ウィグハットを作る大脇篤史さん=名古屋市で、朝日新聞社撮影
抗がん剤や放射線によるがん治療の副作用で、頭髪を失ってしまう人は多い。こんな患者のために、名古屋市の美容師、大脇篤史さん(38)が、頭髪付きの帽子「WIGHAT(ウィッグハット)」を考案した。
「美容師なので髪のことなら何かできるはずと思った」という大脇さん。美容師のキャリア20年、髪で美しさを引き出す技術が、子供から大人まで、患者たちの助けになっている。
名古屋市の堀川沿いの一階にある美容室。大脇さんの店では、クラシカルな調度品とドライフラワーが、川のゆったりとした流れとともに時間を忘れさせてくれる。そんなリラックスできる空間から、これまで10個のWIGHATを世に送り出した。
店内の様子=朝日新聞社撮影
きっかけは2年前。大脇さんの友人の妻が脳腫瘍になった。「外出時に気軽に使えるものはできないか」と相談された。名古屋市内の帽子職人を探し、協力して作り始めた。サンプルを作って意見を聞き、改善を重ねた。
同じ頃、ぱったりと店に来なくなった客がいた。しばらくぶりに来店した時に、「実はがんになってから外に出られなかった」と聞いた。
「髪で悩む人がいるなら美容師として何か役立ちたい」と心に決めた。
WIGHATは、ファッション用付け毛のエクステンションを帽子にとり付けたもの。100%人毛で、患者に合わせてオーダーメイドする。顔に沿った自然な髪の流れをエクステンションの微妙な並べ方で作りだす。
前髪は特に難しいという。渦があったり、方向も一定でなかったりするからだ。こうした前髪も顔から浮かないように、患者の顔にあわせて自然な流れを作り出す。
小児がんを患っている小学3年生の女児は、「かつらは蒸れる」と嫌ったが、帽子は快適だという。また、患者は治療により肌が敏感になることが多い。ポリエステル製の毛髪だとかゆみが生じ、かいてしまうと色素沈着をおこす。WIGHATは上質な人毛のため、その心配がないという。
A-portより
使っている人毛は一束約1万円と高価だ。自宅を訪問し、その人にあった形の髪の流れをオーダーメイドで作るため、WIGHATは、定価で5万6800円する。
大脇さんは質のいい人毛を安定的に買い取るため、受注を増やし、協力店も増やしたいと話している。
病院などで患者に試してもらうサンプル品を作るための資金をクラウドファンディングサイトA-portで集めている。支援はこちらから。
大脇さんの店の前で=朝日新聞社撮影
A-portより