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2018年07月29日 06時49分 JST | 更新 2018年09月29日 06時51分 JST

エアコン代ようやく支給へ、熱中症を網戸で耐え忍んだ生活保護の現実

網戸からエアコンへ生活保護の大変革

Getty Images/iStockphoto

暑さ対策が網戸しかなかった生活保護の夏を変える、厚労省の画期的な通知とは(写真はイメージです) Photo:PIXTA

網戸からエアコンへ生活保護の大変革

 2018年6月27日、厚労省は画期的な通知を発行した。一言でいえば、生活保護世帯のエアコン設置・保有を「まったく問題ない」と認め、さらに保護費からの給付を可能にする内容だ。これまで、生活保護制度のもとで公認されてきた暑さ対策は、ほぼ、住宅維持費の一部としての網戸設置費用だけだった(本連載バックナンバー『生活保護での猛暑対策補助、「想定内」は網戸まで』参照)。

本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

 冷房器具がなく、あるいはあっても電気代の増加を恐れて使い控える生活保護世帯では、もともと夏に熱中症で倒れる事例が珍しくない。2018年夏は酷暑となることが予想されており、4月や5月には、すでに夏日や真夏日が見られていた。過去に例を見ない酷暑となりそうな2018年の夏がやってきたらどうなるのかは、想像してみるまでもなかった。厚労省保護課の職員たちは、健康被害や生命が失われる事態を避けるため、全力をあげて調整したのであろう。この点は、心から評価し歓迎したい。

 酷暑が続く今日このごろ、暑すぎる部屋の中で非人間的なガマンを強いられ、夜は眠れず、健康を損ないそうな生活保護の方々に、私は大声で「みなさん、エアコンつけられるってよ!」と叫びたい。もともと、社会福祉協議会(社協)の貸付による購入・取り付けは可能だったのだが、一歩前進、いや、歴史的な大ジャンプだ。

 生活保護のもとで耐久消費財の保有が認められる条件は、「その地域で70%の世帯が保有している」ということだ。冷蔵庫、洗濯機、カラーテレビなどの「三種の神器」をはじめとする多数の耐久消費財が、「70%」という基準により、世の中全体から少し遅れて、生活保護世帯にも認められてきた。しかし冷房に関しては、クーラーの保有が認められたのは1994年だった。

 この年、埼玉県の79歳の女性に対し、福祉事務所は既に設置されていたクーラーの取り外しを求めた。その夏、女性は熱中症で入院した。厚生省(当時)は同年9月になって、クーラーの保有を認めたが、あくまで保有することを認めただけだ。その後も、冷房機器の購入に関しては「妨害?」と勘ぐりたくなる状況が続いていた。

 2011年7月、厚労省はすべての生活保護世帯に対して、社会福祉協議会から生活福祉資金の貸付を受けてエアコンを購入することを認める通知を発行した。もちろん、貸付なので返済する必要があり、返済は保護費からの「天引き」で行われるのが原則だ。とはいえ、「最低限度の生活」の費用から天引きすれば、生活が「最低限度」以下になる可能性もある。また、エアコンに必要な電気代は考慮されていない。

 また、生活保護費から貯蓄を行い、エアコンを購入することもできる。生活保護費の用途は自由であること、貯蓄を行う自由もあることは、「中島学資訴訟」判決(2005年確定)など数多くの訴訟で認められている。エアコンを購入できないわけはない。

 しかし2016年以後、厚労省は生活保護世帯に対し、年に一度「資産申告書」を提出することを求めている。「貯蓄するな」「貯蓄ができるのなら、保護費は多すぎるということでは?」という暗黙のメッセージとも取れる。そもそも2013年以後、生活保護基準は引き下げられ続ける一方なので、貯蓄の余地が減っている。

 制度を文面どおりに「社協の貸付があります」「貯蓄して購入することはできます」と案内するのでは、まったく不十分なのだ。そして、それも認めない福祉事務所やケースワーカーが存在するという、残念すぎる現実がある。

 6月27日の厚労省通知は、それらの問題を、どのように解決したのだろうか。

どこでも誰でも「エアコンOK」厚労省通知の画期的な内容

 新規に生活保護を利用し始める場合、布団や冷蔵庫などの最低限の耐久消費財を対象とした「家具什器費」が利用でき、限度額は4万5800円(特別基準)だ。これまでは「新規」の場合に限定されていたが、6月27日の通知により、「新規」の場合に加えて、災害による被災や転居、犯罪被害やDV被害などの事情がある場合、すなわち、ゼロに近い地点からの再スタートを余儀なくされる場合が列挙された。生活保護での新規スタート、あるいは再スタートの場合には、生活費とは別に、必要な物品を4万5800円まで保護費で購入できるわけだ。

 6月27日の通知では、これらの事情がある場合に冷房器具の購入に対して5万円が認められ、さらに対象者は「熱中症予防が特に必要とされる者」と明記されている。厚労省が、熱中症を発症する生活環境は「健康で文化的」とは呼べないことを認め、生活保護費による対策の可能性を示した。このことの意義と価値は大きい。

 さらに設置費用は、各福祉事務所の裁量によって保護費でカバーされることとなった。これらの費用は、75%が国、25%が地方自治体から支出される。「国が費用面の責任の4分の3を背負うから、福祉事務所は現場で熱中症を予防するように」という厚労省のメッセージと取れなくもない。「やっと?」「今頃になって?」という溜息もこぼれるけれど。

