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2018年04月18日 15時25分 JST | 更新 2018年04月18日 15時27分 JST

脱走、流血、尻尾も燃えた。愛おしき、変てこな猫

毎朝5時から、すさまじい大声で鳴き、ごはんを要求する。

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前田直子
アルフィーさんに抱かれた姿を見ると、体の大きさが一目瞭然ですね

[猫&飼い主のプロフィール]

猫・The Shah(シャー)6歳 オス 長毛の雑種

飼い主・ラグを始めとするインテリアアイテムのブランドAELFIEのオーナーAelfie Oudghiri(アルフィー・ウギリ)さん。夫でエンジニアのHichan(ヒシャン)さん、4歳になる娘のMirah(ミラ)ちゃんと共に、ブルックリン・ウィリアムズバーグのロフトアパートメントに暮らす。

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猫や犬に囲まれ育ったというアルフィーさん。初めて自分で猫を飼ったのは、19歳のとき。「ブルックリンの通りを歩いていたら、異様な大声で鳴く白猫がいて、保護したんです」

当時、パンクバンドでドラムを担当していたアルフィーさん。自宅に連れ帰り、ホワイティと名付けたその猫の様子が、少しおかしいことに気づいたのは、ドラムの練習をしていたときのこと。「大音量にも平然としていて。調べてみたら耳の聞こえない猫だとわかりました。大きな鳴き声は、耳が聞こえないせいだったみたい」

その後、ヨーロッパの大学へ通うことが決まり、ホワイティをNY郊外に暮らすお父さんに託した。学業を終えてNYへ戻り、猫を受け取りに帰ったところ、「断られました(笑)。父がホワイティを大好きになってしまって、もう手放せないって」

毎朝5時から、すさまじい大声で鳴き、ごはんを要求する。ちょっと困った猫だったけれど、アルフィーさんも、お父さんも深い愛情と絆を感じていた。「だからホワイティが亡くなったとき、父は悲しみのあまり、しばらく話しができなくなってしまったほど」。お墓を作り、キャンドルを灯して愛猫を弔ったのはお父さんだった。アルフィーさんはしみじみ言う。

「猫を飼うと、人は誰もが優しくなり、慈悲深くなるものですね」

前田直子
Shah(シャー)の名前の意味は、ペルシャ語で王様。確かに、キングの風格が漂ってます!

さて、そんなアルフィーさんが現在、惜しみない愛情を注いでいるのは飼い猫のシャー。一緒に暮らし始めたのは6年前のこと。マンハッタンにあるシェルターから、殺処分される予定だった猫を譲り受けたという。

「たぶんメインクーン(大きな体で知られる長毛の猫)が混じっていると思う」というシャーは、納得の貫禄ある体つき。おっとりした性格で、ほとんど鳴かない物静かな猫。「今までに鳴き声を聞いたのは5回ぐらい。どんな声だったかも思い出せないぐらい」と笑うアルフィーさん。そんなシャーをひと言で形容するならば、「変てこな猫」だとか。

ある時はキャンドルに近づきすぎて、胸の毛や尻尾のふさふさを自らチリチリに焦がし、またある時は、玄関ドアの隙間から脱走し、立ち入り禁止場所に居座ってしまったことも。「そこは屋上に出る階段で、人が立ち入らないようセンサーで感知するアラームが取り付けられていたんです。シャーの体にセンサーは反応しないけれど、シャーを捕まえにいった私には当然反応して、深夜の建物内にアラーム音を鳴り響かせてしまったというわけ」(アルフィーさん)

前田直子
ゴハンを食べてご満悦のシャー。ぺろりと口から飛び出た舌が、まるで桜の花びらのよう

流血事件も起きた。アルフィーさんが友人と自宅で談笑していたところ、ふとシャーを見ると口元が真っ赤な血で染まっていたという。「え、何が起きたの?って。わからないし、怖いしでパニックになったんです。そうしたら一緒にいた友だちが、シャーの口の中からワイヤーピンを発見して...」。一体全体、どうしてそんな鋭利なものを、わざわざ口に入れたのだろう...。いまだ動機は謎のままである。

前田直子
広いアパートメントの中で、なぜかテーブルの、それも一番端っこに寝転ぶ、変てこな猫。首は苦しくないんでしょうか......

何を考えているのかわからない、予想すらつかない。「いつも謎めいた存在であること。それこそ、猫が誇れる特技だと思う。あとは昼寝することね」とアルフィーさん。

そんな飼い主の言葉を、身をもって表すように、テーブルの上のシャーはなぜか一番端のぎりぎりのところに寝転んで、頭が今にもずり落ちそうな体勢でうつらうつらしている。あのぅ、その姿勢、つらくないですか...? 猫ってば、本当に不可思議な生き物です。

前田直子

(2018年4月16日「朝日新聞デジタル&w」より転載)