原材料は、なるべく安く仕入れる。
海外で生産し、人件費をカットする。
業務を改善して、生産コストを削減する。
これらは、日本では当たり前になっているビジネスの"常識"だろう。でも、もしかしたら"常識"がいま多くの大企業が行き詰まっている原因なのかもしれない。
イギリス発のコスメメーカー「LUSH」は、"常識"とは真逆のアプローチで成長を続けている。22日には、世界初となるバスボム(入浴料)のコンセプトショップ「LUSH 原宿」を、東京・渋谷にオープンする。
LUSHは、なるべく地球に優しい材料を使い、地元で工場を作り、ハンドメイドで化粧品を作っている。同社にとって原材料の調達は、環境問題などの社会問題を解決する手段でもある。
どうすれば経営と理念は両立するのか? 会社の成長が、環境の再生につながる仕組みとは? 創立者のマーク・コンスタンティンさんの長男で、グローバルの原材料調達を統括するサイモン・コンスタンティンさんに話を聞いた。
「サスティナビリティ」という言葉の罠
――環境保護の視点では、「持続可能」という言葉がありますが、LUSHの大切にしている「リジェネレーション(再生可能)」は「サスティナビリティ」(持続可能性)とどう違うのでしょうか。
リジェネレーションのコンセプトはちょっと複雑で、まず自分自身がこの考え方を理解するのに7~8年かかっています。
一番簡単な例として挙げると、最近インドネシアのスマトラにある「OICインフォメーションセンター」の土地を購入しました。キャンペーンを実施して資金を集めて買ったんです。
その土地は、以前は熱帯雨林帯で、野生のサイやゾウなど熱帯雨林に生息するあらゆる種がいたんですが、業者がやってきて木々を伐採してパームオイルの生産地にしてしまったんですね。
サスティナビリティという視点では、アブラヤシに肥料にして、パームオイルを育て続ければ、ある意味、持続可能な状態を続けることはできるんです。"サスティナブルなパームオイル"といわれる生産物になります。
今まではそれで良かったのかもしれませんが、それ以上のことをやらねばいけないときが来ています。
本来のサステナブルは、同じレベルをキープすることではありません。生命に繁栄する機会を与えるということ。自然がやっていることを模倣しなければいけない。(生命が)繁栄して、その環境に適応して生きていくチャンスを与えなきゃいけないんです。
私たちにとって現実的な未来は何かというと、「リジェネレイティブ」(再生可能な)という考え方だったんです。常に変わっていって成長する。そこに価値があるという考え方です。この言葉は、たくさんの機会や伸びしろに気づくきっかけになりました。
――「サスティナビリティという言葉の罠」についても過去にお話されていました。ずっと変わらない状態が持続できるだけでは発展とはいえない、ということでしょうか?
サスティナビリティという言葉が、安易にいろんなプロジェクトやCSR、マーケティングに使われるようになって、だんだんと本来の意味を失っているんだと思います。
これまで30〜40年の間、「地球のために、サスティナビリティを」と世界中で唱えられていますけど、良い結果をもたらしているとはいえません。
原材料の調達で、社会的なインパクトを出す
――世界的なコスメメーカーのLUSHが、自然を大切にした商品を作る。やはり、同業他社に比べて原材料のコストがかかりますよね。生産コストについては、どう考えているんでしょうか?
バランスですよね。片方には、理想とか倫理観があって、もう片方には実際に買えるかという問題があります。ただその際に、リジェネレイティブの考え方を持っておくことこそが大事だと思っています。
リジェネレイティブには、変化をしながら適応し続けていくプロセスが含まれます。改善のアプローチを学んで、だんだん良くしながらプロセスを進めていくことです。
学んで、やり方を改善して適応して、利益が出来るようになって、販売も成功するやり方が出来るようになって、倫理的にも正しいことが出来るようになって、質が良くなる。それをどんどん積み重ねていくことですね。
良い質の物を作るようになったら、それが利益に繋がり、また良い原材料を買える......。良い循環が生まれます。最終的には、Win-Winの関係になります。
――「安ければ良い」から脱して、リジェネレイティブな視点で生産プロセスを見直すためには、どこから始められますか?
例えば、プロセスの中で、バリューの低いものを排除して、良いものと代えることができるんです。バリューが低いというのは、環境に良くなかったり、みんなの考え方、魂、感性に訴えかけなかったりするものです。それらを取り除いて、代わりにもっと良いものをやっていくことです。
例えば、さっきのスマトラの話は、マーケティングのプロモーションツールとして考えることもできるんですけど、そうではなくてもっと大きなことなんですよ。
私たちが長い間、地元の人たちと関係を築いて成り立っているものです。商品を売るためだけの絵空事というわけではない。ただの契約ではなくちゃんと中身があるものなんです。
――まず環境問題などの社会問題を解決するというビジョンがあって、そのために事業があるのでしょうか。
全体としては「良い人が良い事をする」という理念に基づいてやっています。
有機的なビジネスなのでオーガニックに成長していきます。事業が明確なときも、ビジョンも先にあるときもあります。うまくタイミングが合わなければ、じっくりと機会を待ちます。その機会は突然こちらに向かってきます。
――あくまで、事業の成長は最優先ではない。
例えば、LUSHは「動物実験反対」を最初から強くうたっています。
(原材料を仕入れる)私たちバイヤーチームも、その強い倫理観を持って動いています。そうなると、動物実験反対を厳しく守るために、商業的な成長を制限してきた部分はたしかにあります。それがLUSHらしい例ですね。
※化粧品を中国に輸出する際は、中国国内の試験機関での動物実験が必要になる。ビジネスマーケットが大きくても、LUSHがビジネスを展開していない理由だ。
ハンドメイドか、機械化か
――自社の利益や短期的な目標達成が優先されていて、多くの日本の企業は行き詰まりを迎えています。生産コストを抑えることや売上を上げることは、無条件に良いこととされている部分があります。経営に足りないと感じる視点はありますか?
