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2018年05月09日 15時58分 JST | 更新 2018年05月09日 15時58分 JST

サイボウズ式:アクセルを踏みたい社長とブレーキを踏みたい副社長──かみ合わなかったふたりは今、「会社さんなんていない」と思っている

多様性を尊重し、100人100通りの働き方ができる会社──。ただ、実際はどうなのか?

サイボウズ式


多様性を尊重し、100人100通りの働き方ができる会社──。社外からは「働きやすい会社」と思われているかもしれません。ただ、実際はどうなのか?

こんな疑問を持ってサイボウズに潜入したのは、スコラ・コンサルトの滝口健史さん。社会人インターンシップとして、サイボウズという会社を分析・研究しました。

ただ、その研究結果から見えてこないことも、たくさん。それなら経営陣に直接聞いた方が早い。どのような思いでサイボウズを作ってきたのか。代表取締役社長・青野慶久と取締役副社長・山田理に直撃してみました。


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サイボウズについて分からないことを、経営者に聞いてみたい

滝口:その節は、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビューとのサイボウズ研究で大変お世話になりました。

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青野:お久しぶりですね。

滝口:はい、青野さんの『チームのことだけ、考えた』を読み、あの場の議論でサイボウズに興味を持ちました。そこで社会人インターンシップとして半年サイボウズに入り、組織を研究してみました。

サイボウズ式
滝口健史(たきぐち・たけし)。組織コンサルタント。株式会社日経リサーチに入社後、ワークライフバランスやマネジメントに関心をもち、早稲田大学ビジネススクールに進学。事業企画や組織論などを中心に学ぶ。株式会社スコラ・コンサルトに入社後はリサーチ部門の運営やワークショップ開発などを担当。2017年より社会人インターンとしてサイボウズに参画。現在、育児休暇を取得中。

山田:何か見えてきました?

滝口:サイボウズって「理想的な普通」の会社だと思ったんですよね。それと同時に、まだわからない点がたくさんあるなあと。

今日はそれを、青野さん、山田さんにぶつけてみようと思います。

青野:山田さんといっしょにインタビューを受ける機会はなかなかないですからね。楽しみです。

山田:そうですね。ではどうぞ。

従来のヒエラルキーは残しつつ、「インターネット型組織」へ

滝口:サイボウズの組織のあり方は、お二人の考え方が大きく影響していると思うんです。

青野:僕はサイボウズについていろいろ発言してきましたが、その根幹にあるのは、山田さんの『会社さん』なんていないんだという考え方なんですよ。

山田:僕は好き放題言っているだけで、実際に経営しているのは青野さんですけどね。

青野:会社が存在し続けられるのは、個人が集まってくれているからなんですよね。もともとは会社の実態なんて存在しない。それなのに、「会社のために個人がある」というのはおかしいなと。

山田:むしろ個人のために、会社がある

青野:サイボウズが多様な個人や個性を大切にしているのも、この考えが出発点にあるからなんですよね。

サイボウズ式
青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得している。2011年からは、事業のクラウド化を推進。厚生労働省「働き方の未来 2035」懇談会メンバーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)、『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)

滝口:サイボウズの組織運営でいうと、一般的な企業に見られる「ヒエラルキー型」(ピラミッド型の段階的組織構造)です。これにより、会社としての統制は取れていると思うんです。

一方で、実際に社内の会議に参加してみると、社員のみなさんが自由に、積極的に発言しているんですよね。このギャップには驚きました。

山田:サイボウズも「インターネット的な組織」になってきているのかな。

会社ってなんで続かなくちゃいけないの?  篠田真貴子×山田理 ALLIANCE対談

滝口:インターネット的?

山田:昔の会社って、ヒエラルキーが大事だったんですよね。インターネットがなく、何でも紙でやり取りしていたような組織では、ヒエラルキーがきっちりしていないと、情報が行きわたらないですから。

青野:ある程度の抜け漏れはしょうがないね、という感じもあって。

山田:はい。でも、インターネットの普及に伴い、階層ごとに情報を受けわたすよりも、「全員で情報を共有するほうが早い」ことが分かってきた。

青野:サイボウズの場合、ほとんど情報は社内のグループウェア上にフラットに公開されています。そのために、いろんな議論に対して、社員が参加しやすいですよね。

「動くときはみんなで動く」という組織のメカニズムやヒエラルキーを作ってきた

青野:企業理念の話になるんですけど。

山田:はい。

青野:サイボウズは、「チームワークあふれる社会を作る」というビジョンを掲げてしまったんです。これって壮大じゃないですか?

滝口:大きいです。

青野:みんなでその壮大な理念に向かうために、統制はしっかりやらなきゃいけない。あくまでも会社さんのためではなく、ビジョンに向かうため。そういう面もあると思うんですよ。

山田:サイボウズは昔から「個人の尊重」を重視していたのですが、それが変な方向に向かっていったこともありましたね。

滝口:そんなことがあったんですか?

