同性婚の「人権救済申し立て」は、どんな意味を持つのか。 LGBT支援の弁護士・山下敏雅さんに聞く

「同性カップルの相続問題が、LGBTの問題に取り組む原点」と語る山下さんに、LGBTの法律トラブルや、同性婚の人権救済申し立ての意味について聞いた。
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「同性婚を認めないのは、憲法が定める法の下の平等に反する」

同性カップルら455人が7月7日、日本弁護士連合会(日弁連)に人権救済を申し立てた。申立人は、42都道府県や海外に暮らす、レズビアンやゲイなどのLGBT当事者だ。

申し立てでは、政府や国会が同性婚を法制化するように日弁連が「勧告」することを求めた。「勧告」に強制力はないが、弁護団は国内初の同性婚訴訟につなげたい考えだ。

この弁護団長を務めるのが、弁護士でLGBT支援法律家ネットワークのメンバーの山下敏雅(やました・としまさ)さんだ。「同性カップルの相続問題が、LGBTの問題に取り組む原点」と語る山下さんに、LGBTの法律トラブルや、同性婚の人権救済申し立ての意味について聞いた。

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■LGBTの問題に取り組む原点、同性カップルとの出会い

――山下さんがLGBTの問題に取り組むことなったきっかけについて、教えていただけますか?

もともと弁護士になる前に、ゲイ・カップルの相続のトラブルが目の前で起きたんです。これが今、弁護士としてLGBTの問題に取り組んでいる原点です。

余命わずかとなった知り合いから、長年連れ添ってきたパートナーに全財産を譲り渡したいので、書類に不備がないかどうか見てほしい、と連絡がありました。結婚しているカップルであれば、遺言がなくてもパートナーには相続権があります。しかし、彼らは同性カップルでした。

当時のエピソードをLGBT支援法律家ネットワークのサイトに、こう書きました。

彼は意識が朦朧としていることもあって,数行の遺言状さえ書くのが辛い状況でした。文字のサイズは巨大,形も歪み,そして何度も何度も漢字を間違え,その度に意地になって綺麗に書き直そうとします。私は遺言状のひな形を見せながら真横で彼が懸命に文字を書くのを見守るのがとても苦しくて,その場から逃げ出したい気持ちにさえなりました。

そうして何十分もかかって完成した遺言状は,まるで小学2年生が書いたような,平仮名だらけの「いごんじょう」でした。

ようやく養子縁組届,遺言状を作成し終えて,養子縁組届を区役所へ提出しようとしたときでした。地方から病床の彼の親戚が駆けつけてきて「死亡直前の状態を利用してこいつらが何か企んで署名押印させている,一体何の不正をしているのか」とものすごい剣幕で迫ってきたのです。

法律上は,たとえ親戚が異議を唱えていても,養子縁組届をする当事者同士の合意が優先します。しかし,死を目前にした状況で焦っていたパートナー側が急ぐあまり,親族への説明を欠いて要らぬ誤解を招いてしまったのでした。

申立代理人の紹介 | 同性婚人権救済弁護団

■当事者と弁護士をつなぐLGBT支援法律家ネットワーク

――他に、当事者の方との出会いはありましたか?

あと、弁護士になった後で、名古屋のゲイ・カップルが、東京の私の事務所に相談に来て、「婚姻届を出したら不受理になるから、裁判やりたい」って会いに来たんです。

20代の若いカップルでした。「今、婚姻届出せないことで、何に困ってるの?」と聞いたら、「今のところ何も困っていない。問題提起がしたいんだ」と。

そのときは、「困っている人の件で手一杯で、困ってない人の事件は受けられない。社会とか裁判所も、困った事実があって初めて動くんだよ」という話をしましたね。

「だけど、せっかく名古屋から東京に来てくれたエネルギーは大事だと思うから、君たちは名古屋にいて、大阪に(当時は大阪府議会議員で現LGBT政策情報センターの代表理事の)尾辻かな子さんという人がいる。東京、大阪、名古屋で一斉電話相談をして困っている人が弁護士に相談して、裁判したいってなったときに、今困っていない君たちがサポートをする、ということであればサポートするよ」と。

