サイボウズ式:国家の目的は「便利な国をつくること」ではありません──小泉進次郎×サイボウズ青野、働き方改革と正しい社会のあり方

24時間型社会、やめませんか?
サイボウズ式

「コンビニエンスストアの店長さんたちが休めてないんですよ」

そう話したのは、衆議院議員の小泉進次郎さん。「現在の働き方改革は、一部の既得権益者向けのものではないか」「地方や中小企業には響いていない」――。

これまでの働き方改革には何が足りなかったのか。今後、働き方改革の行く末はどうあるべきか。私たちが取り組むべき「真の働き方改革」とは?

小泉さんとサイボウズの青野社長が、政治と経済、それぞれの立場から未来を語り合いました。

プレミアムフライデーは特に地方では響いていない

青野:2017年、「働き方改革」の言葉が一気に広がりましたが、広がったわりには、世の中の方たちに全然響いていませんよね。

小泉:本当に響いてないですね。象徴的なのが、プレミアムフライデーです。青野さん、先日仕掛け人である経産省の官僚と対談してたでしょう。

青野:はい。そこで初めて「もっと柔軟に休んでほしい」という意図を知って、少し親近感を持ちました。

小泉:東京の大手町や丸の内ならともかく、地方に行くとほとんど誰もプレミアムフライデーを知らないですよね。ある意味「プレミアム」だねって、よく言ってますよ。

青野:「めずらしい」のプレミアムになっちゃった。地方だと確かに認知度は低いですね。

小泉進次郎(こいずみ・しんじろう)さん。自民党筆頭副幹事長、衆議院議員。米国戦略国際問題研究所研究員、衆議院議員秘書を経て、2009年に初当選、現在4期目。内閣府大臣政務官、復興大臣政務官、党農林部会長、党人生100年時代戦略本部事務局長などを歴任。1981年生まれ、神奈川県横須賀市出身
小泉進次郎(こいずみ・しんじろう)さん。自民党筆頭副幹事長、衆議院議員。米国戦略国際問題研究所研究員、衆議院議員秘書を経て、2009年に初当選、現在4期目。内閣府大臣政務官、復興大臣政務官、党農林部会長、党人生100年時代戦略本部事務局長などを歴任。1981年生まれ、神奈川県横須賀市出身
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小泉:東京からクルマで1時間程度の僕の地元、横須賀でも「プレミアムフライデー、何それ?」って声があります。

青野:日本全国の働く人たち全員が、毎日眠れないほど忙しいかというと、実はそうじゃない。プレミアムフライデーを含めて、働き方改革は、東京の上場企業でフルタイムで働く正社員しか見ていないんじゃないか、という感じになってしまっていますよね。

小泉:そういう残念な状況を作ってしまったのは、我々政治家の責任でもありますけどね。

プレミアムフライデー施策とは違って、サイボウズの広告シリーズは、すごく的を射ていると思いました。青野さんとは勉強会でもよくご一緒しますが、一度じっくりお話がしたかったんです。

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青野:うれしいですね、ありがとうございます。

小泉:働き方改革は、小手先のルール変更ではなく、社会のあり方を変える改革であるべきだと思うんです。このままの流れだと本当にもったいない。もっと大局観で物事を考え直す時期にあると思いますね。つまり、働き方改革ではなく、「生き方改革」です。

青野:問題は長時間労働だけではない。本当に困っているのは誰なんだ、というところからですよね。

24時間型社会、やめませんか? 2年半休めなかったコンビニ店長の話

青野:先ほど、働き方改革は、小手先のルール変更ではなく、社会のあり方を変える改革であるべきだとおっしゃっていましたが、小泉さんは、社会をどのように変えていくべきだと考えていますか?