山田:青野さんが社長になる前の時代ですね。個人を尊重しまくってみんなの意見を聞いた結果、小さな事業がどんどん生まれて、会社がカオスになってしまって......。

サイボウズ式
山田理(やまだ おさむ)。サイボウズ取締役副社長 兼 サイボウズアメリカ社長。1992年日本興業銀行入行。2000年にサイボウズへ転職し、責任者として財務、人事および法務部門を担当し、同社の人事制度・教育研修制度の構築を手がける。2014年からグローバルへの事業拡大を企図し、米国現地法人立ち上げのためサンフランシスコに赴任、現在に至る。

青野:ああ。

山田:その経験から、「動くときはみんなで動く」という組織のメカニズムやヒエラルキーを作ってきた感じがあります。

青野:社員数は10年前に比べればずいぶん増えているけど、逆にプロダクト(製品)の数は減っているんですよね。

すべてにおいて主体性や信頼性を求めなくてもいいんじゃないか

滝口:「みんなで動く」「みんなで考える」ができる前提として、社員のみなさんが主体性を持つ必要がありそうですが。

山田:悩ましい部分ですね。サイボウズのメンバーにどこまで主体性があるのか。

滝口:といいますと?

山田:そもそも主体性って、「1ある」から「100ある」までいろいろですよね。

さまざまな個性を集めたいと思えば、必ずしも主体的な人がいいわけでもない。互いの個性を補いあえる「信頼関係」があれば、みんなに主体性を求めなくてもいいような気がします。

青野:よく信頼関係って言うけど、僕はこれがイマイチ分からなかったんですよ。で、辞書で調べると「信じて頼る」と書いてある。そのままやんけ、と(笑)。

サイボウズ式

山田:人によって、信頼も「1ある」から「100ある」までさまざまですしね。

青野:そうそう。僕はサイボウズ社長としては信頼されているかもしれないけど、サイボウズ野球部の選手としてはまったく信頼されていないし。

滝口:ははは。

山田:「あの人は、スキルはないけど嘘はつかないよね」みたいに、人が持つ側面によって信頼される部分も変わってきますからね。

青野:だから、すべてにおいて主体性や信頼性を求めたりするのは難しいんじゃないですかね。

筋を通そうとすることで突飛なアイデアが生まれることもある

滝口:お二人の役割はどう分担しているんですか?

山田:青野さんは事業を作ることが得意で、僕は組織を作ることが好き。もともとはそんな分担でした。

僕が「こんな機能を持つグループウェアにしたほうがいい」と意見しても、青野さんはまったく聞かないと思います(笑)。

青野:僕は逆に、新しい期に向けて組織を作るときは、今でも「山田さんが見たらどう思うかな?」とすごく気にしていますよ。

意思決定する前に、山田さんというフィルターを通さないと怖い部分もあって。

サイボウズ式

山田:青野さんは、とにかく「新しいことを考える」発想力がすごいんですよ。で、僕は「筋が通っているかどうか」を見て納得したいタイプなんです。

青野:そうですよね。

山田:僕はずっと、社員に説明する役回りだったからですかね。

なので、新しいことを決める際にも「みんなにどう説明しよう」という観点から考えています。うまく説明できないことって、何かが抜けている可能性があるんですよ。

青野:逆に、筋を通そうとすることで突飛なアイデアが出てくることもあると思うんです。

山田:逆に?

青野:「副業容認」とか。

山田:ああ。

青野:あれは、就業規則で副業を禁止している理由を僕たちがうまく説明できなかったんですよね。

「ちゃんと説明できないということは間違っているんじゃないかな?」という発想になって。

山田:就業規則を守ることが理想なんじゃなくて、多様な個性を生かしていくことが理想なんだと改めて気づいた瞬間でしたね。

青野:山田さんとの会話から突飛なアイデアが出てくるのは、昔も今も変わっていなくて。最近では本部長クラスの案よりも、僕らの案のほうが過激なんてこともあります。

山田:「みんな、東証のルールを気にしすぎじゃない?」みたいな(笑)。

青野:でもそれは、ある意味当然な気もするんですよ。なぜなら今のサイボウズには、僕がめちゃくちゃ思い入れを持っているビジョンがあるから。

社長である僕の「ビジョンへのこだわり」を、ほかの人が超えられないのは当然じゃないですか。それを実現するために、過激になることもある。

山田:ええ。

アクセルを踏みたい社長と、ブレーキを踏みたい副社長

滝口:お二人が正反対の方向から議論をして、噛み合わないこともあるんですか?

