飲み会の帰りはラーメン屋ではなく「書店」に立ち寄る

ラーメンとは違った形で1日を「しめる」ことができます。
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Eva-Katalin via Getty Images

お酒を飲んだあとの「ラーメン」は特別です。少し酔ったときに口にする熱いスープ、コシのある麺は魅惑的な味がします。

でも、健康のことを考えると、「お酒のあとのラーメン」を控えたい人は多いのではないでしょうか。ラーメンではなく「パフェ」を食べる文化が北海道などにありますが、それもためらってしまいます。

 私は最近、会食のあとに「書店」に立ち寄るようにしています。「お酒のあとに本屋さん?」と疑問に思うかも知れません。

ただ、書店に行くと、ラーメンとは違った形で1日を「しめる」ことができます。健康的だし、不思議な「本の選びかた」ができるようになるのです。この記事では、お酒を飲んだあとの「過ごし方」について考えてみたいと思います。

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 「ラーメンを一人で食べてクールダウンする」

飲んだ後になぜラーメンを食べるのか。①アルコールを口にすると身体が水分を求めるようになり、汁気があるものを食べたくなる ②お酒の力で食欲がわく ③何となくの習慣になっている、など理由はあると思いますが、私はある大手企業の社長室のスタッフから聞いた次の話が、自分が「お酒のあとのラーメン」をこれまで食べていた理由に近いです。

20代後半の木村さん(仮名)。会食が多い。ただ、終わったあとにグッタリとするそうです。美味しい料理を前にしても、会話に気を遣って楽しめない。そのまま家に帰ると頭が「仕事モード」でうまく眠れない。

 そんなとき、木村さんは一人でラーメン屋に入ります。カウンターに座って水を1杯飲み、お気に入りの豚骨ラーメンを頼む。食べ終えて「ふぅ」とため息をつくと、疲れが吹き飛ぶ。

「心も体も落ち着くんです。やっと1日がリセットされ、ちゃんとシメられたなと思うんです」と木村さんはおっしゃっていました。「私にとっての『クールダウン』です」。

北海道ではシメパフェ

 ラーメンには、騒がしい飲み屋から家に帰るまでのあいだ、心を落ち着かせる効果があります。北海道では深夜にパフェを食べられるお店が広がり、お酒のあとに「シメパフェ」を楽しむ文化もあります。

「口の中がひんやりして、お酒で火照った身体をクールダウンさせてくれるんですよね」。北海道出身の知人に聞くと、先ほどの木村さん同様、「クールダウン」という言葉で説明してくれました。

 とはいえ、パフェです。あの「悪魔のようなデザート」です。罪悪感しか生まれません。そんな風に色々な人の考えを聞いてきたのですが、最終的に私がたどりついたのは「シメ書店」です。

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gyro via Getty Images

 飲んだ帰りの「書店」に行くと…

 あるとき、会食のあとにたまたま書店に入ってから、行くことが増えました。

 「やり方」というほどではないですが、まずは「夜遅くでも開いている書店」を事前に調べておきます。特に東京都内だとTSUTAYAさんのように、コーヒー店と併設されている書店も多く、夜も空いているところがあります。会食や飲み会が入ったときに備えて、「営業時間」を頭に入れておきます。

 顔が赤かったり、すごく酔っ払ったりしたときは、書店や他のお客さんに迷惑がかかるので絶対に行きません。

ほろ酔いで、二次会がなくて早めに解散したときに立ち寄ります。二次会のカラオケやラーメンに誘われたら「今日中に買いたい本があるので、これで失礼します」と言えば、「変わった人だな」と思われるでしょうが、退散する理由になります。

 飲み会で話題になっていたけど自分は知らないジャンルの本や、普通だったらなかなか手にしない本を買ってみます。日常とは違う「本選び」が楽しめます。本を買わないで、眺めているだけでも楽しい。飲み会の「喧噪」から離れ、心がスッと落ち着きます。しかもラーメンやパフェと違って、カロリーはゼロ。

父との串焼きの帰り

 先日、父親と午後6時から二人で飲みました。串焼きとビールを2時間ほど。父は70歳を超えているし、お互い翌朝も仕事があるので2時間で解散しました。父とは思い出話をしましたので、お店を出た後、私はふと小さい頃に飼っていた犬の「タロウ」のことを思い出しました。

 私は中学校までアメリカに住んでいたのですが、日本に帰国するとき、タロウを現地の日本人のエリコさんに預けて来ました。海外生活で苦労していたとき、タロウは一緒に遊んでくれて、兄弟のように接していました。ただ、大きいラブラドールリトリバーだったため、狭い日本のマンションに住む私たち家族は連れて帰れませんでした。

 タロウも、私と別れるのをさみしがったようで、その後も、エリコさんが散歩のためにタロウを街に連れ出す度に、私と同じ背格好のアジア系の男性をみると、パーッと走り出して近づいていったと言います。

 一度タロウに会いに行こうとしました。日本からアメリカまでの航空券を取ったのですが、エリコさんが「やっぱりやめよう」と言ってきました。「あなたのことを思い出して、また会えるとおもって期待してしまう」。

