中銀カプセルタワーを訪れたフランシス・フォード・コッポラ監督(左から三番目)。背後に特徴ある玄関のドアが見える=前田達之さん提供
高速道路から見上げた中銀カプセルタワー=朝日新聞、井上未雪撮影
44年前に建てられ、当時「未来建築」と呼ばれた中銀カプセルタワー。銀座の外れにある独特のフォルムは世界中に知られる。黒川紀章が設計したメタボリズム建築の代表作だ。
メタボリズムとは新陳代謝を意味する。
メタボリズム建築は、社会や環境の変化に合わせ、古くなったり機能が合わなくなったりしたユニットをユニットごと取り替えるなどして、有機的に変化しながら建物が生き続ける考え方だ。
中銀カプセルタワーは、老朽化でいったん建て替えが決定したが、保存のための活動が活発化してきた。
今回のクラウドファンディングでは、写真家Kazan Yamamotoさんがカプセルタワー内で女性を撮影した「カプセルガール」と名付けたアート写真集の出版を通じて、中銀カプセルタワーを知ってもらい、保存活動につなげる資金を集めている。
起案者で、カプセルタワーに魅せられて数部屋を所有する会社員・前田達之さん(49)は「近現代の建物が知らないうちに壊されてしまっているが、ちゃんと誰かが見守っていく活動をしていきたい」と話す。
前田さんは、幼い頃、高速道路で車の中から見えるカプセルタワーを見上げ、「この洗濯機のような鳥かごのような建物はなんだろう」と思ったという。社会人になって建物の前を通るたびに、残したい気持ちが増し、それから20年あまりたった頃から、部屋を複数所有して保存しようという運動を始めた。
日本でもカプセルタワーの知名度が上がってきているというが、むしろ海外からの視線が熱い。メタボリズム建築の代表作であるこの建物の希少性を感じているらしい。残してくれという声は、日本より海外からのほうが強いという。
前田さんは、以前フランシス・コッポラ監督や俳優のキアヌ・リーブス氏をカプセルに案内したことがある。
フランシス・コッポラ監督は、5つの部屋を見て回った。なぜ、ここに訪れたかったのかという問いに対して、カプセルタワーができた頃から知っていて、いつか訪れたいと思っていたと話したという。
カプセルの魅力は、建物が時代や社会の変化に合わせて有機的に変化できるよう設計されているメタボリズム建築ということだけではない。6畳ほどの小さな部屋に、ベッドやクローゼット、テレビなど快適に過ごせる工夫があるからだという。最近のトレンドになっているミニマリズムや古いものを大事にするリノベーションが、人気を後押しする。
クラウドファンディングA-portで、このプロジェクトを支援すると、金額に応じて、所有者しか味わえないトレードマークの円窓のある部屋を見学したり使用したりできる。
前田達之さん=中銀カプセルタワー内で、朝日新聞社撮影
中銀カプセルタワーを訪れたキアヌ・リーブス氏=前田さん提供