そうやって立ち上がったのが、LGBT支援法律家ネットワーク。2007年のことです。

――そんなに前から活動されていたんですね。

過労死弁護団も、20数年前に全国一斉相談したことで、当事者が弁護士とつながって、裁判が重なって変えてきたという歴史がありました。2007年当時、LGBTの法的問題で何が問題なのかといったら、困っているゲイやレズビアンといったセクシュアル・マイノリティが、弁護士とつながっていないことだったんですね。司法アクセス障害というんですけど。

当時のメンバーはかき集めても10人足らずくらいで、時期尚早だったため、電話相談は実施されませんでしたが、少なくとも、この問題に取り組む法律家が全国のどこにいるかわかるように、メーリングリストでゆるやかにつながっていきました。

——今、メンバーは何人ほどですか?

勉強会を行うメンバーは、今は約90人になりました。LGBT当事者の人、当事者でない人、半々くらいです。カミングアウトしている人も、していない人もいますね。

北は北海道から南は熊本まで。今では弁護団を組んだり、イベントをやったりしています。少しでも困っている当事者が、どこに相談にいったらいいのかわからない状況を解消するために活動しています。

——LGBTに理解がある弁護士がわかる、というのは大きいですね。

法律トラブルで困っているとき、当事者は、本当にこの弁護士は私の話を受け止めて、味方になってくれるのかって不安になるわけです。とくにセクシュアリティに関することなので。そのハードルがぐっと下がるだけでも意味はあると思います。実際に困っている人が、場合によっては裁判したり、今回のように人権救済申し立てをしたり、社会とつなぐことが法律家の役割かな、と。

■多岐に渡る、LGBTの法律トラブル

——これまで、LGBTに関連してどんな事件を担当されましたか?

いろいろなケースがありますが、私は子供の問題にも取り組んでいるので、LGBTと子供の問題に接しますね。10代のセクシャル・マイノリティを虐待から保護する事例もあったり、あとはLGBTの当事者側が、「自分の子供を、家族としてきちんと認めてほしい」ということで、性同一性障害のお父さんの事件の弁護団長もやりました。

——どんな事件だったのでしょうか。

性別の取り扱いの変更で男性になった夫と、妻の間に、第三者の精子提供の人工受精によって長男が生まれました。

条文通りであれば「妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する」(民法772条1項)ので、父子関係を認めなければならないんですが、役所は『血のつながりがない』として認めなかった事件です。最終的に2年かけて、最高裁で父子関係が認められました。

――LGBTに関する法律トラブルは、どんなものがありますか?

ありとあらゆるものがあります。セクシュアリティの話は、ベッドの上の話じゃなくて、その生活と人生全般に行き渡る人間の基盤そのものなので、法律トラブルも本当に多岐に渡るんですよ。

住まいや老後の話から、刑事手続きだったり、DV、ストーカーだったり、就職のことだったり、学校のことだったり、生命保険のことだったり、難民だったり……。なので、LGBTの法律トラブルといっても1個1個のテーマは本当に多岐に渡るので、その度に調べたり、専門の法律家に聞いたりしています。

■同性婚の憲法解釈、人権救済申し立て

――2015年の新年に、同性婚の人権救済申し立てすることを決めたそうですが、きっかけは? 渋谷区の同性パートナーシップ条例などが話題になる前ですね。

ここ1、2年で法律相談のケースも増え、LGBT当事者の人たちの動きも一層活発になり、社会の関心も高まってきていました。私自身、ちょうど(担当していた)大きな事件が落ち着いて時間ができたので(笑)、新年の抱負として人権救済申し立てについて話したら、メンバーがやろうやろう、といってくれたんです。

結果的に、3月の渋谷区での同性パートナーシップ条例成立、6月のアメリカ連邦最高裁判所の判決が重なったのですが、この間の社会の動きからすれば、偶然というより、むしろ必然だったと思います。

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――憲法について伺います。憲法第24条1項には「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」と規定されていますが、同性婚については、どう解釈すればいいのでしょうか。

