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2018年06月21日 12時21分 JST | 更新 2018年06月21日 12時21分 JST

サイボウズ式:「みんなのおかげだ」って働く人は幸せそうだけど、「俺のおかげだ」って働く人は不幸そう──幸福学・前野隆司教授×サイボウズ・青野慶久

仕事をすることで幸せになるにはどうしたら良いのでしょう?

サイボウズ式


「楽しく働きたい」と思っていても、なかなかうまくはいかないもの。毎日の作業に追われ、仕事に楽しみを見出せなくなってしまうこともあるのではないでしょうか?

お金やモノ、地位による幸せは長く続かない――。こう話すのは、『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)の著者で、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科(SDM)の前野隆司教授です。

幸せになるには「4つの因子」をバランスよく満たすことが重要だそう。仕事をすることで幸せになるにはどうしたら良いのでしょう? サイボウズの例を交えながら聞きました。


幸せな人は4つの因子をバランスよく満たしている

青野:そもそも幸福って、あいまいですよね。幸せの感じ方は、人によってズレがあるんじゃないかと思っていて。

私も「幸せですか?」と聞かれたら「はい」と言い切れる自信がないんです。

前野:幸せの尺度はまさに十人十色のため、今までは哲学や宗教の領域とされてきました。

でも、それでは研究しようがないので、「10が最高、0が最悪だとしたら、あなたはどのくらい幸せですか?」と聞くのが心理学的な計測方法のひとつです。

ただ、この計り方だと、日本人は先進国中で最下位になってしまう。

青野:なるほど。10を選択する日本人は少なそうです。

前野:西洋の人は10から引き算して「8ぐらいかな」と考える。でも、日本人は5を中心に「自分は幸せ寄りか、不幸寄りか?」と考えてしまうんですよ。

サイボウズ式
前野隆司(まえの・たかし)さん。1962年、山口県生まれ。東京工業大学大学院修士課程修了。カリフォルニア大学バークレー校客員研究員、ハーバード大学客員教授、慶應義塾大学理工学部教授などを歴任し、現在は慶應義塾大学大学院 SDM研究科委員長およびSDM研究科付属SDM研究所長、慶應義塾大学ウェルビーイングリサーチセンター長を兼任。幸福学の日本での第一人者として、個人や企業、地域と各フェーズで活動する。著書には『幸せのメカニズム 実践・幸福学入門』(講談社現代新書)『実践・脳を活かす幸福学 無意識の力を伸ばす8つの講義』(講談社)など。

前野:いま紹介した以外にも、幸福にまつわる研究やアンケート調査はたくさんあります。それらを分析していった結果、「4つの因子」を満たす人は幸せである、ということが分かりました。

サイボウズ式

青野:それがこの図ですね。

前野:一般的に4因子のバランスが取れていて、かつ高い人は幸せだという研究結果があります。ただし、個人によってバラつきもあるでしょうね。

また、企業によっても、重視される因子は異なります。おおむね古い体制の会社は、人間関係はいいけれど「やってみよう」「ありのままに」の因子が弱い。逆に新しい会社は「やってみよう」が強く、仕事ができない人への配慮が薄い。

青野:なるほど。

前野:個人は自分や会社の特徴を理解して、4因子のバランスをうまく取らないといけません。

ある研究では、幸せな人は創造性が3倍、生産性が1.3倍高いという結果(※)が出たと言われています。

そのため私は、働き方改革を成功させたいなら、まずは幸せにならなきゃダメだ、と提唱しているわけです。

※ハーバードビジネスレビュー 特集:幸福の戦略

青野:4因子のバランスがよい環境をつくることは、企業としてもメリットがあるということですね。

サイボウズ式
青野慶久(あおの・よしひさ)。1971年生まれ。愛媛県今治市出身。大阪大学工学部情報システム工学科卒業後、松下電工(現 パナソニック)を経て、1997年8月愛媛県松山市でサイボウズを設立した。2005年4月には代表取締役社長に就任(現任)。社内のワークスタイル変革を行い、2011年からは、事業のクラウド化を推進。著書に『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)。『会社というモンスターが、僕たちを不幸にしているのかもしれない。』(PHP研究所)など。

「人のために働く」ことが、楽しく働くための第一歩

前野:サイボウズさんの「4つの因子」のバランスはいかがですか?

