「子どもを扶養にできない期間をなくして」特別養子縁組の親が、制度改善を訴える

「制度から抜け落ちている状態だと思います」。特別養子縁組の試験養育期間に、育てている子どもを扶養に入れられないという問題が起きています

関東に住む風間たかしさん(仮名)は、パートナーと子ども2人の4人暮らし。子どもたちは2人とも、特別養子縁組で迎えました。

ところが、子どもを迎えてすぐの「試験養育期間(監護期間)」に、会社から子どもを社会保険の扶養に入れられないと言われました。

そのため、風間さん家族は子どもを別途国民健康保険に加入させなければならず、ただでさえ子育てでお金が必要な時に、金銭的負担が増えたといいます。

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特別養子縁組の試験養育期間とは?

特別養子縁組とは、何らかの事情で生みの親が育てられない子どもを、親になれる家族が迎え入れる制度です。

子どもが家庭で愛情を受けて育つことを目的とした制度で、法律上も実子になります。

縁組は家庭裁判所の審判で成立しますが、その前に育ての親が子どもを養育できるかを見極めたり、生みの親の最終的な意思確認をしたりする、最低6カ月の「試験養育期間」が設けられています。

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この期間は、子どもは戸籍上は「同居人」扱いでまだ法的な家族ではないものの、風間さんたちのようにあっ旋団体を通して特別養子縁組をする場合は、育ての親が生活費、医療費、学費など、子どもにかかる費用すべてを支払います。

それにも関わらず、子どもを扶養に入れられないのは、健康保険法で扶養の対象の範囲を「法律上の親族」に限定しているからです。

ただし、法律上の親族でなくても子どもを扶養に入れられるケースもあります。それは内縁の配偶者の子どもです。健康保険法では、事実婚の父・母の子どもは、生みの親が亡くなった場合でも、事実婚配偶者の扶養に入れられると定められています。

風間さんは、事実婚のように家族としての実態があれば扶養に入れられるケースがあるにもかかわらず、実際に子育てをしている試験養育期間に扶養に入れられないのはおかしいと感じています。

「子どもを育てているのに扶養が認められないのは、子どもと親の双方にとって一つも利益がありません。健康保険の制度から抜け落ちている状態だと思います」

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扶養にできるケースもある

風間さんは、この問題の実態を把握するため、あっ旋団体を通じて特別養子縁組をした87家庭に、試験養育期間中の扶養について尋ねるアンケートを実施しました。

その結果、回答者の約9割が子どもを自分の社会保険に入れられず、国民健康保険に別途加入していることがわかりました。

子どもを扶養に入れられなかった人たちからは「会社の健康保険に入れてほしいと何度も交渉したが、前例がないという理由で断られた」「実質は扶養しているので、会社の社会保険に入れて欲しい」などの声が寄せられました。

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その一方で、少数ではあるものの扶養に入れられた人たちもいました。

扶養にできたケースでは「職場で相談したら人事が手続きしてくれた」「経営者なので社労士にお願いしたなど」など、会社や健保組合が柔軟な対応をしていました。

この結果に、風間さんは「健康保険団体・会社・自治体によって、健康保険加入や扶養手当、育児給付金支給格差がある実態がわかりました」と話します。

制度の整備は、子どものためにも大切

試験養育期間中も家族としての実態があるのに、なぜ扶養に入れられないのか。

厚労省に尋ねたところ、担当者は「最終的に特別養子縁組を結ばない可能性もゼロではなく、その場合に扶養から外さなければいけないという不便が生じるため」と回答しました。

しかし、特別養子縁組に詳しい早稲田大学法学部の棚村政行教授は、「試験養育期間中も事実状態として子どもを育てていることを考えれば、扶養に入れる方が適当だ」と話します。

特別養子縁組で、かつて扶養と同じように問題になっていたのが育休です。

2017年に育児・介護休業法が改正されるまで、特別養子縁組をする親たちは、試験養育期間中に育休を取得できませんでした。

そのため、妻か夫のどちらかが仕事を辞めなければいけない、無給の休職を取得しなければいけない、などの問題が発生。そういった状況に対して「試験養育期間中も育休の対象にしてほしい」という声が高まり、法改正をして取得できるようになりました。

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棚村教授によると、この法改正の時には「育休は子どもを育て守っていくための制度だ。そして試験養育期間は国が設けたものなのだから、この期間も育休を取得できるようにすべきだ」という議論が行われました。

同教授は「同じ議論は扶養にも当てはまる」と言います。さらに、事実婚家庭で扶養に入れられることを考えると、特別養子縁組でも認めるのが妥当だとも考えています。

「社会保険には、事実婚のような家族を保護するという発想があります。それを考えれば、生活保障や福利厚生を実現するためには、法的な状態より事実を優先するという考え方がしっくりくると思います」

また棚村教授は、厚労省が懸念するように、最終的に養子縁組が成立しなかった場合でも 「扶養を外す手続きをすればいい」と指摘します。

国は近年、生みの親が育てられない子どもたちを、施設ではなく家庭に近い環境での養育する方針を示しており、その一つとして特別養子縁組を推進しています。

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棚村教授は「社会保険のような周辺制度を整備することはこの方針を後押しし、子どもたちを守ることにもつながる」と話します。

「特別養子縁組は、生みの親が育てられない子どもや、虐待、ネグレクト等で育てることが適当ではない子どもたちを、温かい家庭で育てていくための制度です。利用促進のために、周辺制度などの環境を整え、子どもたちの暮らしや育ちを応援するのは非常に大事だと思います」

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