「誰もをカリスマ・天才と褒めるムードはバブル崩壊より怖い」 作家・真山仁が日本経済に警鐘を鳴らす理由

大人気小説・ハゲタカシリーズから浮かび上がってくる日本の課題とは。
真山仁さん
真山仁さん
Jun Tsuboike

ドラマ、映画化もされたベストセラー経済小説『ハゲタカ』シリーズで知られる作家の真山仁さんが、ハフポスト日本版のネット番組「ハフトーク」に生出演した。真山さんはハゲタカシリーズ最新作『シンドローム』を上梓したばかり。最新作に何を込めたのか?

最新作の舞台は日本、それも2011年3月11日以降の日本だ。東北地方を襲った東日本大震災、原発事故が真正面から描かれる。主人公で投資ファンドのサムライ・キャピタルを率いる鷲津政彦は、原発事故により株価が暴落した「首都電力」の買収に乗り出す。買収はうまくいくのか、そして鷲津を通して見えてくる日本の問題とは——。

重層的でありながら事象の本質に迫るエンタメ小説。これを読むと誰もがあの日を思い出す、そんな作品に仕上がっている。

シンドローム
シンドローム
ハフポスト日本版

真山さんの作品を貫く大きなテーマの一つにエネルギー問題がある。代表的な作品は、福島第一原発事故を予言していたとも語られる『ベイジン』、そして地熱発電の可能性を追求した『マグマ』だ。

今作は代表作ハゲタカシリーズで真正面から原発、エネルギー問題を取り上げた。大きな軸が2つクロスする。

《ハゲタカはいま歴史小説として読まれています。小説のなかに日付や場所をいれているんですが、ほとんどの人が自分の人生とリンクさせて読んでいるようです。

小説では現代史を5年くらい遅れて描いています。5年くらいたつと自分がいると渦中にいたことを客観視できるようになる。

日本を覆すような災害を経済の目でみるとどうなるか。日本の電力会社の弱点、原発固有のリスク、そして日本社会がパニックに弱いことがわかってきます。僕が小説で取り組んできたいろいろな挑戦が一つに集約された小説だと思います。》

真山さんは実はハゲタカシリーズとエネルギーをテーマにした経済小説では読者層が違うという。

《僕の読者でもハゲタカシリーズを読む人は他の小説はあまり手をとってもらえない。逆にエネルギー系の小説を読む人はハゲタカは読まない。この小説で別々のファン層がつながるんです。

元々、読者層が違うのでいろいろな感想がわかります。Twitterなんかで一番嬉しい感想は、「あの当時、何が起きているかわからなかったけど、これを読んでわかった」という感想です。

これは僕が小説という形で社会問題を書いている理由なのですが、ノンフィクションでは重要な証言があって、それが真実かもしれないと思っても、もう一つ何か裏付ける証拠がないと踏み込めない。

小説ではフィクションという形で想像力で真実を探していくことができます。読者も事故の現場であったり、買収の現場に入っていける。ここが重要なのです。》

ハフトーク
ハフトーク
Jun Tsuboike

真山さんの小説には常に「ありえない」という批判が付いて回る。今回で言えば、事故を起こした東電を買収する投資ファンドなんて「ありえない」。『ベイジン』の時に人々が「あんな形で原発が事故を起こすなんてありえない」と言ったように。

《電力会社を買うなんてありえないと言われることもあるのですが、それを小説家に言うのは愚問ですよね。

M&Aの最大の理想は、研究開発費がいらなくて、毎日売れて、消費者の手元に届いて、消費されていく(ものやサービスを作っている)企業だと言われています。電力会社は理想的な企業なのです。

普通は買えないけど、震災のとき東電の株価はものすごく下がったんです。このタイミングなら買えたという形で話が進んでいきます。

「ありえない」というのは「お日様が西から昇ってくる」くらいなら言ってもいい。大半の人は「ありえない(に決まっている)」という意味で言ってますよね。小説では「(に決まっている)」を取りたいんです。

ありえないを外すことで、我々の生活のなか"If"を入れたい。もしかしたらこうかもしれない、という選択肢を入れたいんです。》

主人公・鷲津は「資本主義の寵児」として颯爽と登場した。強弱がはっきりする資本主義のなかで、ドライで合理的に勝負に徹するダーティーなヒーローとしての魅力があった。しかし、いまの日本はどうだろうか。鷲津的な日本人が増えてはいるのではないか。

《日本が資本主義化してきてるということですよね。アメリカからビジネスを学んだ人からすると、鷲津的な考え方は普通です。

かつて日本では、成功しているとかお金を持っているのは、年をとっているということでした。いまの日本では、若い成功者がどんどんでている。20代、30代でお金持ちがたくさんいる。

彼らは目立ちたがり、自慢したがりですよね(笑)。そこが資本主義化しつつあるということ。もっと強い資本主義だと成功者は目立たないんです。

あと資本主義が強くなると、もっと貧困層も増えていきます。日本でも貧困が問題になっていますが、もっと増えます。ここで日本は考えないといけないのです。世界にあわせた資本主義化に舵を切るのか、日本的な弱い人をすくいながら、賢くお金を儲ける日本ならでは資本主義を作るのか。

おそらく、このままいくとアメリカのような資本主義になります。選択をしないままにですね。》

選択肢はあるはずだし、実は示されているのに、選択をしないままズルズルと流されていく。

それに加えて、真山さんはいまの日本社会で気になることがあると述べる。SNSのムードだ。

《いまは(起業家や投資家を)すぐ天才、すぐカリスマと褒める。カリスマ、天才のインフレが起きています。あれは褒めている「俺も天才」「俺と一緒」と言いたいということですよね。

そこに乗っかりたいというのはムードなんですよ。ムードはいっときの高揚感はもたらしてくれますが、ムードに流されると本質が消えていくんです。これはバブルが崩壊するより悪いことかもしれない。

いまの日本は非常にリスクが多いんです。古い会社はダメになり、それでも反省がない。自分たちのなかで「こうだ」と思っていることが溶けている。今こそ、見たくないものを取り上げて、なんとかしないといけないと思うんです。》

ハフトークではハゲタカ次回作の構想も明かされた。舞台はフランス。アメリカとはまた違う論理の国のなかで鷲津もまた意外と苦戦しそうだ。

《フランスはアメリカ、中国と並んで世界3大中華思想の国だと僕は考えています。ここでいう中華思想というのは「世界の中心=俺たち」という発想ですね。

フランスは自分たちが中心だと思って、独自の経済や文化がある。そこで鷲津がどのように戦っていくのか。意外と苦戦するかもしれない。》

「鷲津さんとは棺桶まで一緒」とまで語る真山仁のハゲタカシリーズは、まだまだ終わらない。

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