青野:私は、チームで働くことの重要性をよく唱えていますが、それによって「ありがとう」の因子が高まるかな、と期待しています。タスクを分担して、みんなでやれば貢献感が高まるし、助けてもらうと感謝する機会も増えます。

前野:いいですね。

青野:武者小路実篤の言葉で「感謝の念には幸福感が伴う」というのがあって。一般的には感謝されることが幸福だと思われているけれど、実は感謝することが幸福なんだ、と。

前野:それはいろんな研究結果がありますね。たとえば毎日3個、感謝の言葉を書き続けていると、しばらく後には明らかにうつ状態が改善されたという研究があります。

青野:おお、それはすごい。

前野:私の妻は友達3人と毎日、誰か・何かに感謝したことを見せ合うそうです。他人の感謝でも、見るだけで優しい気持ちになれるから、1人でするより3倍楽しいんですよ。

感謝すると、幸せホルモンとも呼ばれるセロトニン、オキシトシンが分泌されて、利他的な気持ちが生まれるんです。

青野:「みんなのおかげだ」と思っている人は幸せそうだけど、「俺のおかげだ」って思っている人は不幸そうに見えますね。

前野:無理やり利他的な行動をしても幸せになる」という研究もあります。

自分のために20ドル使うグループと、他人のために20ドル使うグループに分けて幸福度を計ったら、他人のために使ったグループのほうが、幸福度が大きく上がったんです。

青野:おもしろい実験ですね。

サイボウズ式

前野:アメリカのジョンソン・エンド・ジョンソンでは、労働時間の1%相当をボランティアにあてることを推奨しています。これも、社員の幸福度を上げるための仕組みのひとつです。

青野:人のために行動することをルール化するわけですね。そうすると、会社の仕組みによって社員の幸福度を上げられるかもしれない。

前野:高度成長期は「俺が、俺が」と競い合うことで成長が進みましたが、今の時代、社会を維持するためには互いに助け合ったほうがいいでしょう

利他的に働くことが幸せにつながるから、「チームで働く」ことが重要なんです。それに気付くことが、幸せに働くための第一歩かもしれない。

青野:なるほど。私は企業の生存競争の中で、それを見出したような気がします。

サイボウズを強い会社にしていくには、給与を上げる以外の方法で社員の幸福度を上げる方向に舵を切らないと無理だな、と。

前野:なるほど。

青野:最初は数字至上主義だったんです。「3年で売り上げを倍にするぞ! 成果を出せば、給与もはずむぞ!」と。でも、うまくいかなかった。

この方法は疲弊するわりに、会社の成長に直結するものではないと感じました。

前野:そこに気づく会社と、気づかないままもがいている会社の分かれ目はどこなんでしょう?

青野:サイボウズは12年くらい前、一度倒産しそうになったんです。離職率が28%ありましたから、やり方を変えないと崩れる状態だった。だから大きく変化せざるを得なかったんです。

「カネ・モノ・地位」による幸せは長続きしない

青野:幸せになるには「4つの因子」を満たせばいいんですね。サイボウズは、なんとなく全部押さえているかもしれません。

前野:どうやって押さえているんですか? 

「ありがとう」の因子はチームで働くことでカバーしているとして、「やってみよう」「なんとかなる」「ありのままに」の因子はどうでしょう?

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青野:「やってみよう」は、ゴールを「MicrosoftやGoogleよりも使われるグループウェアメーカーになる」と置くことで満たしているのではないでしょうか。

前野:はい。

青野:しかし、毎年ゴールを達成するためのノルマは無いんです。売り上げ目標は、私が決めるのではなく、社員同士が話し合った上で提案してきた数字を使う。このあたりが「なんとかなる」「ありのままに」の因子を押さえている点ではないでしょうか。

前野:幸せにまつわる研究で有名なものに「長続きする幸せ」と「長続きしない幸せ」があります。

金やモノ、地位など、他人と比べられる「地位財」による幸せは長続きしない。それに対して、安全や健康、精神がよい状態(非地位財)による幸せは長続きします。

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青野:なるほど。「地位財」で社員を引っ張るやり方が通用しないと理解したので、「非地位財」での方法を自分なりに編み出したのかもしれないですね。