現行の憲法は、封建的な家制度から人々を解放して、女性と男性が、対等に婚姻生活を営めるようにする、というものです。

「両性の合意のみ」という表現は、「戸主の同意なく当事者の合意で成立する」というところにポイントがあります。そして、男女平等の理念から「両性」という文言になったので、制定したときは、同性婚は念頭に置かれていなかった。ですから、同条項が同性婚を禁止しているわけではない、というのが法律家の一般的な見解ですね。

——今回、同性婚の人権救済申し立てを行ったのは、当事者ですね。

トランスジェンダーの人もいますが、ゲイやレズビアンなどのLGBT当事者です。海外在住の2人を含む455人が集まりました。

申し立ては、「この人が人権侵害を受けている」と、当事者じゃない人がすることもできるんですが、今回は当事者でない方には申立人にではなく、署名での応援をお願いしました。申し立てに賛同する署名も、1万1680筆集まりました。本当にたくさんの支援の声が寄せられましたね。

——あらためて、日弁連に申し立てすることは、どんな意味を持つのでしょうか。

人権救済申し立てをすると、日本の弁護士が全員加入している日本弁護士連合会が、同性婚が人権侵害であるかどうかを調査します。1〜2年かけて、ちゃんと調査するんですよ。

これにより「警告」「勧告」「要望」などの人権救済の措置を、相手方に対してとります。今回の申し立ての相手方は、内閣総理大臣と法務大臣と国会なので、それらに書面を送ります。この措置は、法的な強制力はありませんが、弁護士会による法的な判断として、今後立法が検討されたり、裁判が行われたりするときには、大きな影響力を持つことになります。

——以前、「家族法」に関することは、立法はなかなか動かないのが現実、とお話されていましたが……。

そうですね。非嫡出子の相続分を、嫡出子の相続分の2分の1とする民法が、違憲であると最高裁判所大法廷で決定が下されたのが、2013年。明らかな差別なのに、こんなに時間がかかりました。

夫婦別姓も、これまでに何度も議論されていますが、ようやく秋に大法廷です。これもどうなるかわかりません。ですから、同性婚についての議論は、本当にこれからなんです。

——渋谷区や世田谷区など自治体による同性パートナーシップに関する取り組みが始まっています。

いきなり法律が変わることはありませんが、こうした議論と制度づくりの積み重ねがあって、国会で、民法で改正されていく必要があると思います。

6月にアメリカの連邦最高裁判所が、同性婚を認める判決を下しましたが、これも各州で議論されて立法される州があり、反対する州があって、その積み重ねがあって、連邦最高裁判所の判断になったんです。これからです。

■LGBTの暮らしやすい社会、私たちができること

——議論はこれから、とのことですが、同性カップルやLGBTの人たちが暮らしやすい社会にするために、私たちが今できることは何でしょうか。

「自分の周りに当事者がいない」という人もいますが、それは、カミングアウトしていない当事者、できない当事者がまだまだいっぱいいるからです。実際には、20人にひとりくらい、すぐ隣にいます。

でも、いわゆる「ホモネタ」や「おかまネタ」で笑う人に対して、ありのままの自分のことを話すことはできません。「ホモネタ」や「おかまネタ」で笑うことは、憎悪というほど強いものはありませんが、少しずつのマイナスの気持ちが、ひとりの当事者にのしかかって生活や人生を押しつぶすのです。

だから、私たち1人ひとりが今できることのひとつは、その逆をすること。

——逆、ですか。

つまり、セクシュアル・マイノリティについて、少しずつでもいいから肯定的なメッセージを出すことです。

アメリカで同性婚が認められたときに、多くの人がSNSのアイコンを続々とレインボーに変えていましたが、LGBT当事者にとって、とても心強いことだったと思います。

クラスメイトや同僚が「ホモネタ」や「おかまネタ」で笑い合っているとき、当事者ほど「やめてほしい」と声に出していうことはなかなかできません。そこに、当事者ではない人が、当事者ではないからこそ「それはおかしい」ときちんと指摘することも大事だと思います。

LGBTについてのイベントや社内研修も増えましたし、ネット上で記事もたくさん読めるようになりました。「まだ勉強中だけど、大事な問題だと思っている」。そういうプラスの書き込みをSNSでするだけでも、意識は問題が可視化されて、さらに人と人がつながっていくんだと思います。

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