東京新聞・望月衣塑子記者を支援する署名集めた中学生の記事、「炎上」に加わった1人に筆者が会ってみた

ネトウヨの若者?それとも議論好きなビジネスマン? そんな事前の予想は見事に覆された
望月記者を支援する署名を中学生が集めたことを報じるハフポスト記事の「炎上」に加わった一人と話す筆者(右)
望月記者を支援する署名を中学生が集めたことを報じるハフポスト記事の「炎上」に加わった一人と話す筆者(右)
HuffPost Japan

いったいどんな人なのだろうか、と思いをめぐらせた。ネトウヨの若者か。それとも議論好きな中年ビジネスマン男性か……。

3月。私は勤め先のハフポスト日本版のオフィスで、ある人物を待っていた。その人は、私の記事をめぐって起きたTwitter上の「炎上」に加わった一人だった。

記事は、記者会見での質問をめぐり、首相官邸側から問題視されている東京新聞の望月衣塑子記者を支援する署名をある女子中学生がインターネットで集めたことを伝える内容だった。

東京新聞の望月衣塑子記者を支援する署名を呼びかける「change.org」のページ
東京新聞の望月衣塑子記者を支援する署名を呼びかける「change.org」のページ
Change.org

ところが掲載直後から、Twitterでは「そんな中学生は実在しない」「親が裏でやらせている」と決めつける投稿が相次ぎ、彼女や母親の匿名アカウントには誹謗中傷が押し寄せた

2人の身元を特定しようとする動きも出てきて、中学生側は法的措置を検討する事態までなった。

そんな動きを、ネットテレビ「AbemaTV」の報道番組が報じた。前述した炎上に加わった人は、番組側が取材の中で接触、私に対面を提案してきた。

私は二つ返事で受け入れた。それは何もその人と議論するとか、記事をめぐって釈明するとかではなくて、ただ、純粋に興味があったからだ。

記者の性分なのだろう。Twitterの140文字の向こうにいる、炎上に加わっていく人のリアルを知りたかった。その意味では、私にとっては対面というより取材に近かった。

予想外の人物像

オフィスのインターホンが鳴り、ドアを開けた。驚いた。現れたのは事前の予想を裏切って壮年の女性だったからだ。

プライバシーの保護のため、AbemaTVの番組にならって、「佐藤さん」と仮名で呼ぶことにする。

応接室のソファに腰掛けながら、私たちは互いの自己紹介から始まった。佐藤さんは30代の主婦で、Twitterをやるのは主に朝や夜の寝る前。自衛隊に関心があり、保守的な考えに賛成の立場ということだった。

佐藤さんが最初に記事を知ったのは、ツイートなどをまとめている「ツイッター速報」の投稿を通じてだった。

投稿をタップすると、ツイッター速報のページに飛ぶが、大人の女性が中学生になりすましていると決めつけるようなほかのユーザーたちのツイートがまとめられていた。

「ひどいなあ。どうせ中2の女の子なんて実在しないんでしょ。いたとしても、大人の息がかかっている」

佐藤さんは目を通しながら、そう思ったという。

根底にはメディア不信

佐藤さんが中学生の存在を疑った理由の一つに、2014年の総選挙をめぐって安倍政権に疑問を投げかけるサイトを、大学生が小学4年生になりすまして作っていたことがあった。

「ああ、またか」と思ったそうだが、そもそも、佐藤さんには、メディアに対する根強い不信感があった。

「テレビとかでも路上で一般の人にインタビューしてその意見を紹介するのも、政権に批判的な声ばかりでしょ。メディアは信じられない。特に朝日新聞や、朝日と関連があるハフポストは信用できない」

佐藤さんにしてみれば、ハフポストの記事で、かつ安倍政権に関わる内容ということだけで、頭は「なりすまし疑惑」でいっぱいになり、色んなことがそれを裏付ける「証拠」にみえたのだろう。