前野:従業員の8割が「会社へ行きたくてたまらない。はやくみんなに会いたい!」という会社があるんです。

でもその会社の社長によると「最初はブラック企業だった」と言っていました。みんなが辞めていって、経営者も体を壊して、なんとかしなきゃと考えた。

やっぱり苦労して方法論を見つけた社長は、説得力がありますね。

青野:そういう意味でいうと、日本の大企業はなかなかきっかけがなくて非地位財にシフトできないかもしれませんね。

前野:そもそも大企業は地位財であるお金儲けの得意な人が偉くなるから、非地位財を重視する方針に転換しにくいんですよね。

それに国が大企業を守りますからね。きっかけが生まれにくい。

青野:国が優遇するスタンスを変えない限り、大企業は変われないかもしれませんね。

7万5,000ドルが上限? 年収と幸福度の関係

青野:かつては大企業に入りさえすれば幸福だと言われた時代もありましたよね。

前野:ええ、右肩上がりでボーナスも出るし、新製品を出せば世の中に貢献できる、という時代もあった。

高度成長期ならそれで良かったけれど、1970年代から経済が成熟して、成長率が落ちました。

青野:私の親は、テレビが家に来たのが嬉しかった世代ですが、いま家にテレビがあることを「幸福に感じろ」と言われても難しいですね。

前野:「地位財」ではなく「非地位財」を重視する道に方向転換しないといけない時代になったんだと思いますね。

青野:経営者は「どうすれば社員が幸せになるのか」を意識する必要がありますよね。

前野:その通りです。

青野:日経平均株価が上がることは、社員の幸せとは関係ないですもんね。でも、いまだに「地位財=幸福」だと信じている経営者は多い。

前野:はい。ただ事実として、お金と幸せにはある程度相関関係があるといわれています。

青野:そうなんですか?

前野:ノーベル経済学賞を受賞したカーネマンの研究によると、年収7万5,000ドルまでは、幸せ(感情的幸福)と年収が比例します。今の為替レートで日本円に換算すると800万円程度ですね。

しかし、それ以上になると、どれだけ大金持ちになろうが幸福度は大して変わらないといわれています。

青野:腹八分目に近い考え方ですね。ありすぎるといいことがない。収入と幸福度は、ある一定のところまでは相関関係があるけれど、その先はあまり意味がない、と。

前野:アメリカのある会社では、何百万ドルもある経営者の給料をどんどん下げ、逆に社員の給料は上げて、どちらも7万5,000ドルに近づけています。そうすればみんなが幸せになるはずだ、と。

青野:おもしろい!

前野:「格差が大きい国ほど不幸である」という研究結果もあります。福祉とかベーシックインカムとか、何か工夫して格差をなくす社会になっていくといいですね。

幸せは一瞬で作れる

青野:サイボウズでは、「アホはいいけど、ウソはだめ」と提唱しています。

「アホはいい」っていうのは、楽観的になるためのキーワードです。失敗したことでボーナスを減らすわけではないので、そのあたりが「なんとかなる」の因子と関係あるかもしれません。

前野:なるほど。あとは企業風土も関係ありますよね。グチばかり言う人と話していると、つい自分もつられて「やっぱりあいつダメだよね」と言ってしまう。ネガティブもポジティブも、他人にうつるんですよ

サイボウズ式

前野:ある会社で「幸福学」の講演をする機会がありました。そうしたら私が伺うと決まった瞬間に、もう幸福度が上がっちゃったんです。

青野:決まってすぐに? なぜですか?

前野:そこはブラック企業と呼ばれるような環境の会社だったのですが、社長が「前野さんの本を読んで感銘を受けた。これから社員みんなを幸せにするぞ!」と発表した。

それだけで幸福度が上がったんです。

青野:おもしろい! 一瞬で空気が変わるというのは、分かる気がします。

サイボウズも、業績を見ると横ばいの期間が4年間くらいあって。でも、空気はよかったんです。

前野:へえ、それはなぜ?

青野:「切り替えるよ。今までのやり方を止めて新しい方向に行くよ」っていう空気がみんなに浸透していたからでしょうか。

業績は上がっていないのに離職率は下がる、という不思議な現象が起こったんです。

前野:なるほど。結局、心の問題なんですよね。

青野:地位財で得られる幸福は、5年でいくら貯めたとか、10年我慢して部長になったとか、時間がかかる。

でも、非地位財による幸せは一瞬で手に入れられるんですね。

前野:一瞬で作れるんだから、やらない手はないですね。

文:村中貴士 編集:杉山大祐/ノオト 撮影:栃久保誠

サイボウズ式」は、サイボウズ株式会社が運営する「新しい価値を生み出すチーム」のための、コラボレーションとITの情報サイトです。本記事は、2018年3月13日のサイボウズ式掲載記事「みんなのおかげだ」って働く人は幸せそうだけど、「俺のおかげだ」って働く人は不幸そう──幸福学・前野隆司教授×サイボウズ・青野慶久 より転載しました。