポーツ庁は2018年度中に、大学スポーツの環境整備に取り組む「日本版NCAA」(仮称)の創設を目指している。今回の日大アメフト問題を踏まえて、学生スポーツや大学教育の在り方を変えることができるのか、取り組みに注目が集まっている。
松谷さんは、日本の教育全体に話題を広げ、こうも話す。
「いい中学、高校、大学を出たらいい人生という戦後日本社会で構築されたライフコースがかなり壊れているのに、制度は昔からあまり変わっていません。新卒一括採用も制度疲労を起こしています。そうしたところを変えて、少しずつとぎほぐしていくようなことが必要だと思います」