小泉:日本の最大の課題は、少子化です。この問題がある中で、実現したい未来、実現したい社会を考えて、そこから逆算して何を変えるか。その順番で考えていく必要があると思います。

社会のあり方について、最近、僕がよく言うのは「24時間型社会を考え直しませんか」です。

青野:はい。

小泉:象徴的なのがコンビニエンスストアです。24時間いつでも開いている終日営業の店舗が9割近くで、便利だけど、便利さを追求するあまり人間が人として大切にしなくてはいけないものを置き去りにしてきたような気がするんですよ。

青野:ものすごく重要なテーマですね。

青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得している。2011年からは、事業のクラウド化を推進。厚生労働省「働き方の未来 2035」懇談会メンバーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)
青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を推進し、離職率を6分の1に低減するとともに、3児の父として3度の育児休暇を取得している。2011年からは、事業のクラウド化を推進。厚生労働省「働き方の未来 2035」懇談会メンバーやCSAJ(一般社団法人コンピュータソフトウェア協会)の副会長を務める。著書に『ちょいデキ!』(文春新書)、『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)
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小泉:講演会で「24時間型社会をやめてみませんか」と話した後に、知り合いのコンビニオーナーが話しかけてくださって。てっきり何か文句を言われるのかなと思ったんですよ。「24時間営業じゃなくなったら、コンビニは商売あがったりだ」とかね。

でも、出てきた言葉は「よくぞ言ってくれた。人手が足りず、私はもう2年半も休みが取れてないんだ」と。

青野:尋常じゃない。それはツラいでしょうね。

小泉:青白い顔で表情もやつれていて、本当に疲れてしまっていました。働き手がそこまで疲弊しながら、本当に24時間店を開けなくてはいけないのか? 働き方改革で最初に考えるべきところは、「これが正しい社会のあり方なのか、どうか」という視点だと思います。

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青野:「プレミアムフライデーで15時に退社できる」という社員の方もいれば、「2年半休みが取れていない」というコンビニ店長もいる。その状況を考えると、「働き方改革」「プレミアムフライデー」と周知するだけじゃ、変わらないですよね。

小泉:本当にそうです。

青野:もう10年以上前ですが、ドイツに2週間ぐらい出張したことがあるんですよ。スーパーは平日18時に閉まるわ、日曜日にほとんどのお店が閉まっているわで、「なんて不便な国なんだ!」と当時は思いました。

それで、日本に帰ってきて、真夜中に自宅近所のコンビニの店長に「ドイツは不便だった、日本は便利でいい」って話したんです。そしたら、「うらやましい、夜もずっと店を開けておくのが、本当はツラいんだ」っておっしゃっていて......。もしかして、僕のように真夜中に来る客がいるから、この人は店を開けておかなきゃいけないんだろうか!? とヒヤっとしましたね。

小泉:青野さんが当時見たドイツは昼は働く、夜は眠る。人間らしい生活を大切にしてるんですね。

青野:そのとき初めて、「不便だけど、実は社会として先を進んでいるのはドイツなのかも」と考えるようになりました。

小泉:便利か不便かで言ったら、もちろん便利な方が良いけど、そもそも、国家の目的は「便利な国をつくること」ではありません。子々孫々、世代のバトンを引き渡し、22世紀、23世紀、日本を日本として繁栄させていくことが国家の目的です。

青野:国家の目的を「国民の生存と繁栄」と定義すれば、「不便だけど、素晴らしい国」というのもあり得るということですね。

コンビニの無人化・省人化が進む? 夜間サービスへの正当な対価を

青野:日本がこれから目指す先は、「昼は働く、夜は眠る」ですよね。コンビニが夜も開けてくれていたら便利。だけど、夜閉まることが分かっているなら、昼間のうちに行けばいいだけですから。

小泉:そうです。

青野:もちろん、緊急時などに深夜の買い物をしたいことはありますし、仕事柄どうしても昼間に買い物ができない人もいると思いますが、すべてのコンビニやスーパーが24時間営業じゃなくてもいいのでは、と思います。

小泉:「便利」ではなく「緊急対応」という目的で存在する24時間体制の稼働が必要な仕事もありますしね。医療や警察、自衛隊もそうです。

青野:その方たちが働くためには24時間運営の保育園がないといけないし、そうすると夜間に働く保育士さんも必要ですしね。

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小泉:それに、「便利」とか「緊急対応」以外で、求められる夜の仕事もあります。例えば、お酒を飲むバー。

