NEWS
2018年08月30日 11時59分 JST | 更新 2018年08月30日 12時27分 JST

電気止められ、熱中症で札幌市の女性死亡 「環境問題は格差問題だ」と専門家

東大・橋本英樹教授が問いかける、ライフラインの公益性とは。

AFP/Getty Images
イメージ写真

猛暑が日本全国を襲った2018年の夏。

札幌市西区のマンションの一室で7月29日、女性が熱中症で亡くなった。その日の札幌市の最高気温は31度だった。

女性は一人暮らしで生活保護を受給していた。部屋にクーラーや扇風機があったが、電気料金を滞納していたために5月上旬から送電は止められ、使える状態ではなかった。

札幌市西区は、生活保護受給者との面談を3カ月に一回と定めていたが、実際に訪問していたのは1月30日が最後。西区の保護二課によると「ケースワーカーが多忙で手が回らなかったことも要因の一つ。相談があれば、熱中症の予防や未払い解消に向けて助言できた可能性がある」と説明している。

この事態に、「懸念していたことがまた起きてしまった」と話すのは、東京大学大学院医学系研究科の橋本英樹教授(公共健康医学)。自治体だけでなく、電気・水道といったライフラインの公的責任についても、もう一度考え直すべきだと訴える。

Yuriko Izutani/HuffPost Japan

ーーこの件をどう見ましたか

懸念していた事態が性懲りもなくまた起こってしまいました。

札幌市では2012年の1月にも40代の姉妹が亡くなっています。料金滞納で電気とガスが止められており、姉は脳出血、知的障害のある妹は凍死でした。さらに、その翌月にさいたま市でも60代の夫婦と30代の息子が、布団の上で餓死、凍死しているのが見つかりました。この家族も料金滞納で電気やガスを停止されていたことがわかりました。

さいたま市では、この事件などをきっかけに、電気・ガス事業者や新聞配達の人々などと行政が連携して、命を守る取り組みが始まりました。料金を滞納している、新聞が溜まっているなどの情報から、住人の異変を早期に発見するためです。これは「さいたまモデル」と呼ばれ、その後は孤立対策に成果を挙げています、全国で取り組む自治体も増えています。

しかし、自治体の対策と並行して、ライフラインの公益性についても、もう一度考え直す必要があります。電気や水道といったライフラインは文字通り、生活の必需品。今年の夏のような気象条件の下で止められたら、死んでしまいます。

ーー厚生労働省は今年、熱中症対策のため、生活保護世帯が冷房を新規で購入する場合に上限5万円の助成をすることを定めました。

それも重要ですが、今年のような猛暑で推奨された「クーラーを一晩中つける」という方法をとったら、月に1万5000円近くかかるのではないでしょうか。冬期加算には措置がありますが、夏にはない。生活保護の方に、その電気代が果たして払えるのか。

今年の猛暑は日本だけではありません。世界規模の気候変動が起こっています。WHOは「気候変動は格差問題だ」とハッキリと言っています。

異常気象が引き起こす自然災害は、弱い人たちがより大きな被害を受けるからです。例えば、土砂崩れなど豪雨災害の危険性の高い地域の一部は、元々地価が安いなどの理由で、比較的貧しい人々が住むようになった歴史があります。

親や先祖の収入や身分などの社会・経済・政治的状況によって、人々が安全で健康に暮らせるかどうかが左右されているんです。

ーー確かに、今年問題になった小学校の熱中症でも、教室にクーラーをつけられた自治体となかった自治体があることがわかりました。それも地域間格差と呼べるかもしれません。

社会格差によって引き起こされている健康格差には、政府が対策に取り組むべきです。そうでないと、身を守る資源を持てていない人が犠牲になる。それがまさに今年の猛暑で顕在化したのではないでしょうか。

料金を滞納したら事業者は電気や水道を止めてしまいます。それは一見、当たり前だと思われていますが、異常気象の下では命にかかわる重大な事態になります。

さらに、日本では電力自由化が始まり、水道を民営化する案も浮上しています。こうした自由化・民営化が進むと、「民間同士の契約だから」と、ライフラインの公益性が今よりもさらに重視されなくなる危険性があります。

ーーどんな対策が必要でしょうか。

この危険性を食い止めるには、自由化・民営化に関してはずっと先を行くアメリカの事例が参考になります。2013年の私たちの調査では、50州のうち37州で、料金滞納があっても、一定の気象条件や本人の病気などがあれば、電気やガスなどのライフラインを事業者が勝手に停止することは規制されていました。

特に、厳冬にさらされるウィスコンシン州では手厚い対応が行われていることがわかり、私達もシンポジウムウェブサイトで情報を発信してきました。

きっかけは1974年2月、ガスを止められた72歳の男性が凍死したことに対する抗議活動でした。その後、規制ができたにもかかわらずガスが停止された家庭で、ヒーターで暖を取ろうとした子供たち6人が焼死する事故があり、規制はさらに厳しいものとなりました。

ーーアメリカでそのような規制があるとは意外でした。

政府がライフラインを市場に丸投げしてしまい、公益性を担保する措置がないとしたら大問題です。命が危険にさらされる真夏や真冬には、料金滞納があっても電気やガスを止めてはならないという規制を日本でも設けるべきです。

異常気象という社会リスクから、人々の健康を誰が守るのか。環境という新しい社会の健康リスクに、われわれ誰もが直面しているんです。