「スタートレック」のヒカル・スールー(日本放映時はミスター・カトー)役で日本でも知られるハリウッド俳優ジョージ・タケイ氏(80)が、自身が出演するブロードウェイミュージカル「アリージャンス/忠誠」映像版の日本上映にあわせ、11月に来日した。第二次世界大戦時のアメリカで「敵国の民」であることのみを理由に強制収容された日系人家族を描いた作品で、タケイ氏の幼少時の体験がモデルになっている。日本上映を企画したTheater Live Japanは今後、日本各地での上映会開催を目指しており、12月29日までクラウドファンディングを実施している。
「私自身、祖父母が日本出身で、日系人であるという罪ゆえに差別を受け、収容されたという思い出がある。実際に起きたことを、みなさんとシェアできることは非常に貴重なことだ。今日の東京も似たような状況にあるかもしれないと思っている。このいろいろな皮肉がまじった状況だからこそ、今の東京にこの話を持ってこられたことをありがたく思っている」(記者会見より)
人権活動家としても有名なタケイ氏は、11月8日の早稲田大での講演や翌9日の記者会見で、収容所での体験やLGBT当事者としての思いなどを語った。
アリージャンスに登場する「キムラ一家」は真珠湾攻撃をした日本人を祖先に持つというだけで自宅から強制的に追い出され、収容所へ移送されてしまう。タケイ氏はキムラ一家の「おじいちゃん」と、その孫が老人になった姿の二役を演じている。
タケイ氏が実際に収容所に送られたのは1942年、まだ5歳のときだった。劇中にも登場する「忠誠書」に両親が反対の立場を貫いたため、いったん送られた収容所から、更に過酷で懲罰的な収容所に移送された。
「鉄条網に囲まれ、サーチライトに見張られていた。私は小さかったので、おしっこをするのをつけ回されているのかと思ったぐらい(笑)。学校に行くと、合衆国憲法の定める自由と正義、そして国に対する忠誠を誓わされた。あまりにも皮肉だったが、私は幼すぎて、その皮肉を理解できなかった」(講演より)
戦争が終わって収容所から解放されたが、タケイ氏の心には深い傷が残った。タケイ氏は10歳ごろに自分の性的指向が他の人たちとは異なっていることに気づき始めたが、周囲と同じであるように努めていたという。
「子どものころ、人と違うことがあると罰があることを経験していたので、みんなと同じであることを選択していた。幸い性的指向は外に見えない。俳優になった後もストレートな男性になりきった自分を演じていた。ゲイだと公にしたら、俳優としてのキャリアは成立しないから。社会的正義のためにキャリアを犠牲にして立ち上がる人もいたが、私は何とかしたいという気持ちとキャリアとの間で引き裂かれる思いをしながら沈黙していた」(講演より)
そんなタケイ氏だったが2005年、68歳のときにゲイを公表。カリフォルニア州で議論されていた同性婚法案に、シュワルツェネッガー知事が拒否権を行使したことがきっかけだった。2003年にマサチューセッツで同性婚が認められ、社会の理解も広がっていると感じていただけにショックは大きく、「自分自身でルールを作るべきだ」と決心。LGBT当事者として積極的にメッセージを発信するようになった。アメリカではその後、2008年にカリフォルニア州、2015年に全米で同性婚が認められるようになった。
タケイ氏は日本の状況にも関心を寄せる。
「私はだいたい2年ごとに日本に訪れているが、来るたびに変化を感じる。直近のことで言うと、渋谷区が同性愛者の結婚を認めたことが、とても大きな、次の世代につながる一歩ではないかと思う」(記者会見より)
「先日、東京でLGBTのコミュニティの方とも話したけど、なかなかLGBTであることを口外できない、概念自体が浸透していないということを言っていた。家族の枠組みや自分が何者かといったことを、改めて日本に伝えていきたいと思っている」(記者会見より)
自分や家族のあり方は、アリージャンスでも中心になっているテーマだ。
「日系アメリカ人収容所は合衆国憲法への冒瀆であり、アメリカの歴史の恥ずべき一章と考えられている。お話の中では架空の家族をつくっているが、この収容所という歴史的事実によって、自分の尊厳や家族を守るためにどのような選択をするのかが個人にゆだねられ、家族がバラバラになるような状況があった。今の時代は不安定で、『自分が何者か』『家族とは何か』ということで個々の選択が求められている。『アリージャンス』は単にアメリカの物語というのではなく、人間性の物語であり、世界中に伝えていきたい」(記者会見より)
アリージャンスにはタケイ氏のほか、レア・サロンガ(「ミス・サイゴン」)、テリー・リアン(「Glee」「アラジン」)、マイケル・K・リー(「太平洋序曲」)の各氏ら、ブロードウェイで活躍する実力派のアジア系俳優が多数出演している。2015~16年にブロードウェイで上演。その後も映像作品としてアメリカ、カナダで600館以上の映画館で上映され、25万人以上が見た。
Theater Live Japanは2018年以降、全国各地で上映をしていく方針で、クラウドファンディングで支援を募っている。タケイ氏は記者会見の最後に、「全ての地域に広まって、2020年にはぜひ、東京で生の舞台を見ていただきたい」と笑顔で語った。
クラウドファンディングの詳細は、https://a-port.asahi.com/projects/Allegiance/。