知的生産のための本棚120%活用術

情報があふれかえる時代に「確かな知」を手に入れるにはどうすればいいのか? 本棚という「知の集積場」は使い方次第で最強の武器になるはずです。
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あなたの本棚は「死んで」いる

あなたは自分の本棚をお持ちでしょうか?
お持ちであれば、どういう状態でしょうか?

「もう5年以上、同じような本が同じような場所に並んでいる」
「SNSで誰かがオススメしていて、勢いで買った本が未読のまま積んである」

そんな状態だとしたら、すごく「もったいない」ことかもしれません。

せっかくの本が、本棚が、「死んで」いるかもしれないのです。本棚を100%、120%生かすことができれば、本が生き返り、読書のスピードもぐんと速くなります。

自分の考え方や、大げさにいうと「自分が大切にしている思い」も整理される。本棚術は新しい「知的生産法」だと思っています。

この記事では、私の本棚術を紹介させてください。

 本棚は2ヵ月に1回「入れ替える」

私の家には380冊ほどの本があります。

小説、ビジネス書、ノンフィクション、専門書、洋書……さまざまな本がありますが、すべての本について、内容はだいたいわかっています。

仕事で使うときにはパッと本を取り出せますし、誰かに特定の本について聞かれたときは、ある程度、ユニークな感想を言えます。

でも、正直に告白すると、380冊を全部読んだわけではありません。それでも本をうまく「生かす」ことができるのは、自分なりの「本棚整理術」があるから。本屋さんのように、2ヵ月に1度、棚に並べる本の順番を入れ替える「ジャンル分け」を習慣にしているのです。

まずはやり方からお伝えしましょう。とても簡単です

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ジャンルごとに「名前」を決める

まず、本を入れる棚ごとのジャンルの名前を決めます。

「小説」「ノンフィクション」などありがちな分類にはしません。ちなみに、買った順番に自動的に入れていくのもダメです。どんどん昔の本が埋もれていって、本が「死んでしまう」原因になるからです。

「名前決め」は気合いを入れて工夫してください。

「ジェンダーの本」の棚、「気分がアガる本」の棚、「食べ物をおいしく描いた本」の棚、「インターネットの悪いところを指摘した本」の棚、「個人が活躍する本」の棚、というぐあいにオリジナルなネーミングをするのです。

棚の名前は、できるだけ自由に、楽しく考えるのがコツ。

ジャンルが異なる自分の好きな本を5冊手元に置いて、その本の魅力を言葉にしてみるのです。

「この本は、自分に元気を与えてくれた」「こっちの本は、海外のことがたくさん書いてあって視野が広くなった」など。感想をノートに書き、「元気を与えてくれる本」の棚、「日本を飛び出したくなる本_の棚などと分けていきます。小説もノンフィクションも専門書も同じ棚の中でごちゃ混ぜになっていくように、自由に決めましょう。

名前が決まったらマスキングテープ(無印良品がおすすめ)にマジックで「ジャンル名」を書いて棚に貼ります。あとは本をどんどん入れていく。既に本棚に本が入っている人は一度ぜんぶ空にしてください。

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 「棚入れ」は楽しい作業です。

棚に入れるためには、パラパラと本をめくる必要があります。目次だけ見ても良いし、好きなページだけをめくってもOK。初めて読む本も「自分で決めたジャンル名の棚に入れよう」と考えながら目を通すと、「あ、この本はこういうことが書いてあるのか」と短い時間でも、不思議と頭に入ってきます。

筋トレと一緒で、やっているうちに段々速くなっていくはず。これで、少し「強制的に」すべての本に目を通すことになります。

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 本は、全部読もうとしなくていい

この本棚術は「本を生かす」ために行うものです。本は、著者が自分の人生で身につけた大切な考えを時間をかけて文字に落とし込んだ「宝物」。本は使いこさないと意味がありません。

