謎に満ちた楽器スチールパン、ドラム缶から天国の音色

ドラム缶を切って、底を叩きのばしてすり鉢状にし、音程をつけた楽器「スチールパン」。

 ドラム缶を切って、底を叩きのばしてすり鉢状にし、音程をつけた楽器「スチールパン」。日本から見て地球の裏側、赤道直下の国トリニダード・トバゴで1939年に生まれた。

 その楽器に原田芳宏さん(49)は1980年代、ニューヨークで出会った。ビルがひしめくタイムズスクエアの一角。黒人のストリートミュージシャンが叩く、銀色の筒からあふれ出すメロディは、治安が悪く荒んでいた当時の町の一角を「地上の楽園に変えていた」。魅力のとりこになった。

自宅でインタビューに答える原田芳宏さん=2015年7月東京都内で

 スチールパンの音は個々の楽器で異なる。演奏にはそれぞれの楽器にあわせて音を引き出すなどの工夫が必要で、楽器自体にも謎が多く、奥が深いという。原田さんによると、トリニダード・トバゴがある赤道近くに行くと、音が「びんびんと」高くなる。「楽器が『俺の国が来たぜ』って喜んでいるのかな。こんなに長くつきあっているのにまだ分からないことだらけ」。

 原田さんはピアノやギター、トロンボーンなど多くの楽器を経験してきたが、「ひとたびたたけばどこでも天国が現れる」この楽器に心奪われ、本場のトリニダード・トバゴでもオーケストラに入って活躍した。日本人のスチールパン演奏者『ヨシ』は新聞にも取り上げられ、小さな国でヨシの名前は広がっていった。帰国後は日本で、オーケストラを結成し、魅力を広めていった。

 そして今年8月、わずか8分間の演奏のため、日本から発祥の地トリニダード・トバゴへ向かう。国際大会「インターナショナル・パノラマ」にチームで参加するためだ。この大会に参加できるのは世界中でわずか30組。そのうち12組は、本国トリニダード・トバゴのチームで、本国以外で出場が許される18組のうちの1組に選ばれた。

 原田さんは5年前に白血病を発症し、現在、日本で最新の治療を受けている。「病気がコントロール出来ている状態で、今の薬が効かなくなる時がくるかもしれない。効き続けることを祈るだけ」と話す。

若い頃、本場のスチールパンを学ぶために移り住み、現地のオーケストラのメンバーにまでなった。そのトリニダード・トバコへは17年ぶりの「帰還」となる。日本で育てた自身の楽団30人と、公募で集まった演奏家計60人を引き連れていく。大会では自ら作曲した「火の鳥」を演奏する。どんなメロディが発祥の地に響くだろうか。

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自宅で数々のスチールパンに囲まれて過ごしている原田さん=2015年7月、東京都内で

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