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2015年10月09日 15時05分 JST | 更新 2016年10月05日 18時12分 JST

心が折れた時こそ成長の機会―社会人の「生きる」を学ぶ

「つらい体験」は自分が成長できるキッカケ。きっと誰かの役に立つ。

「周りの人が病気で困ったときに、力になりたい」。そのための経験やスキルを学べる場が「キャンパス」です。開催しているのは、杉山絢子先生が代表理事を務めるCAN net。8月には、誰もが持っている心の回復力をテーマに「キャンパス東京」が開催されました。自分や周りの人がつらいとき、私たちは何ができるのでしょうか。当日学んだ内容や会場の様子をご紹介します。

◆「つらい体験」は自分が成長できるキッカケ

第一部は、臨床心理士の山谷(やまや)さんによるセミナーセッションでした。山谷さんは頭頚部がんを経験されています。「精神的につらいのは、何も告知の時だけじゃない」。がんで気持ちが不安定になったのは、告知の時よりも、退院して日常生活に戻った後だったそうです。

「つらい思いや孤独感を話せる人もいなかったし、家族には心配をかけてしまうから相談できなかった」という山谷さん。退院後のつらかった経験を他の人にも知ってもらいたいと考え、心的外傷後成長(ポスト・トラウマティック・グロウス:PTG)の研究を始めました。

PTGは、外傷後ストレス障害(PTSD)の研究から派生した概念です。危機的出来事によって重篤なストレスを抱える人がいる一方で、その出来事をもとに成長し、ポジティブな考えになっている人もいることから生まれたもので、「危機的な出来事や困難な経験との精神的なもがき・闘いの結果生ずる、ポジティブな心理的変容の体験」を指します。

当日のお話では、PTGの実例もご紹介いただきました。病気によって、話すだけでも息切れするようになったある方は、変わってしまった自分の体にうまく対応できず、周囲の人との間に壁をつくるようになりました。しかし、東日本大震災の後、考えが変化していったそうです。「震災で多くの人の命が突然奪われた中、こうして毎日生活していけること自体、とてもありがたいこと」と思うようになったのです。また、足を切断されて仕事ができなくなった方は、自暴自棄になり、家族を困らせるようなことを言っていましたが、ある時、そんな自分さえも支えてくれる家族のありがたさに気付いたそうです。

病気の治療をすればそれで終わりというわけではありません。その後の生活においてもさまざまな問題を抱え、それを受け入れようと必死にもがいている人たちもいます。そのような中でも、新しい発見をしたり、前向きに変化したり、悩んでぐちゃぐちゃして、いろいろな葛藤を経て成長していく変化の過程がPTGなのです。

「今はまだポジティブになれていなかったとしても、病気になって新しい視点が得られていれば、それだって成長の過程です」

◆「つらい体験」は、誰かの役に立つ

第二部のアクティビティセッションでは、人生の中で落ち込んだり、心が折れたりした経験と、その経験によってどんな思いや行動に至ったかを参加者それぞれが紙に書き出しました。杉山先生の進行に沿って、心が回復するまでの変化を振り返り、同じテーブルの人たちと自分の体験や心の変化を紹介し合います。病気以外でも、失恋、ペットの死、テレビで見た衝撃的なニュースなど、内容は自由ですが、つらくなってしまう場合は話せる範囲で大丈夫。まだ話せないこと、話したくないことは言わなくてもいいというのがキャンパスのルールです。

いくつかの経験を全体でも共有することで、回復の仕方には人によってさまざまな癖や工夫があることに気付きました。つらい経験は誰かに話す方が良い場合もあるし、黙っていた方が良い場合もあります。ある人の経験や回復方法が、必ずしも全ての人に良いわけではないことも分かりました。自分の回復方法はどんなパターンなのかを知り、他の人のパターンも探ることで、自分や周りの人がつらいときにどう接したらいいかを考える術を学ぶことができました。

◆困っている人を助けられる社会へ

がんなどの大きな病気で困ったとき、どうしたらいいのか分からずに困ったままの人がたくさんいます。困ったときのための制度やサービスがあっても、細分化しすぎていたり、選択肢が多すぎたりして、自分が利用したいサービスがどれなのかも分かりにくいのが現状です。

たどり着きたいサービスや制度につなげてくれる人がそばにいたら......。がんなどの病気になったときの備えができている社会だったら......。困っている人を助けてあげられる社会を目指して、CAN netでは「キャンパス」を開催し、社会人の「生きる」を学ぶ場を提供しています。

一人一人のスキルや何気ない経験が、誰かの役に立つかもしれません。今持っているスキルや経験を伸ばし、新たなスキルや経験を身につけることができる場所。病気になっても「できる(CAN)」につながる「道(path)」が、「キャンパス(CAN path)」の由来です。

CAN netの「キャンパス(CAN path)」は、旭川・札幌・東京の3カ所で毎月開催されています。扱うテーマはさまざまで、形態も多種多様。「同じテーマでも、北海道と東京では会場の雰囲気も共有し合える内容も全然違う」(杉山先生)とのこと。自分のスキルや経験を誰かのために役立てたい人なら、気になるテーマがきっと見つかるはずです。

(取材日 / 2015年8月22日、取材 / 左舘 梨江)

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【医師プロフィール】 杉山 絢子 腫瘍内科

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一般社団法人CAN net 代表理事

2002 年旭川医科大学卒業。北海道の地方医療を経験後、がんの化学療法を勉強するため国立がん研究センター東病院化学療法科のシニアレジデントを修了。2013年「誰もが病気になっても自分らしく生きられる世の中」の実現をビジョンとする一般社団法人CAN netを立ち上げ、代表理事に就任。CAN netの事業内容を発表した「社会起業大学ソーシャルビジネスグランプリ2013年冬」ではグランプリを受賞。北海道で現役の腫瘍内科医としても活躍している。医学博士、がん薬物療法専門医

■CAN net

http://can-net.jp/