本を使いこなせず、死んだままにしている人の特徴は、本を全部読もうとしていることにあります。

読書は「全部読もう」という気合いよりも、「この視点で読もう」という目的を持った方が必ずうまくいくのです。

具体的にお伝えするため、私の自宅の「個人が活躍する本」の棚をご紹介しましょう。

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 まずここには、国語の教科書にも載っている、夏目漱石の「吾輩は猫である」(新潮文庫)が入っています。「小説」の棚でも、「名作」の棚でもなく、「個人が活躍する本」とテープに書かれたオリジナルのジャンル名の棚であることがポイントです。(この場合は、個人ではなく「猫」ですけど……)。

そして、この棚の中で「吾輩は猫である」の隣りに並べてあるのは、ブロガーはあちゅうさんの「『自分』を仕事にする生き方」(幻冬舎)です。

夏目漱石とはあちゅうさんが同じ棚?と疑問に思うかもしれません。でも、同じ棚に入れてみると、本と本同士が「出会う」のです。

はあちゅうさんの「『自分』を仕事にする生き方」にはこう書いてあります。

《 仕事を選ぶ時、「世間体」は捨てる。》

《 それよりも、自分が幸せかどうかを優先させてください。》

はあちゅうさんのこの本は、自分の得意なことを生かしながら仕事につなげていくノウハウがたくさん詰まっています。世間体や肩書きにとらわれず、自分らしく生きていくことの大切さが、軽快な文章でつづられています。

そのあと、同じ棚にある「吾輩は猫である」を読んでみると、「読書の目的」がガラリと変わります。

夏目漱石の「猫」は、中学校の英語教師の家に潜り込んだ猫が主人公です。哲学者や美学者などインテリたちの会話を冷ややかに見ている猫の独白が印象的です。ただ、新潮文庫版では610ページと長く、知名度の割に、全部を読んだ人はあまりいないのではないでしょうか?

それもそのはずで、この小説は元々は1回の読み切り作品であり、その後は雑誌で連載されたものでした。だから「全部をまとまった物語」として読もうとすると、ストーリーが頭に入ってきません。

しかしながら、「世間に流されず、個人(猫)が生きたいように生きよう」と考える、はあちゅうさんの考えを頭に入れたあとに読むと、主人公の猫とはあちゅうが同じようなキャラクターに見え、読みやすくなります。

たとえば、「吾輩は猫である」には、こんな文章があります:

《(人間は)世の中を冷笑しているのか、世の中へ交りたいのだか、くだらぬ事に肝癪を起しているのか、物外に超然としているのだかさっぱり見当が付かぬ。

 猫などはそこへ行くと単純なものだ。食いたければ食い、寝たければ寝る、怒るときは一生懸命に怒り、泣くときは絶体絶命に泣く。》

食いたければ食い、寝たければ寝る——。自分の気持ちをごまかしたり、取り繕ったりせず、「素直に生きてみよう」という気持ちがわいてきます。スーツを着て満員電車にゆられている会社員のライフスタイルとは異なり、クールに自由に生きているはあちゅうさん。社会批判が得意で、自由気ままに生きている猫。似ているところがありませんか?

はあちゅうさんの本は、ブロガーさんの文章だけあって読みやすいのが特徴です。1時間ぐらいでサッと読めます。その後に、はあちゅうさんと同じことを言っている場面を「吾輩は猫である」から探そう、という目的をもって本を開きましょう。「吾輩は猫である」のような長い作品でも、読むスピードが上がって内容が頭に残る確率もアップします。

はあちゅうさんの本を読んだあとなので、頭も自然と「個人としての生き方を学ぼう」モードになっています。冒頭にお伝えしたように、読書は「全部読もう」という気合いよりも、「この視点で読もう」という目的を持った方が効率が良いのです。

はあちゅうさんは「炎上」のイメージがあるかもしれませんし、Twitterを見ていると私も意見が合わない部分もあるのですが、こういう読書の仕方をすると様々な視点からフラットな気持ちで読書ができます。

