これからの経済
2018年12月11日 08時11分 JST | 更新 2018年12月11日 08時11分 JST

「編集力」がビジネスを強くする 「DEAN & DELUCA」が日本展開15年で学んだこと

代表の横川正紀さんが、挫折の先に見出した“勝ち筋"とは…?

食のセレクトショップ「DEAN & DELUCA」が日本上陸15周年を迎えた。ニューヨーク発のショップを「直輸入」して展開した最初期はまったく売り上げも伸びず、撤退も視野に入っていたという。それがなぜ継続できたのか。良質の食とビジネスを両立させたキーワードは「日本化」だ。

国内展開を担当する株式会社ウェルカム代表の横川正紀さんが語る食とビジネスの未来像とはーー。

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代表の横川正紀さん

DEAN & DELUCAは2人の創業者の名前だ。原点は45年前のニューヨークに遡る。当時、30歳だったジョルジオ・デルーカはイタリア系で自分が慣れ親しんだ本物のイタリア食材をニューヨークの人たちに伝えようと、小さなチーズ専門店を出した。これが評判を呼んだ。

店に通っていた、ジョエル・ディーンと意気投合し、チーズ以外のイタリア食材も展開しながら事業は広がっていった。

大事なのは彼らは最初から拡大を狙っていたわけではないということだ。彼らが第一に考えていたのは「地中海気候の風土の食文化を伝えたい」という精神だったという。

やがて「食の美しさが人の生活を豊かにする」と信じていた日本人がDEAN & DELUCAに出会う。横川だ。

彼の父はファミリーレストラン「すかいらーく」創業者である。外食の次は中食の時代だという考えは父とも共感し、食のビジネスに飛び込んだ。それまでインテリアを中心にライフスタイル事業を手掛けていた横川が、DEAN&DELUCAの日本展開に挑んだ。しかし、展開開始早々、頭を抱えることになる。

当時再開発がはじまったばかりの丸の内や品川に出店し、ニューヨークのSoHoで見たままのお店を作ろうと意気込んでいた。

《最初は全部、直輸入でした。空間もそのままに、POPまで全部英語でやってみたり、お魚も丸のまま並べたりね。スタイルで売っていたけど、誰も買わない。いけすで売っていたカニが、いけすから脱走したり......。まぁいろいろ失敗しました。

3年目くらいで限界を感じ、方針の転換を迫られました。アメリカを模していてもうまくいかない。

どうしたらいいのか、思い切って創業者に相談にいきました。》

横川はそこで、創業者の精神に触れる。原点は店ではなく、生産者にあること。生産者の思いに触れなければただの真似でしかないことを学ぶ。

《そこから、さらに3年くらいですかね。ヨーロッパ各地を回って生産者の家に泊まり、彼らと酒を交わし、現地でどうやって食べているのか、生産者は何を大事にしているのかをとことん学ぶわけです。

先祖代々の作り方に触れていくうちに、あれ、これって日本にも通じるものがあるなぁと気付くんですよ。彼らはオリーブオイルも生ハムも希少なものだけど、自分たちが誇りを持って作っているものだから、どんどん食えって勧めてくれるんですよ。

生産者は食を楽しんでいるのが印象的でしたね。

考えてみれば、創業者はアメリカで本物の食文化を伝えようと思って、事業を始めているわけです。僕が真似していたのは精神を抜いた表層的なものだった。

僕たちはそれがかっこいいと思ったことがきっかけではあったけれど、自分たちの足元である日本にも素晴らしい食文化がある。それを伝えていくのがDEAN & DELUCAの本質ではないのかと気づいたんです。

作り手に近い市場巡りを体験できるように、都市生活にあわせて使いやすいように、「編集」して届けていくことが大事なんだと。しっかり食文化を伝えるという精神を大事に事業を展開すれば、当然だけど日本語で丁寧なPOPを作るし、日本の食材も使うことになるわけです。》

例えば、いまの店舗には「佃煮」が並ぶ。最初はDEAN & DELUCAに日本食が並んでいる自体が似合わないことだと思っていたが、似合わないと思うこと自体が間違っていたのだと横川は気付く。

