BLOG
2015年08月21日 23時29分 JST | 更新 2016年08月18日 18時12分 JST

フェイスブックが2040年に出来ていたら

2015-05-18-1431929285-8953203-ryan_takeshita1.jpg

竹下隆一郎 1979年生まれ。朝日新聞メディアラボ・2014年-2015年スタンフォード大学客員研究員

Email: takeshita-r@asahi.com

Twitter ID:@ryuichirot

■未来のアメリカの姿

もしフェイスブックがまだ生まれていなく、2040年に出来ていたら、まずはスペイン語サービスとして始まっていたかもしれない。

米シリコンバレーの起業家、トリスタン・ウォーカーさんは、そんな問いを投げかけている。彼はこう話す――。米国の国勢調査局の推計では、米国の人口のマジョリティー(多数派)を占める白人(ヒスパニックのぞく)は2040年代に半数を割り込む。米国は、「白人の国」ではなくなり、黒人、ヒスパニック、アジア系など、たくさんの人種が暮らす国になる。特にヒスパニックは、家庭や職場でスペイン語を話す人も多い。移民が増え続け、ヒスパニックの割合が大きくなり、もしその時にフェイスブックが誕生していたとしたら、地域によっては、スペイン語版として始まったのではないか。

企業は、今のマジョリティーである白人だけではなく、他の人種にも注目しないと将来のお客さんを失うことになる、という問題提起だ。

2015-08-19-1439949236-1942749-tristenwalker.jpg

トリスタン・ウォーカーさん=CODE 2040提供

自身も黒人であるウォーカーさんの会社「ウォーカー&カンパニー」は黒人の肌や体毛にあったひげ剃り用品が主力だ。既存の商品は「白人向け」の物が多く、体質に合わず肌荒れに悩む黒人も少なくなかったという。出荷数が伸び続け、徐々に話題になっている。「白人男性」という消費者イメージから抜け出すと、新しいビジネスチャンスを見つけることができる。

ウォーカーさんは、会社とは別に非営利団体「CODE 2040」という団体を運営し、黒人やヒスパニックの学生を対象に、IT企業の就職支援をしている。シリコンバレーの企業へのインターン、コンピューターの勉強、起業家との交流会、就職相談と活動は幅広い。企業側からも「今まで出会うチャンスが少なかった学生と会えた」と好評だそうだ。

■シリコンバレーは「オープン」なのか

自由でオープンなイメージがあるシリコンバレーなどのIT企業は、人種においては「閉鎖的」だ。2014以降に相次いだ各種報道によると、Google(グーグル)、Airbnb(エアビーアンドビー)、Linkedin(リンクドイン)、Facebook(フェイスブック)などの主要IT企業の従業員の非ヒスパニック系の白人率は5~7割前後。次に多いのはアジア系で、黒人やヒスパニックは数%の企業が目立った。

2015-08-19-1439949439-9632374-kaiteiIT.png

原因のひとつは格差だ。国勢調査局によると白人家庭の平均世帯年収は6万ドル(約720万円)前後。黒人やヒスパニックは3万ドル(約360万円)~4万ドル(約480万円)台と下回る。子どもの教育にお金をかけにくい環境があり、マイノリティーの学生にとっては、これまでプログラミングなどITやベンチャー企業に入るためのスキルを学ぶ機会が少なかったという指摘もある。

出来たばかりのシリコンバレーの企業は特にそうだが、良くも悪くも堅苦しいプロセス抜きに、知り合いや仲間から人を採っていく。白人ばかりの職場が、同じ白人の友人や大学の同級生のネットワークから採用し、さらに人種の多様性が狭まるという循環に陥っている。

ウォーカーさん自身も、困難な道を歩んできた。貧困と隣り合わせのニューヨーク市クイーンズ地区で生まれ育ち、父親は銃で撃たれて亡くなっている。周囲の支えもあって、大学まで進んだ。スタンフォード大に学びに来るまでは、「シリコンバレーのことはよく知らなかった」と話す。米国の人気IT企業のツイッターやフォースクエアで働くうちに、ちょっとしたアイデアで会社を立ち上げられ、社会に影響を与えられるIT企業の魅力にみせられ、起業した。「自分と同じような境遇の子供たちにも同じようなチャンスを与えたい」。

■BuzzFeedのユニークな戦略

「マイノリティー国家」への変化に向けて、オープンさに価値を置く米国のIT業界は、人種や性の「ダイバーシティー(多様性)」が大きなキーワードになっている。2014年10月、アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)が同性愛者であることを公表したことも大きい。

新興ネットメディアの中で特に勢いがあり、ヤフーと組んで日本進出をするBuzzFeed(バズフィード)は、ヒスパニック向けの「Latino」というタグを設け、2014年は112本もの記事を出した。前年の15から大幅に増やした。

2015-08-19-1439950661-7529415-buzzfeedandlatino.png

BuzzFeedの「Latino」。

編集幹部のベン・スミス氏はスタッフ向けのメールで「大きな読者層であったラテン系米国人(ヒスパニック)に対して十分、目を向けてこなかった」という趣旨の言葉をつづっている。移民政策など硬いネタだけではなく、ヒスパニックが携帯電話で使う顔文字の特徴、スラング、メキシコ料理の話題など、ヒスパニックが「あるある!」と共感するような記事が、どんどん出る。

こうした記事が出ることで他のメディアとの差別化が図れるうえ、ヒスパニックの読者が共感して、ソーシャルメディアでシェアをすれば、ほかの人種の読者も感心を持って読むはずだ。スタッフもヒスパニックをそろえ、編集部内の多様性が、コンテンツのおもしろさにつながっているようだ。

おもしろおかしい写真や有名人の失敗談を載せて読者にこびを売った「単なるネタサイト」としてバカにされていたBuzzFeedが、読者を徹底的に分析した結果、一種の「戦略」として人種の多様性に敏感になっている。

■戦略的なダイバーシティー

2015-08-19-1439949750-2777184-3022617slideyuriamyandtristan.jpg

CODE 2040提供

前述のCODE 2040幹部のカーラ・モンテロッソさんは「企業が、多様な人を採用することは、慈善活動ではない」と強調する。「優秀な人材をより幅広い母集団から探し出すためであり、経営陣がこれまで気づかなかったお客さんや市場に目を向ける、ビジネスの重要な判断なのだ」。

多様な人種や性差を受け入れる社会をめざすダイバーシティー。それ自体は「良いこと」なのだが、社会全体の成長や効率性の犠牲につながると思われるなら、あるいは一部のオピニオンリーダーや、職場で戦っている個人ばかりに負荷がいくなら、推し進めるのがしんどくなる。お題目で終わらせず、ダイバーシティーの課題をビジネスの論理で乗り越えられないか。IT企業らしい「問い」が各企業で発せられている。