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 本は「チーム」で考える

私の「個人が活躍する本」の棚には、「猫」や「はあちゅう」のほかにもアメリカのトランプ大統領の自伝「不動産王にビジネスを学ぶ トランプ自伝」(ちくま文庫)や「ソクラテスの弁明」(岩波文庫)などの本も入っています。

はあちゅうさんと猫の本のあと、せっかくなので、他の本もめくってみます。じっくり読もうとせず、5分ぐらいパラパラと最初から最後までサッと目を通してみてください。これを2、3回繰り返すと、目に飛び込んでくるフレーズが出てきます。そこに付箋を貼って、少し考えながら読んでみましょう。

「初めから周到な計画を立てていたわけではない。ある日ついに我慢ができなくなり、なんとかしようと思いたったのだ」(「トランプ自伝」)。

トランプ大統領らしいですね。計画より直感を大切にして、賛否両論の渦の中、アメリカの不動産王から大統領にまで登りつめた「個人を大切にする」生き様が伝わって来ます。

「多衆というのは軽率に人を殺すかと思えば、また、何らの熟慮なしに、出来るだけならばこれを蘇生させたて見たいなどと考える連中なのだ」(「ソクラテスの弁明」)。

多衆というのは、大衆ということ。現代社会でもそうですよね。ワイドショーを見て、気まぐれのように芸能人を叩いたと思えば、いきなり手のひらを返して、その人に同情する。ギリシアの哲学者、ソクラテスは自分の信念とぶつかる「社会からの圧力」に悩まされ、最後は死刑を言い渡されます。今の時代にも通じる洞察です。

猫も、はあちゅうさんも、トランプ大統領も、ソクラテスもみんな同じ棚の「仲間」のように感じられます。「同じくくりの本」として読むと、①5分間だけ飛ばし読みをする ②背表紙だけを眺める ③目次だけを頭に入れる、などの短い読書時間であっても、不思議と文章が目に飛び込んでくるようになり、内容が頭に入ってくるのです。

これまで私も「読書術」に関するいくつかの本に目を通してきましたが、多くのテクニックが「1冊の本」に着目し過ぎているように感じます。

本も「人」も、似ているもの。会社の人事異動や職場のプロジェクトのメンバー集めと同じで、「チーム分け」をすることで、生かされたり、場合によってはせっかくの素材が死んでしまったりすることもあります。本も1冊ではなく、「チーム単位」で考えたいと私は思っています。

2ヵ月に1度でも、半年に1度でも、あるいは1年間に1度でも、自分だけのオリジナルの「棚」をつくってみてはいかがでしょうか。

読みづらかった本が読みやすくなったり、仕事の企画を考えるときのヒントになったりするはずです。

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 これまで、ずっと書いて、読んで、話してきた

私は朝日新聞の記者として2002年にキャリアをスタートして、経済取材を続けてきました。2016年に朝日新聞をやめてインターネットメディアのハフポスト日本版の編集長に就きました。

これまでたくさんの記事を書いてきましたし、今はテレビやイベントで大勢の人の前で話します。そのためのインプットとなる読書も続けてきました。いわば、ずっと、書いて、話して、読んできた人生です。

こうした「本棚術」など、自分なりの「知的生産術」を今後も短い文章でハフポスト日本版で書いていきます。テーマは ①本棚術(読書術)②文章術 ③メモ術 ④スピーチ ⑤頭と心を休める術 ⑥イベント運営術などです。

もし良かったらちょっとした「スキマ時間」に読んでみてください。

ちなみに上記6点以外の「人脈(仕事のチームづくり)術」は書いたばかりの本「内向的な人のための スタンフォード流ピンポイント人脈術」(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン)に書いています。こちらもぜひ手に取ってみてください。

 

『内向的な人のための スタンフォード流 ピンポイント人脈術』が4月20日、「ハフポストブックス」から刊行されました。全国の書店、ネット書店で販売されています。

名刺交換のあとの雑談が苦手、立食パーティーが苦手…そんな内向的な人こそ、これからの時代は活躍できるということをお伝えした本です。SNS時代の「つながり方」について真剣に考えぬいた一冊です。

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