「佃煮」の生産者が新米と一緒に食べてほしい、それが美味しいだろうと誇りを持って語ること。それはヨーロッパ各地の生産者と同じなのだから。

《力が抜けてきて、日本の食卓にあるものを大切にしようと思ったら、なんと売り上げが伸びてくるんです。

撤退寸前までいったのに、回復してくるんですね。自分たちの足元に何があるのか、それをどう伝えていくのか。本質を大事にしようと思ったらうまくいきはじめたんです。

もうアメリカをモデルにしてどうこうという時代ではない。もっと自分たちが大切にしたいことを、生活に取り入れやすいように編集し、届けていく。

例えば海外から輸入したものをそのままどうだという形では売らない。調味料なら使い方や楽しみ方を店舗はもちろんイベントやウェブなどでも提案する。そこまでが僕たちの役割なんです。》

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店内に並ぶ日本産食品。

2017年9月、横川は赤坂にレストラン「THE ARTISAN TABLE・DEAN&DELUCA」をオープンさせた。1階・2階で異なるスタイルの料理を提供するほか、ワイン生産者やうつわ作家など、作り手をゲストに招いた食のイベントを開催している。それもライフスタイルまで含めて、「編集」した形を提案するためだ。

横川は、DEAN & DELUCAを「ありそうでない店」なのだと語る。小売、惣菜などの中食、バー、製造――がすべてある。

人材の採用も「ありそうでない」ものとなり、「仕事ができる人」より「好きな人」という観点を大事にする。

《前職の経験がそのままという業種の店ではないのです。そのまま同じ業態は存在しません。

例えば、パティシエをやっていた、ソムリエをやっていたという経験は素晴らしいんだけど、その横に多くの他の食材と共に並ぶのがうちの店ならではです。展開の仕方も変わるのです。

基礎を大事にして、変化させること。それを受け入れられる人と仕事をしたいんです。変化の先にあるのは、自分たちがDEAN & DELUCAでやろうとすること、やるべきことです。

前例がない業態だから、前例がないことに挑戦する人がいい。前職のプライドはどっちかというと邪魔になることが多いですね。そこにとらわれるよりは、経験がなくても好きだからやりたいという人のほうが、うちにはマッチします。 

好きなことが近いと、その人のために頑張れますよね。

ワインが好き、料理が好き、コーヒーが好き、食べるのが好き、ホームパーティーが好き。我々は感性の共鳴と呼んでいます。「好き」を共有できる人と変化を楽しめることが大事なんです。

こだわりは一点だけでなく、人とつながり横に広げてほしいんですよ。》

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横川正紀さん

かつて自分たちが本国の直輸入というスタイルにこだわり失敗したことを横川は覚えている。もう一つ、大事にしているのが継続だ。

《DEAN & DELUCAはもう40年以上ニューヨークで続いています。山を登るのに、勢いだけで一気に登るというビジネスもあるけど、僕が大事にしているのは続けること。

山を登るにしても、10分の1ずつ10年かけて登っていくほうがいい。勢いだけで登っても、ただ自分たちだけで登っているようで、文化ってそういうものじゃないでしょって思うんです。

日本でも15年かけてやってきたことを30年、50年と続けていけるようにしたい。次の事業展開は? ってよく聞かれるんですよ。その度に僕は創業者の理念を大事にして、次につながるならなんでもいいって答えているんです。

店舗としてコンビニみたいに利用できる小さな店があってもいい。僕たちが大事にしている食材を使うホテルやゲストハウスもいいかもしれない。

本質さえつかんでいれば、事業は展開できる。世界中で良い食材を真面目に作っている生産者がちゃんと評価されて、彼らのやりがいやチャンスにつながる。そういうビジネスでありたい。》

悪貨が良貨を駆逐するのはいつの時代も一面の真理だ。だからこそ、真っ当な生産者が損をするビジネスではない形を模索したいと横川は強調する。

《オーガニックだから良いんじゃなくて、真っ当に作られた生産者の商品だから良い。

食卓のすべてが、良いものばかりじゃなくてもいいけど、良いものを知り、楽しむ時間がちょっとでもあったら豊かな時間が過ごせるんじゃないかぁと思うんです。

そんな価値観を根付かせたいですね。食の持っている魅力をとことん提案ができる場所であり続けたいと思ってます。

もちろん40年、50年ずーっとです。》