価値があるかどうかは、気を付けなければいけないところですね。
私たちは、上場していない家族経営でやっている会社なので、非常にラッキーなことに、長期的な視点でプランを立ててビジネスできる環境にあります。
もし、日本のやり方をLUSHに持ち込もうとしたときに、今はハンドメイドですけど、それだと時間とコストがかかりすぎるので、すべてをマシンに置き換えることは、みなさんが容易に思いつくことだと思います。
ただ、私たちの店舗は、一番の売りとしてハンドメイドを大きく謳っていますし、私たちがやりたいことは、良い仕事をしてくれる人を雇って、その人達がマシンに代わる仕事をちゃんとできる状態を確保することなんです。
短期的に見ると馬鹿げたことに見えるかもしれません。でも、私たちが分かったのは、私たちのビジネスモデルの方がエキサイティングなことができる、ということです。
例えば、私は2カ月前からイギリスを離れて長期の旅をしていて、その間に新商品を開発しました。昨日、日本のチームでその新商品が"初お目見え"しました。
すごく素敵な商品だったんですけど、機械で作るものとは、全く違うものができました。機械なら、完璧な球体を作って、プレスして、同じものをどんどん作る。新しい機械を入れて終わりになるはずです。私たちの新商品は、全部が違う形で、大きさもバラバラだったんです。
私たちは、安いものをどんどん安く作るよりも、作っている段階からワーッと興奮できる商品を作る。そのワクワクがお客様のところまで届く。それが最終的に売上の向上に繋がるんです。
自然と比較をするのが好きなんですけど、例えばリンゴの木があったとして、その木は時間が経つほど、老いていくほど、もっと実がなるようになります。
たくさんの実がなると、もっとビジネスができます。より少ないものを求めていくとビジネスが死んでしまいます。ビジネスは自然と同じで、健康でなければ続けていくことが出来ません。
――原材料の調達を通じて、渡り鳥の生息地を保護する「渡り鳥プロジェクト」もグローバルで推進しているそうですね。
これも自然発生的に発生してしまったもので、私たちも学びながら進めているところなんですけど、両親は余暇にバードウォッチングするのが大好きで、イギリスで鳥類の保護のチャリティーもしてるんですね。
人生でずっとバードウォッチングをしてきた両親が気づいたのは、鳥が少なくなっているということでした。特にヨーロッパとイギリスで。問題の理由のひとつが、回遊する渡り鳥でした。
今ヨーロッパで非常に大きな政治的問題になっているのが人々の回遊です。難民の人々が移動して生活することが問題となっています。
もしあなたが渡り鳥で、地図がここにあるとしましょう。興味深いことに、アフリカとヨーロッパの渡り鳥の経路(航路)と、難民の方が移動していく道を地図上で重ねると、ほとんど一緒になります。
ここでもまた「エコロジーに良いことは、人にも良い」という考え方に戻るんです。
――「LUSH SPRING PRIZE」(ラッシュ・スプリング・プライズ)という基金も設立されています。
スラッシュファンドというLUSHの基金があるんですけど、サステナブルな生産者コミュニティを支援する意味で作りました。
パーマカルチャーのムーブメントの台頭もあります。日本にも福岡正信さんという方がいらっしゃいましたが、(彼の提唱する)自然農法がパーマカルチャーの考え方に近いと思います。
より生物の多様性を保って自然環境の維持をしながら農業をしていくための、エコロジカルな新しいタイプの農法だと私たちは理解しました。
そういう農法を取り入れている小さなグループを支援して、ときに彼らの生産しているものを私たちの商品の原材料として買ったりしています。その材料のほとんどはチャリティーポットの原材料になっています。
色んなコミュニティを支援しています。
(創業者の)父に相談して、私達から団体を探していくだけではなくて、プライズを設けて、私達が知らないまま埋もれている小さな団体が応募をしてきてくれたら、そこに資金を提供することができるのではないかと。そんな風にして始まりました。
「LUSH SPRING PRIZE」作ったことで、リジェネレイティブな活動をしている方を見つけて、その人達を支援することで、繋がっていくことが出来るようになります。
5つの分野の合計で20万ポンド(約3000万円)の寄金を提供しています。2018年はニカラグアやアルジェリア、世界中のプロジェクトが集まりました。
――結果的に、コミュニティづくりにもなっているのでしょうか?
リジェネレーションの面白いところなんですけど、コミュニティとエコロジーが相互に絡み合い繋がっているんです。コミュニティを正しいかたちで支援すれば、エコロジーもキチンとサポートすることが出来る。その反対も同じですね。