なぜ「膀胱がん」治療は中断率が高いのか。医療や社会に、患者が求める理解と支援

フェリング・ファーマが膀胱がん啓発メディアセミナーを開催。最新調査や専門家と患者によるパネルディスカッションを通じて、膀胱がんを取り巻く課題を語り合った。

医療の発展などにより、日本の平均寿命は緩やかに伸び続けている。

平均寿命の伸長に伴い、病気や後遺症との共生や、患者のウェルビーイングという言葉も身近になった。医療や社会が患者の抱える多様なニーズや課題にどのように向き合い、またどのように寄り添っていくのか。患者の心身を支えるための議論が、今まで以上に求められている。

そうした中、心理的ハードルの高さが受診の妨げになりやすい病気や、心身の負荷から継続的な治療を断念する患者が多い病気も数多く存在する。その1つが「膀胱がん」だ。

9月上旬、フェリング・ファーマは、膀胱がん啓発メディアセミナー「痛くない血尿は赤信号 約30年ぶりに標準治療(BCG治療)後の新たな開発が進む膀胱がん〜患者さん200名のアンケート調査からみた、現在の標準治療と今後の展望〜」を開催。

同社が実施したアンケート調査「筋層非浸潤性膀胱がん患者調査」の結果や、専門家と患者によるパネルディスカッションを通じて、膀胱がん治療の現在地と今後について発信した。イベント内容を一部抜粋して紹介する。

膀胱がんのサインや、治療中断率が高い理由とは?

イベントには、同社パブリックアフェアーズ&コミュニケーションズ 部長の柳場義豊さんが登壇し、本調査の結果を紹介した。

調査は、筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)と診断され、膀胱内注入治療を経験した患者200人を対象に2025年5月〜8月の期間で実施された。

膀胱がんと診断されてから回答までの平均期間は7.2年で、平均年齢は69.2歳(60〜70代が87%)。膀胱がんの発症率は男性が女性の約3倍と言われているが、本調査の回答者の96%は男性に偏っており、これらの情報を前提とした上での調査結果となっている。

医者と患者(イメージ画像)
医者と患者(イメージ画像)
Nadiia Lapshynska via Getty Images

膀胱がんを疑ったきっかけを聞いたところ、最も多く挙げられたのは「血尿が出た」(66%)で、2番目に多かった「健康診断・人間ドックで指摘された」を大きく上回る結果となった。また、膀胱がんを疑ってから最初の医療機関を受診するまでの期間は、1ヶ月以内が約8割と最も多く、51%が1週間以内と回答した。

一方、膀胱がんを疑ってから1ヶ月以内に医療機関を受診しなかった人にその理由を聞いたところ、「受診することに心理的抵抗があったため」が「症状が軽度であったため」と共に34%で最も多い結果となったといい、部位的な理由から心理的ハードルの高さが課題となっていることがうかがえる。

筋層非浸潤性膀胱がんの標準的な治療方法は、TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)後に弱毒化した結核菌「BCG」を膀胱内に注入(BCG治療)し、がん細胞に対する免疫反応を誘導することで、がんの再発予防や根治を目指すというものだ。 

一般的に複数回にわたって行うBCG治療だが、中断する人も多く、調査では予定回数に満たなかった患者の割合は全体の24%に上った。特に予定回数8回の患者では、4割が予定回数に満たない結果となったという。中断の理由としては、施術時間や通院頻度などへのストレスや身体的負担などがあるという。

また、膀胱全摘術に関する設問では、97%が膀胱全摘を「行いたくない」 「避けたい」と回答。治療方針について医師から希望を尋ねられた患者は全体の67%で、尋ねられなかった患者の14倍、希望を伝えることができたという。

専門医と患者によるパネルディスカッション

専門医と患者によるパネルディスカッション
専門医と患者によるパネルディスカッション
フェリング・ファーマ

パネルディスカッションでは専門医や患者が登壇し、調査結果などを基に膀胱がんに関する医療現場での課題や社会的な課題について議論を交わした。進行役は一般社団法人「CSRプロジェクト」代表理事の桜井なおみさんが務めた。

