航空券を本にはさむと、読書の質がアップする。

SNSを開かない「飛行機の中」の過ごし方
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今年のゴールデンウィークの10連休、帰省や旅行で、飛行機に乗った人も少なくないと思います。

 ところで、みなさんは飛行機の中で何をしていますか?映画を見たり、音楽を聴いたり、睡眠をとったり。色々ありますが、私にとって機内は「本をゆっくり読む」ために過ごす場所です。

 最近はWi-Fiがある飛行機も珍しくないですが、私はできるだけパソコンを開かず、静かに読書をすることにしています。機内は外部からの雑音をシャットアウトできる貴重な空間。その中で、数時間かけて集中して読んだ本については、普段以上に内容が頭に入ってくるのではないでしょうか。

 せわしない現代社会において、貴重な読書体験とも言えます。

 せっかく静かで集中できる時に本を読めるので、機内で読んだ本については、ページの空白にメモをびっしり書き込むようにしています。ただ、それ以上に大切にしていることは、その時に考えたり、思いついたりしたことを覚えておくために、本のページとページの間に「思い出の紙切れ」をはさんでおくこと。

 航空機のチケット、乗る直前に軽食を買った売店のレシート、あるいは行った先の観光パンフレットの一部…。そうした紙切れをはさんでおくだけで、本を読んだ状況が心に刻まれ、内容がより記憶に定着します。後日読み返した際に、読書した時の感情を思い出すなど「読書の質」がアップすると思うのです。

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九州のソウルアイス「ブラックモンブラン」との出会い

今年の10連休を利用して、私は小学生の長男といっしょに佐賀や長崎に遊びに行っていました。滞在中は、長崎ちゃんぽんや佐賀ラーメンなど色々とご当地グルメを楽しみました。

東京の人があまり知らない珍しい食べ物でいうと、九州のローカルアイス「ブラックモンブラン」。アイスミルクをチョコレートで覆って、サクサクのクランチをまぶしたアイスのことです。佐賀県小城市の地元メーカー「竹下製菓」が製造し、今年5月7日で発売50周年。九州地区のスーパーやコンビニで売られている「九州のソウルアイス」として知られています。仕事の都合で一緒に行けなかった、佐賀出身の妻が懐かしがるだろうと思って、アイスの包装紙を捨てずに、洗って取っておきました。

カバンの中に入れておいたのですが、帰りの機内で読んだ、鈴木透「食の実験場 アメリカ ファーストフード帝国のゆくえ」(中公新書)があまりにも面白かったので、自宅に帰ったあと、本のページとページの間に「ブラックモンブランの包装紙」をはさんでおくことにしたのです。

 ふだんは機内で読んだ本については、飛行機のチケットを間にはさんでおくのですが、今回はアイスの包装紙。後日、この本を読み返すとき、ブラックモンブランとともに、書かれていた内容を思い出すことでしょう。

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 ファーストフード大国アメリカについて考える

なぜそんなことをしたのか?それは、「食の実験場 アメリカ ファーストフード帝国のゆくえ」を読んで、様々な国や地域の「食文化」の豊かさについて学んだからです。

アメリカの食べ物の歴史を分析したこの本は、画一化されたアメリカの食に対するイメージを、次々に覆す一冊です。まさに目から鱗の新事実ばかりでした。

これだけ情報化が進んだ社会でも、九州の「ブラックモンブラン」など知られていないローカルフードはたくさんあるように、ちょっとでも自分の「生活圏」を離れた、ほかの国や地域の食文化のことは知っているようで知らないものです。

世界の「くらし」は違いと多様性であふれている——。そんな当たり前だけど、大切な気付きを思い出す意味でも、遠い外国の話を身近な日本の話題に引き寄せて本の内容を頭に定着させる意味でも、ブラックモンブランの包装紙をページにはさみ、本棚にしまっておいたのです。

「食の実験場 アメリカ ファーストフード帝国のゆくえ」を読む前の私もそうでしたが、アメリカの食べ物といえば、ハンバーガー、フライドチキン、ポップコーン、炭酸飲料というイメージがありませんか?。大量生産型のファーストフードが好きで、健康にあまり関心がない。そんな「アメリカ人像」を抱いている人も多いのではないでしょうか。

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しかしこの本を読むと、ガラッと考えが変わります。アメリカの食文化は、もともと現地で暮らしていたネイティブアメリカンの文化や、移民の出身地であったヨーロッパからの影響をうまく採り入れるなど、多様で豊かであることに気づくのです。

アメリカはヨーロッパからの多くの移民によって国づくりが進みました。また、不幸な歴史でもありますが、アフリカから奴隷として多くの人が移り住みました。建国当初は、ネイティブアメリカンから生きる知恵を授かっています。

ハンバーガーはドイツ料理の影響を受けていますし、香辛料をいれて鶏肉を煮込むフライドチキンはアフリカ料理に似ています。ポップコーンで使うトウモロコシは地元のネイティブアメリカンの主食です。また、炭酸飲料も、もともとは薬局で販売されるなど「健康目的」で飲まれていたことも本書を通して知りました。

様々な文化を受け入れ、健康にも気を遣っていたアメリカ人ですが、産業化や経済の発展とともに、いつの間にかそれらの食文化が「ファーストフード」として育ち、不健康なイメージがある大量生産型の食事に変化した歴史があります。

 国が出来たときから、多様な文化を受け入れてきたアメリカ。ファストフードへの批判や批評も尊重しています。マクドナルドの大型ハンバーガーを1ヵ月食べたらどうなるのかを描いた、映画「スーパーサイズミー」(2004年)など「ファストフードによる肥満化」への問題提起も最近では出てくるようになりました。