 さらに念押しのように、暖房器具と冷房器具の併給を認め、「熱中症予防が特に必要とされる者」を高齢者、障害者、小児、難病患者に限定せず、福祉事務所が「健康状態や住環境等を総合的に勘案」することを求めている。また、熱中症予防が必要な時期も「総合的に勘案の上、判断」するよう求めている(実施要領の改定に関する通知)。

 つまり、どの地域の誰に対しても、「熱中症予防」の名目のもと、生活保護でのエアコンの保有と使用を認め、費用も出すということだ。この夏の酷暑は、健康な成人に対しても多大な熱中症リスクをもたらしている。「冬に寒い北海道だから、夏は涼しい」という常識も成り立たない。生活保護の運用は、現実に一気に歩み寄った。

電気代は自腹、前年度以前は適用外「エアコン問題」はまだ残っている

 とはいえ、問題は数多く残っている。エアコンの電気代は、引き下げが重ねられた保護費からのやりくりで捻出するしかない。また今回の通知は、新規に生活保護で暮らし始める場合、あるいは、生活保護で暮らしながらゼロに近い地点からのスタートを余儀なくされる場合に限定されている。たとえば、生活保護のもとで何回も何十回も暑い夏を耐え忍んできた重度障害者の住まいに、エアコンが取り付けられることになるわけではない。

 この通知は、7月1日付けの改正に関するものなので、本来は7月1日から有効になる。しかし、4月1日以後に新規に生活保護で暮らし始めた人、あるいは同等と認められる人にも遡って適用されることになっている。前年度以前に遡って財務省を説得するわけにはいかなかった厚労省の苦渋がうかがえる気はするのだが、「2017年度以前に生活保護で暮らし始めた人は、熱中症で倒れてもかまわない」というわけにはいかないだろう。

まずは通知の周知徹底を ケースワーカーが「知らない」では困る

 生活保護問題対策全国会議は、この通知について、7月26日に厚労省に申し入れと交渉を行った(要望書)。内容を要約すると、「実施機関(=福祉事務所)の柔軟な運用が可能であり必要であることを含め、改めて周知徹底を」「前年度以前に保護開始された方々も対象に」「エアコン修理費の支給(住宅修繕費)も可能ということの周知徹底を」「暑い日に実際にエアコンを使えるように、夏季加算の創設を」の4点だ。

 申し入れには、子どもがいる夫妻、施設を出て自立生活をはじめた障害者兄弟、母子世帯の3組の生活保護世帯から当事者が参加した。

 子どもがいる世帯の父親は、エアコンのない住まいの中で、障害のある小学生の子どもが毎夏熱中症でけいれんを起こして救急搬送され、1週間以上入院して治療を受けていることを語った。もちろん、その救急病院は生活保護世帯であることを知っている。毎夏のことであることも知っている。住まいにエアコンがないから、毎夏、子どもが熱中症でけいれんを起こすことも知っている。かかりつけ医療機関も知っている。父親はずっと、それらの医療機関から、エアコンの設置を勧められている。

 父親は、かかりつけ医療機関の医師から6月27日の厚労省通知を知らされ、福祉事務所でエアコンの取り付けを相談することを勧められた。しかし福祉事務所に行ってみると、担当ケースワーカーは「前年度以前から生活保護だからダメ」と断ったという。代々のケースワーカーは「貯金は禁止」と言い、社協の貸付があることは教えてこなかったが、今回の父親の相談を受けて、社協の貸付を案内したそうだ。ちなみに福島県相馬市は、厚労省の今回の通知を受け、昨年度以前から生活保護を利用している世帯・高齢者がいる非課税世帯に対しても、独自にエアコン設置費用の助成を開始している。

 障害者の兄弟は、担当ケースワーカーに今回の厚労省通知について相談したところ、「ウチではやってない」とアッサリ言われたとのことだ。

 母子世帯のシングルマザーは、そもそも子どもが夏休みであることによる生活の苦しさを語った。夏休みということは、子どもの学校給食がないということだ。住まいにはエアコンがあるのだが、使えば電気代が必要になる。とはいえ日中、エアコンを使わないわけにはいかない。彼女は、「子どもたちと弁当を持って、一家で冷房のある公共施設に行き、昼間の時間を過ごしてくる」などの工夫を重ねている。

 しかし、たとえば台風接近で公共施設が利用できない日には、それも不可能だ。自分たちの住まいでエアコンを使って暮らすためには、どうしても電気代の増加を考慮した費用が、別途必要になる。生活保護の生活費は、夏のエアコンの電気代を想定していない「最低限度」だからだ。

「健康で文化的な生活」はエアコン設置でもたらされるか

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 とにかく、生活保護の住まいには、エアコンを設置することができるようになった。費用が生活保護費の家具什器費から出るのか、あるいは社協の貸付を利用することになるのかはともかく、「エアコンの設置ができない」という場面は、基本的に存在しなくなった。

 とはいえ、老朽民間アパートであることが多い生活保護の住まいでは、エアコンを使用すれば、電気代が多大になるだろう。ゆくゆくは冷房費補助(夏季加算)の検討が必要であるはずだ。

 本質的に解決すべき問題は、生活保護が「健康で文化的」な生活環境を保障できていないということだ。健康や生命に危険が生じるような生活環境、電気代節約のために日中は住まいにいられない生活環境は、誰に対してもあってはならないだろう。日本のすべての人々の「健康で文化的」な暮らしのために、まずは「生活保護のお宅にはエアコンがつけられます」ということを、日本のすべての人々に知ってほしい。

(フリーランス・ライター みわよしこ)