青野:はい。

小泉:仕事が終わってからバーで飲む一杯って、本当においしい。自宅で飲む缶ビールもおいしいけど、ひとあじ違う美味しさがあります。夜遅い時間に店を開けて、おいしいお酒を飲ませてくれる対価として、缶ビールの何倍もの対価を払うことは全然惜しくありません。

青野:夜、店を開けてくれることに対する正当な報酬ですよね。「昼働いて夜眠ろう」の社会を実現するために、夜間にサービスを利用する正当な対価を支払う流れをつくるべきだと思います。海外に比べると、日本の割増賃金はまだまだ低いですから。

小泉:はい。

青野:オーストラリアのシドニーでは、ただでさえ最低時給が約1,500円と高い。さらに、休日には2倍ほどの手当が付くと聞きます。よほどの理由がないと、人件費が高く、儲からないから店は長時間開けない。日本もそうするべきなんじゃないでしょうか。

小泉:「人件費が高いから店を開けない」という選択肢もあれば、無人化・省人化を目指す選択肢もありますよね。コンビニも、「夜11時~朝6時、店舗無人化計画」のような思い切った施策を進めてもいいと思います。まあ、夜だけ無人化どころか、完全無人コンビニが海外では出てきましたけどね。

青野:おもしろいですね。無人化を目指すとなれば、メーカーだってこぞってシステム開発をするし、キャッシュレス化だって進む。新しい投資が生まれますね。

小泉:そこなんです。省人化・無人化への投資は、人間らしい生活を取り戻すのと同時に、経済成長の後押しができる。

まだまだ若い労働力が豊富な中国でも、すでにコンビニの無人化・キャッシュレス化の投資がどんどん進んでいる。日本で進められない理由はないでしょう。

青野:そうですよね。

小泉:同様に若年人口が多いインドの場合だと、ITへの積極投資は若年層の雇用不安に直結するため改革は進めにくい、積極投資ができる日本がうらやましいとさえ言っているんです。

青野:日本は人口減少時代だからこそ、積極投資をできる分野があるんですよね。

「世界は誰かの仕事でできている。」 誰もが、「自分がこの世界を支えている」と誇り持てる社会を目指したい

青野:小泉さんは、これからの日本をどのように考えていますか?

小泉:理想的な社会のあり方は、少し想像力を働かせるだけで見えてくると思います。

青野:想像力を働かせる、というと。

小泉:例えば年末年始には、ゆっくり仕事を休んだ人も多かったでしょう。よく考えると、大晦日も元旦も働いて世の中を支えてくれた人がたくさんいた。そんな人たちのことを思い出してみてほしいんです。そして、その人たちは十分に報われているだろうか、と。

青野:なるほど。

小泉:僕は新年には毎年、皇居で開催される「新年祝賀の儀」に出ます。地元の横須賀から東京の皇居に向かって高速道路を走らせているときに、そういうことを考えるんです。

高速道路の料金所で働いている方たち、年末年始に任務に就いて日本を守ってくれている隊員の方たち......。夜間や休日に働く方がもっと十分に報われてほしいと思います。

青野:そういう人たちがいるおかげで、世の中が回っているんですよね。

小泉:ジョージアの缶コーヒーのCM「世界は誰かの仕事でできている。」を見たとき、「これだ!」と思いましたよ。そういう当たり前のことを一度立ち止まって考えないといけない時期にあると思うんです。

青野:誰かの仕事に想いを馳せる大切さ、ですね。

小泉:私は、誰もが、「自分がこの世界を支えている」と誇りを持てる社会を目指したいと思っています。誰かをやる気にさせるビジョンを語ること、そしてそれを実行していくことこそ政治家の仕事です。

青野:日本は現場力があって、全国隅々まで勤勉な人がいるめずらしい国です。どうすれば、みんながもっと楽しく幸福になれるのか。

小泉:2018年は、そういったことをしっかり議論する年にしたいですね。

サイボウズ式

後編につづきます)

執筆:玉寄麻衣 撮影:栃久保誠 編集:田島里奈(ノオト)企画:藤村能光

」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。 本記事は、2018年2月8日のサイボウズ式掲載記事
より転載しました。

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