 さらに、農作物を街中に並べる「ファーマーズマーケット」や、健康的とされるエスニック料理を売る屋台形式の「フードトラック」も人気を呼ぶなど、「ファーストフード」と距離を持ってつきあう人が増えているような印象を、本書を通して感じました。

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 食べ物を通して「他人」を知る

飛行機の中で本書を読んで、ページの余白にメモをしたことは次の3点です。

①食べ物には地域ごとの歴史があり、外からは分からない大切な文化がある。

②その食べ物文化は絶えず変化している。

③異なる国や地域に住む人と仲良くなるためには、食べ物文化の「歴史」と

「最近の変化」を知ることが大切だ。

トランプ大統領がハンバーガーを食べる様子に、どこか親しみを感じるアメリカ人は少なくありません。ファーストフードという一言だけでは表せない歴史が、ハンバーガーやホットドッグにあることを、この本を通して知りました。

 関西と関東出身の人が、うどんの汁の色や柔らかさをめぐって、「価値観の違い」をそれぞれ感じることもあるでしょうし、クジラの肉を食べる日本人のことをどうしても許せないという欧米人はたくさんいます。「ヘンな食文化だな」と思っても、その奥にある歴史に注目するだけで、偏見は和らぐのではないか、と読書をしながら学びました。

さらに、この本のあとがきでは、筆者自身のユニークなエピソードが紹介されています。

メキシコ国境での”壁”建設をめぐってトランプ大統領と民主党が争った影響で政府機関が閉鎖に追い込まれ、空港がピリピリしていた時期に、筆者が「バーベキューの魅力」を入国審査で話したことで、すんなり係官にゲートを通してもらったというのです。

 バーベキューもまた、アメリカがネイティブアメリカンから学んだ食文化ですが、「食べ物」のことを外の人に理解してもらえると、不思議と親しみはわくものです。特に、宗教や人種をめぐって世界的な「分断」が起きている中、お互いの食べ物をまずは理解し合う努力も必要だなと思いました。

 また、「アメリカ人はファーストフードばかり食べて、食に関心がない」というのも間違っているように感じられました。そうした偏見を持たないためにも、食べ物の文化の「最近の変化」を知っていくことは大切なのではないでしょうか。

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 ブラックモンブランの包装紙で思い出す読書

アメリカの食文化についてメモを書き込んでいたとき、ふと思い出したのが旅行中に食べた「ブラックモンブラン」。ハンバーガーもブラックモンブランもそれぞれの「歴史」や「思い入れ」がある。同じ日本に住む人の間でも「定番のアイス」についてのイメージが違う。人は食べ物からして文化が違う。みんな個性がある。簡単には分かり合えることはない。今後、本を再読するたびに、包装紙が目に入り、このことを思い出すと思います。

もちろん、飛行機のチケットでも良いんです。チケットの半券には、行き先や出発時間などが書いてあります。本を読んでいたとき、どのような場所から、何時ぐらいに移動していたのかを瞬時に思い出せます。

機内で読んだ本は、その後何度も読み返すのがおすすめです。旅とは直接内容が関係のない本でも、チケットなどの紙切れがあるだけで、当時の読書の雰囲気が思い出せ、普段と比べて何倍も何倍も内容が頭に入ってくる気がします。でも、せっかくの九州旅行だったので、より記憶に残りやすい「ブラックモンブランの包装紙」にしました。妻の「お土産」にはならなかったですが、伝えたら、笑っていました。

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 肉食がなくなる日?

ところで、九州から帰った日の翌日、NHKで「肉を一切使わずに野菜などで作った代替肉の消費が増えていている」というニュースが流れていました。先ほどから紹介している「食の実験場 アメリカ」でも、野菜などを使った料理の流行が紹介され、ファーストフード帝国のアメリカが変わりゆく姿が描かれています。もしかしたら「肉食」が時代遅れになる日がアメリカで来るのかもしれない、とも夢想しました。

そんなニュースに注目したのも、本のあいだにはさんだ「ブラックモンブランの包装紙」の効果かもしれません。普段と違った読書スタイルを取り、印象に残る「紙切れ」をはさんでおくことで、記憶に残りやすくなり、読後に入ってくる情報も違ってくるものです。

みなさんも飛行機に乗って本を読み終えたときは、チケットやアイスの包装紙など「紙切れ」をはさんでみてください。なかなか溶けて消え去らない、不思議な思い出と一緒に残る「読書」をきっと味わえると思います。

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私は朝日新聞の記者として2002年にキャリアをスタートして、2016年にインターネットメディアのハフポスト日本版の編集長に就きました。

これまでたくさんの記事を書いてきましたし、今はテレビやイベントで大勢の人の前で話します。そのためのインプットとなる読書も続けてきました。

こうした「本棚術」など、自分なりの「知的生産術」を短い文章でハフポスト日本版で書いています。テーマは ①本棚術(読書術)②文章術 ③メモ術 ④スピーチ術 ⑤頭と心を休める術 ⑥イベント運営術などです。

もし良かったらちょっとした「スキマ時間」に読んでみてください。

<過去の記事>

第1回 知的生産のための本棚120%活用術

第2回 10連休明けの憂鬱な気分を解消する「過去の本」読書術

ちなみに上記6点以外の「人脈(仕事のチームづくり)術」は書いたばかりの本「内向的な人のための スタンフォード流ピンポイント人脈術」(ハフポストブックス/ディスカヴァー・トゥエンティワン)に書いています。こちらもぜひ手に取ってみてください。

名刺交換のあとの雑談が苦手、立食パーティーが苦手…そんな内向的な人こそ、これからの時代は活躍できるということをお伝えした本です。SNS時代の「つながり方」について真剣に考えぬいた一冊です。