青野:昔はよくありましたよ。「なんでこの人はこれだけ説明しても分からないの?」とブチ切れたことも(笑)。

山田:ありましたね(笑)。

青野:そういったことを経て、山田さんが気にしていることがだんだん分かるようになっていったんですけどね。

山田:青野さんが何かを言い出したときに「やりたいことは分かるけど、ついてくる人がどれだけいるんだろう?」と心配になって、そこから噛み合わないこともたくさん出てくるんですよね。

青野:僕は「みんなついてきてくれるに決まってる!」とアクセルを踏もうとするタイプ。

山田:僕はそういうときにブレーキを踏みたいと思うタイプです。まあでも、それで青野さんが面倒くさくなって妥協するなんてことは......。

あまりなかったですね(笑)。

サイボウズ式

青野:あはは。最終的には僕が決めるんですけど、これは組織の代表取締役社長の権限であり、役割ですからね。

山田:うん。最終的にはトップが決める、そして責任も取るという形のほうが、組織としては正しいと思います。で、うまくいかなければ責任を取って、次どうするかを考えればいい。

青野さんが後で気づくこともあるだろうし、僕が後で「ブレーキを踏まなくてよかったな」と感じることもありますからね。

青野:僕たちのように互いの個性を知ることは、チームワークを作る上でも重要ですよ。主体性も信頼性も分野によって違うわけですから。

山田:仕事をしていればどうしても、相手に対してムカつくこともありますからね。

でも相手の強み・弱みを理解することで分かりあい、互いに補完し合えるようになると思うんです。

必要なのは事業を作る創造性ではなく、ビジョンに向かうための創造性

滝口:スコラ・コンサルトでは、最終的に「創造性のある会社」を目指すアドバイスをしていきたいと考えて活動しています。創造性を発揮するために、どんな会社を作りたいですか?

山田:そもそも、会社というもの自体を存続させたいとは考えていないんです。

青野:この点が、世の中の多くの企業と決定的に違う部分かもしれないですね。

滝口:たしかに。

サイボウズ式

山田:サイボウズはグループウェアに特化しています。裏を返せば、それ以外の分野の事業はやらないということ。

ほかの企業ならグループウェアが伸びなくなったときに新しい分野の事業をやるかもしれないけど、僕たちはやらない。

いくら利益が上がりそうだからといって、「自動車でイノベーションを起こす」ことはやらないわけです。

青野:それでいうと、11月から始めた「メソッド事業」(*)は、グループウェア以外の事業という意味ではサイボウズ史上でも異例なんですが、これも現在のビジョンに則った取り組みですからね。

(*)サイボウズ流のチームワークや働き方改革のメソッドを企業に提供する事業

山田:そういう意味では、サイボウズで求められる創造性も、一般的な考え方とは違うかもしれません。

滝口:というと?

山田:求められるのは、「ビジョンに向かうための個人の仕事の創造性」です。誤解を恐れずに言えば、「事業を作る創造性」ではないなと。

青野:そう、ビジョンから外れるものは考えなくていい。「会社は大きくしなければいけない」という発想もないですし。

だから、もし僕が死んだらサイボウズはいったん解散でいいと思っています。極論かもしれませんが。

ビジョンまでの距離感は人それぞれ。ぼくらはキャンプファイヤーで踊り続ける

サイボウズ式

山田:ビジョンに向かう話と関連して、ぼくはキャンプファイヤーみたいな経営のあり方もいいなと考えているんですよ。

青野:キャンプファイヤー?

山田:キャンプファイヤーをしていて、青野さんや僕が真ん中で踊っている。それを見ていっしょに踊る人もいれば、なかなか輪に入れない人、離れたところで花火をしている人もいる。

どんな状況にせよ、僕らがやるべきことはとにかく、真ん中で踊り続けることなんです。

青野:ぼくらは、ビジョンを叫び続けるということ?

山田:はい。そのビジョンがおもしろければ、踊りの輪は広がり続けていくと思います。おもしろい、というのがポイントです。

滝口:うんうん。

山田:もちろん社員にはビジョンを大切にしてもらいたいけど、ビジョンまでの距離感は人それぞれですから。ぼくたちは、とにかくおもしろく発信し続けないといけない。

青野:「ビジョンを暗唱させる」とかじゃなくてね。

山田:僕らが目指すサイボウズ流のチームワークって、多様な個性を大切にし、公明正大を実現することで成り立つんです。最終的にはそこにつながっていくと思っています。

青野:いろいろな制度を作ったり、いろいろなツールを導入したりしてきた過程で見つけた、大切な価値観ですからね。

執筆:多田慎介、撮影:橋本美花


サイボウズ式」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。 本記事は、2018年2月22日のサイボウズ式掲載記事アクセルを踏みたい社長とブレーキを踏みたい副社長──かみ合わなかったふたりは今、「会社さんなんていない」と思っているより転載しました。