Googleの創業者二人組 ラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが、殺人ロボットに対して自分たちだけは標的から外すよう設定していたことが分かりました。
にわかには信じがたい話ですが、動かぬ証拠はGoogleのサーバ上で今も確認できます。上はその設定ファイル killer-robots.txt のスクリーンショット。
......「Google」で「ロボット」「除外」という時点で誰もが思いつくような、Google のクローラやロボットの話題になるたび繰り返されてきたネタでお伝えする方も恐縮せざるを得ませんが、当の Google が実際に公開しているファイルです。
(蛇足ながら解説:「キラー」が付かない robots.txt は、ネット上で実際に広く使われている紳士協定的な取り決めのひとつ。Googleなどが検索エンジンのデータベースを作るために使う、ウェブページを次々と辿ってデータを取得してゆく Crawler などの自動化プログラム ( robots )に対して、特定のページやドメインを見ないようにお願いするテキストファイルです。
用途は単に検索エンジン経由で見つけてほしくないときや、頻繁に内容が変わるのでデータベースに保存されるとかえって困るような場合など。あくまで単なるお願いなので、実際のロボットが守るとはかぎりません。今回 Google が自社ドメインのルートに置いた killer-robots.txt は、この robots.txt に Killer を付けて中身にファイルではなく人名を書くことで、「殺人ロボットに対して標的から除外するようにお願いするファイル」という冗談です。)
4月1日でもないのに何故またこんな冗談を、と思えますが、Google といえば先日の開発者カンファレンス Google I/O 2014 の基調講演中に、聴衆に紛れていた人物が突如、Googleは「人殺しロボットを開発する全体主義企業」だ、(開発者は)そんな企業に加担するのかと叫んで講演を妨害し、警備員に連れ出される一幕があったばかり。
killer-robots.txt がこうした抗議活動への皮肉な回答なのか、そもそもGoogle内でどのような意思決定を経て掲載したのかも定かではありません(社内の反ロボット派が抗議のつもりで載せたのではないと思いますが)。しかし Google では Androidの父ことアンディ・ルービン氏が新設のロボットビジネス部門責任者に就任し、一年で20近くのロボット技術関連企業を買収するなど、高度なロボットの開発に膨大なリソースを投入しているのは事実です。
Googleに買収されたなかには東大発のロボットベンチャー シャフトや、米国国防高等研究計画局 DARPAから資金提供を受けて軍用ロボットを開発してきた Boston Dynamics も含まれます。
それはさておき killer-robots.txt を眺めれば、これはこれで様式的なつっこみ待ちばかりの中身です。まず最初の User-Agent 指定、本来の robots.txt ではクローラなど対象を名指しする部分は T-800 と T-1000。いわずと知れた、映画『ターミネーター』シリーズに登場するロボットのうちシュワルツネッガーが演じるほうと、ロバート・パトリック演じる液体金属のアレです。
検索エンジン避けの robots.txt では対象を「すべて」にするためワイルドカード*が使われますが、Googleの killer-robots.txt ではなぜか2モデルのみ決め打ち。ロボ忍者オートモどころか、Tシリーズの改良型T-850やらT-1001も防げません。
さらにその下、robots.txt ではページやディレクトリを指定する部分ですが、ここはGoogle流に「+LarryPage」とプラスを付けることで人間を指定しています。ファイルシステムやURLを拡張して万物を一意に指定できる仕組みを作ろうぜ!的な発想は、URIという箱を作った後は市場原理と普遍の鍵のあいだを行ったり来たりしているうちにぽっと出のTwitter が「@ユーザー名」の仕組みでかっ攫っていった感がありますが(深く考えずに読んでください)、少なくとも Google方式で殺人ロボから身を守りたい場合、Google+ 加入が必須のようです。
(ついでにいえば、指定されているのは創業者二人組だけで、Googleリアルロボットの父となりそうなアンディ・ルービン氏は除外されていません。ルービン氏の場合はいずれ自分が作った Nexus 6型に詰め寄られるところまでが夢なのかもしれませんが)。
このように明らかな冗談ではあるものの、「殺人ロボット企業」云々に対する皮肉な回答にもなり得る点は、本物の robots.txt からしてあくまで「お願い」するのみで、尊重するか否かは実際のロボットプログラムに委ねられていること。
Google I/Oに闖入した抗議者を妄想に駆られた陰謀論者と断じるのは簡単ですが、Google 傘下の Boston Dynamics も含めて、軍用・保安用ロボットには大きな市場が期待されています。すでに当たり前の兵器として実用化されている無人機や遠隔操作ロボットならばともかく、自律動作・自己判断で人間を攻撃するロボットは果たして許されるのか、いまのうちに国家間で何らかの取り決めをしなければという取り組みはさまざまなレベルで続けられており、たとえば国連のCCW (特定通常兵器仕様禁止制限条約)へのロボット条項追加も議論が進んでいる段階です。
( ※ Pepper 君は小生意気なだけでとても平和的なロボットです。)
社会に大きなインパクトを与える新技術について、企業や科学者の責任や倫理はどうあるべきか?は古くて新しい大きなテーマですが、インターネットにかかわる技術者のあいだには、安易な技術的解決期待論を戒める(というより笑う)、RFC3514 という古典ジョークがあります。( The Security Flag in the IPv4 Header 、2003年のエイプリルフール)。
RFC 3514は、IPパケットのヘッダに「善悪」を示す1ビットを含めることで、あとはネットワーク側で「悪ビット」の立ったパケットを単純に弾けば完全なセキュリティが実現できる!というアイデアでした。Google も自社の API に " &evil=true " なるパラメータを設けて、悪意のあるアクセス者が自分で悪意を表明できる仕組みを発表したことがあります。
今回の killer-robots.txt もまた単なる冗談ではありますが、「拘束力はなく実装者しだい」の代名詞である robots.txt のパロディであることにより、「ターミネーターはお行儀よく killer-robots.txtを確認したうえで抹殺可否を尊重するのか?」というもっともなつっこみを通じて、一社の技術開発のみを標的にしてどうにかなる問題ではないことを示している、と解釈できないこともありません。
(2014年7月7日Engadget Japan「Google創業者二人、殺人ロボットから自分たちだけは守られるよう設定していたことが発覚」より転載)