「死の体験旅行」はいかがでしょう?

「死の体験旅行」はもともとアメリカのホスピスで、スタッフの教育のために始まったものだと言われています。
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向源

■ゴールデンウィークの旅は「死の体験旅行」へ!?

そろそろゴールデンウィークの旅行先を考え始める頃でしょうか。国内、海外、選択肢はいろいろありますが、「死の体験旅行」はいかがでしょう?

「死」なんて言葉が出てきて驚いたかもしれませんが、実はこれ、もともとは医療系のワークショップの名前です。数年前から僧侶の浦上哲也さんがファシリテーターとなり、一般向けに開催しています。なにしろ名前が刺激的なせいか注目度も高く、向源でも2013年と2014年に開催されましたが、早い段階でsold outになってしまいました。

「死の体験旅行」はもともとアメリカのホスピスで、スタッフの教育のために始まったものだと言われています。

自分が看ている患者と家族の気持ちに寄り添い、残り少ない日々を高いQOL(クオリティ・オブ・ライフ=生活の質)を保って過ごしてもらうための体験学習ですが、一般の受講者にとっては、自らの死生観について考える機会にもなります。

浦上さんは僧侶になって間もない頃、小さいお子さんを亡くした母親から「あの子はどこに行ったのでしょう」という問いかけを受けたのだそうです。

「その問いが私を変えてくれました。単にお経を読んでおしまいではなく、人の苦しみ・悲しみに寄り添える存在になるために自分自身が深い悲しみを知ることが必要だと考えていた時に、このワークショップの存在を知りました」と話します。

■日本人の死生観、仏教の無常観

国や民族、宗教観や時代によって死生観は様々ですが、日本では仏教や僧侶が、死の専門家のように思われることが少なくありません。これは仏教が、死を含めた人生の諸問題に正面から向き合ってきた証拠です。では、1500年前に仏教が日本に伝わった後、私たちはそれをどのように受け入れていったのでしょうか。

仏教では、平家物語の冒頭で有名な「諸行無常」を基本的な教えのひとつとして説いています。「全てのものごとは、うつろう」という意味ですが、日本人はこの感覚に長けており、鴨長明は『方丈記』で「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず」と記し、美空ひばりは『川の流れのように』を歌い大きなヒットになりました。

なぜその感覚に長けているかというと、その理由のひとつに日本が地震国であることが挙げられます。日本列島はほぼ全域が地震の多発地帯で、有史以来、地震や津波の記録が絶える事がありません。越後の良寛和尚は震災に遭った友人に「災難に逢う時節には災難に逢うがよく候(中略)是はこれ災難をのがるる妙法にて候」と見舞いの手紙を出しています。そして21世紀となった現代でも、巨大地震と大津波の前に、私たちは為す術なく甚大な被害を受けました。

大陸であれば、地震や津波の心配がない地域に移住すればいいでしょう。しかし日本では、それは不可能です。営々として築き上げてきた文化文明が一瞬にして崩れ去る様子を、私たちの祖先は何度も目の当たりにし、そして復興を繰り返してきたのです。創り、壊れ、また創る。その繰り返しが日本人の死生観を育み、また仏教の無常観を受け入れる土壌となったのではないでしょうか。

■「死の体験旅行」

これから経験する人のために詳細は伏せておきますが、このワークショップではまず自分の大切な「もの」についてじっくりと考えます。物であったり記憶であったり夢であったり、もちろん人であったり......。

大切なものについて考えたあと、ファシリテーターによってある物語が語られます。受講者はその物語の主人公になったつもりで聞き、ストーリーの要所要所で「大切なもの」を手放すよう促されます。それは仮想体験とはいえ身を切られるような辛い選択で、涙を流す人も少なくありません。

仏教にはもともと死について深く考える修行方法がありますが、「死の体験旅行」ではワークショップの形式で自分の死を体験することができます。一見ネガティブなものに見えますが、それはより充実した生につながる経験で、参加者の多くが大切な気付きを得ています。

ある参加者は「たいして大事なものなど無いと思っていたけど、実は多くのものに囲まれていたことに気付けて、幸せな時間だった」と言いました。

またある参加者は「以前に亡くなった家族が、どんな気持ちだったのかを知ることが出来たような気がします。もっと前にこのワークショップを受けていたら、もっと良い看病ができたかな......」と言いました。

国内や海外を旅するのも素敵な思い出になるでしょう。しかし「死の体験旅行」に旅立てば、自分の内面を深く見つめ、死生観を磨くひと時を過ごすことができるはずです。

死の体験旅行
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