例えば、中学生が匿名でやっていたTwitterのアカウントに「やっぱり中2ではなかったんですね」とメンションを飛ばしてブロックされると、「やっぱり怪しい」と思ったり。

あるいは中学生のアカウントが、学校があるはずの時間帯につぶやいていることを別のユーザーが調べて指摘する投稿を見て、「大人がなりすまして投稿している」という心象を強めたり。

中学生のもとには当時、誹謗中傷も含めて大量の投稿が押し寄せていた。やましくなくてもブロックすることは不自然ではない。

学校があるはずの時間帯にツイートしたことについても、何らかの事情で中学生がツイートできた可能性だってある(筆者は取材で確認しているが、プライバシーを守るため言及を控える)。

でもそういうことには思いをいたさず、「気軽にツイートしたり、リツイートしたりしていた」(佐藤さん)という。

私は記事の続報で、誹謗中傷する投稿が殺到している状況について、中学生と母親のインタビューを報じた。2人の手を撮影した写真も掲載した。

署名集めをした中学生(左)と母親
署名集めをした中学生(左)と母親
Kazuhiro Sekine

佐藤さんはこの記事を読んでようやく中学生は実在すると感じたが、それでも「母親が娘を操って署名集めをさせている」「コメントも母親が言わせている」との疑いは残ったという。

結局、ここまでくると佐藤さんが記事を信じるか信じないかの基準は、何か特段の根拠というよりは、そもそもメディア、特にハフポストへの不信ということに尽きるのだろう。

ただ、メディアと言っても、佐藤さんは産経新聞の記事は信じているという。理由を尋ねると、佐藤さんはしばらく考え込み、こう打ち明けた。

「結局、自分が信じたい方向だから信じているだけなのかも」

私は途方に暮れた。「ハフポストである限り、この先も信用されないのか」と。

「だったら、わかってくれる人だけに伝わればいいのでは」

そんな悪魔のささやきが、私の頭をよぎった。

だが、それを私は突っぱねた。ハフポストは対話を重んじるメディア。「信頼してくれる人」だけでなく、「信頼してくれない人」とも向き合いたいから。

インナーサークルのように議論を閉じてしまえば、メディアが社会の分断を招くことになりかねない。

もっとも今回、中学生や母親に対しては許しがたい誹謗中傷や、プライバシーを暴くような行為もあった。そうしたものは絶対に許さない。

ハフポストや私のそうした姿勢を考えると、ハフポストを信じていない佐藤さんと直接話せたことは本当によかったし、何より、面会に応じてくれた佐藤さんに感謝している。佐藤さんにしてみれば、面会に応じる義理はないのだから。

一方、佐藤さんがこう打ち明ける場面もあった。「政治の話やニュースに関心はあるのだけど、それを周りの友人には気軽に話せないんです。それができるのは結局、Twitterしかない」。佐藤さんも悩んでいた。

対面が終わった後、佐藤さんは「私がこうしてやって来たこと、私がどんな人かということ、ちゃんと書いてくださいね。いなかったとされることは嫌なので」と言った。

その時、取材に応じた中学生の言葉を思い出した。

「(私は)ちゃんといます。信じてくれない人がたくさんいて悲しいです」

実在を疑われ続けた中学生のそんな思いを、佐藤さんもわかってくれると信じたい。

報道機関にとって信頼は生命線だ。記者である限り、それを高めるために絶えず努力していきたい。一方で、ソーシャルメディアが発達した昨今、情報を広く発信するすべは報道機関の専売特許ではない。

だからこそ、あらゆるユーザーが投稿したり、相手にメンションを飛ばす前に、面と向かって同じことが言えるかどうかを考えるようになればと願う。

望月記者の発言に注目

記事をめぐって改めて注目された望月記者が、一連の出来事をどう受け止めたのかも興味がある。

期せずして望月記者は4月25日、ハフポストが運営しているネット番組「ハフトーク」(午後10時から1時間)に出演する予定だ。番組での発言にも注目したい。

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