"クチュ"とは、ウガンダでは"オカマ"や"ヘンタイ"を意味する。
ドキュメンタリー『Call me Kuchu ウガンダで、生きる』(2012年)の舞台となったウガンダでは、植民地時代から同性間の性的関係が違法とされてきた。そのため、これまでも、ゲイ、レズビアン、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックス(LGBTI)の人びとは差別に晒されてきた。
2009年、状況をさらに悪化させる事態が起きた。議会で反同性愛法案が提出されたのである。それ以後、より激しい反同性愛キャンペーンが始まった。
映画の中で、同国で初めてゲイであることを公言したデイビッド・カトーは、議会に提出された反同性愛法を阻止し、ウガンダ中の"クチュ"――LGBTIの人びとの権利のために奔走する。「私たちはここにいる、私たちは、ここで、生きている」と。
友人や母を思いやり、ジョークを忘れず、そしてオシャレも忘れないデイビッド。重いテーマなのに、彼のやさしさや周囲の人たちのユーモアが作品全体に溢れている。しかし、地元新聞に彼らの実名や顔写真や住所が掲載され、差別と憎悪がさらに煽られていく......。
このドキュメンタリーは、来年1月に開かれる「アムネスティ・フィルム・フェスティバル」で上映される。上映後は、トランスジェンダー当事者の遠藤まめたさんのトークイベントも予定している。
映画は、法律が可決・施行される前の2012年に完成した。その後、2013年12月に法案は議会で採択され、その直後には、大統領が署名しないよう訴えるキャンペーンが全世界的に起こった。しかし大統領は耳を傾けることなく2014年2月に署名したのである。
法が施行された3月から現在までの間に、LGBTIの人びとへの差別や暴力は悪化している。警察による逮捕や嫌がらせのほか、性的指向や性自認の疑いを根拠に仕事を解雇されたり、住んでいる住居から追い出されホームレスが増加しているという。少なくとも一人のトランスジェンダーが、ヘイトクライム(憎悪犯罪)によって殺された。
また、LGBTIの人びとが医療サービスを受ける機会が減ったという報告もある。その理由の一つには、医療従事者が患者の秘密、つまり患者の性的指向や性自認について密告する恐れがあるからだ。
ウガンダの憲法裁判所は2014年8月1日、反同性愛法が無効であるという判断をくだした。反同性愛法が議会で可決されたとき、定足数に達していなかったというのがその理由である。重要な決定だが、ウガンダのLGBTIの人びとが暴力に怯えることなく外出できる自由は、依然として実現していない。
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◆◇◆ アムネスティ・フィルム・フェスティバル2015 開催!◆◇◆
2年に一度のアムネスティ映画祭は、2007年のスタート時から「今日、映画を観る自由があった」をコンセプトに、フィクション、ドキュメンタリーなどジャンルを問わず、さまざまな視点から人間の尊厳や自由の大切さを問う作品を上映してきました。
5回目となる今回、ここでご紹介した、『Call me Kuchu ウガンダで、生きる』をはじめ、日本初公開や劇場未公開作4本を含めた、珠玉のドキュメンタリー全8作品を上映。映画の合間には、遠藤まめたさん、早川由美子さんをお招きして、トークイベントも開催します!
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■日 時:2015年1月24日(土) 11:00上映開始/1月25日(日)10:30上映開始
■会 場:ヤクルトホール(港区東新橋1-1-19 ヤクルト本社ビル)
■チケットのご案内
【前売り券】2日券:3,700円(学生3,200円)/1日券:2,500円(学生2,000円)
【当日券】当日:2,700円 (学生2,200円)
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★ アムネスティ映画祭で上映する、その他のおすすめ作品
キューバ、中国、イランの女性たちが、悩みながら自国の人権問題をインターネットで発信する姿を追った『禁じられた声』(2012年)、パレスチナ難民キャンプで生活する人びとの希望と絶望が胸に迫る『我々のものではない世界』(2012年)、反戦を訴え英国議会前でのテント生活を続けた男ブライアン・ホウを追った『ブライアンと仲間たち パーラメント・スクエアSW1』(2009年)など、その他5作品を上映します。
▽ 詳細・チケットのご購入(アムネスティ・フィルム・フェスティバル 公式サイト)
▽ アムネスティ・インターナショナル日本 公式サイト
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