どうやらタロウは、チャイムが鳴るたびに、私が帰ってきたのではないか、と尻尾を振っていたみたいなんです。いつまでも帰り待っていたのでしょう。

 タロウはその後、老衰で死にました。そんなことを父と串焼きを食べながら、急に思い出したのです。帰り道、私は感傷的になっていました。そのままでは帰れない。昔だったらバーに寄って、2,3杯飲んでいたのでしょうが、今回は東京駅前にある書店に行きました。

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sanjagrujic via Getty Images

 飲み会帰りに買った本

 この書店は、ビジネスパーソンが多く集う東京駅にあるということもあり、ビジネス書が充実しています。普段はビジネス書を求めて立ち寄るのですが、この日の私は「犬の本」をながめていました。タロウのことを思い出したからです。

 買ったのは、アレクサンドラ・ホロウィッツ・竹田和世訳「犬であるとはどういうことか その鼻が教える匂いの世界」(白揚社)。帰宅してシャワーを浴び、パラパラとめくりました。

 犬が「におい」を通して、どう世界を認知しているかを解説した本です。著者が自ら四つん這いになって調査しました。たとえば、毎日の散歩道。同じ道でも、その日、その道を通った人や天候によってにおいが変わり、犬にとっては「別の景色」に感じるそうです。

 「におい」によって時間を計っていることも知りました。飼い主の「残り香」から「時間の経過」を感じるそう。たとえば、飼い主の男性がいなくなったあと、しばらくたって部屋にこっそりと彼の汚れたTシャツを入れると、まだにおいが残っているため、「帰ってくるまでもう少し時間がある」と犬が判断して、いびきをかきながら寝ちゃうそうです。

「におい」は誰かが去ったあとも、そこに残り、誰かが近づいてきたら、本人が来るよりも先に到着する。「におい」を通してみる犬の世界は、過去も現在も未来も同じ場所に存在しているのかもしれません。

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Olena Kurashova via Getty Images

 犬であることはどういうことか

 そうか、タロウは世界をこうやってみていたのか。私がもしあのとき、タロウのもとを訪ねてしまっていたら、私のにおいを思い出し、かえって辛くなったのではないかと感じました。

 本を読んでから、私は「街のにおい」に敏感になりました。会社へと通う道、街の景色は毎日同じにみえますが、においは違います。雨が降ったあとは、瑞々しいにおいがしますし、5月の夏祭りが開かれた後は、ふだんと違う「熱さ」を感じるにおいがします。最近カレー屋さんが増えたこともあってか、「スパイスのにおい」がするようになりました。毎日の風景が違って「におう」ことをこの本を通して学びました。

 飲み会の面白さって何でしょう。それは、お酒の力も手伝って、普段とは違う同僚や取引先、友人らの一面に気づいたり、昼間のオフィスでは出てこないようなユニークな話題が出たりすることだと思います。いわば「セレンディピティ(偶然の出会い)」を得るための会合です。

 ただ、どれだけ盛り上がっても、その会合が二次会や三次会に続くにつれて、「惰性」になってくることが多い。同じ話を繰り返したり、酔っ払って相手に「共感した」と錯覚してしまったり。二次会や三次会では、本来の「飲み会」の面白さが半減していく、というのが私の考えです。(もちろん、カラオケに行ったりスナックに行ったりと場所を変えることで別の楽しいセレンディピティが生まれる場合もあります)。

その点、飲み会後の書店には「驚き」があふれています。

近くに書店がなければ、カバンの中に本を入れておいて、帰りの電車でスマホではなくて本をめくるのでも良いと思います。家の近くの公園で、本を数ページ読んでから、玄関に入る、というのもたまにやります。

 ふと思い出したタロウのことから、普段は買わない「犬の本」を買ったみたいに、いつもとは違うシーンで書店に足を踏み入れると「日常を変えるタネ」が埋まっています。

 ところで、父との食事の帰りに買った、「犬であるとはどういうことか その鼻が教える匂いの世界」(白揚社)は2500円+税でした。

 妻に怒られました。「ラーメンより高いじゃん!」。高い値段の本を勢いで買ってしまうこともお酒の力でしょうか。良いのか悪いか、わからないところです。

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私は朝日新聞の記者として2002年にキャリアをスタートして、2016年にインターネットメディアのハフポスト日本版の編集長に就きました。

これまでたくさんの記事を書いてきましたし、今はテレビやイベントで大勢の人の前で話します。そのためのインプットとなる読書も続けてきました。

こうした「本棚術」など、自分なりの「知的生産術」を短い文章でハフポスト日本版で書いています。テーマは ①本棚術(読書術)②文章術 ③メモ術 ④スピーチ術 ⑤頭と心を休める術 ⑥イベント運営術などです。

もし良かったらちょっとした「スキマ時間」に読んでみてください。

<過去の記事>

第1回 知的生産のための本棚120%活用術

第2回 10連休明けの憂鬱な気分を解消する「過去の本」読書術

第3回 航空券を本にはさむと、読書の質がアップする

第4回 子どもにはスマホより読書が良い? 情報収集に「終わり」があるということ 

ちなみに上記6点以外の「人脈(仕事のチームづくり)術」は書いたばかりの本「内向的な人のための スタンフォード流ピンポイント人脈術」(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン)に書いています。こちらもぜひ手に取ってみてください。

名刺交換のあとの雑談が苦手、立食パーティーが苦手…そんな内向的な人こそ、これからの時代は活躍できるということをお伝えした本です。SNS時代の「つながり方」について真剣に考えぬいた一冊です。