膀胱がんの早期受診に向けて患者ができることは、初期症状のサインを見落とさないことだ。

聖マリアンナ医科大学 腎泌尿器外科学主任教授の菊地栄次さんは「特に女性の受診が遅れる傾向にあります。女性は座位で排尿するため、自身の尿の状態を確認しない傾向があることが一因です」と話し、健康診断や人間ドックの定期的な受診も大切だと説明した。

1995年に35歳で膀胱がんを診断され、全摘を経てストーマを使用したライフスタイルを選択している小出宗昭さんは、当時を振り返り「勤め先のトイレで血の塊が出て、会社の保健師さんに何気なく話したら『若いとはいえ、専門医に診断した方がいい』と勧められたことが発見につながりました」と話し、身近に症状を相談する場所を持つことの大切さを強調した。

続いて、東京大学医学部泌尿器科学教室教授 日本泌尿器科学会理事長の久米春喜さんが、BCG治療の有用性と患者の精神的・身体的負担について話した。

6〜8回にわたっての治療が一般的な中、治療の中盤あたりから膀胱炎や尿道炎、頻尿、全身反応を起こして結膜炎や関節炎を併発することがあるという。久米さんは「特に症状のない人もいますが、副作用のマネージメントは医師サイドも注意しています」と説明した。

「やってられない」ほどの治療に欠かせない理解

膀胱がん患者の小出宗昭さん
膀胱がん患者の小出宗昭さん
フェリング・ファーマ

2004年と09年にBCG治療を受けた小出さんは、どちらも重度の副作用があったといい、「仕事を継続しながらの治療は『半端じゃない』『やってられない』というほどでした。周囲からの理解がない環境での治療継続は無理だったと思います」と当時を振り返った。

菊地さんは、20年以上の膀胱がん専門医としてのキャリアから、「再発を避けるために『丁寧にBCGを使う』ことが大切です。抗生剤や痛み止めを使ったり、量や時間を調整したり、患者さんの心身の負担を考慮しながら完遂を目指すことが求められています」とコメント。

さらに「全摘に関しては患者さんに即答してもらうのは難しいです。合併症のリスクもある程度はありますし、尿路変更や人工膀胱の使用などについても理解してもらう必要があるので、患者の理解が成熟するまで待って、ゆっくりと患者さんや家族に理解してもらうことが望ましいと考えています」と説明した。 

小出さんも、治療における医師とのコミュニケーションの重要性について、「全摘の手術においてもいくつか選択肢がある中で、先生は『あなたの仕事はとても忙しいから復帰の短い手術(内視鏡手術支援ロボットを使った手術)がおすすめです』と提案してくれるなど、とてもありがたかったです」と体験談を共有。

一方で「ストーマ(人工膀胱)は腹部に袋状のものをつけるので、見た目や生活にも工夫が必要です。しかし、ストーマをつけた時のスーツ姿がどうなるのかなどは当時のインターネットでは1枚も見つけることができず、スーツメーカーに『どれくらいウエストを広げたら良いですか』と聞いても、『聞かれたことがないので情報として持っていない』と言われてしまいました」と社会における認知度の低さや情報不足についても問題提起した。

ストーマに関する不安や疑問が蓄積する中で、小出さんの大きな助けとなったのがストーマ療法の専門の看護師の存在だったという。小出さんは「全摘手術前の定期入院中、実際にストーマに水を入れて使用感を確かめることもできました。スーツを病院に持ち込んで、ベルト締めた時の見た目などをチェックすることで事前に調整スムーズに退院することができました」と話した。

フェリング・ファーマ 代表取締役社長 CEOのジョン・プルバーさん
フェリング・ファーマ 代表取締役社長 CEOのジョン・プルバーさん
フェリング・ファーマ

イベントを振り返り、同社代表取締役社長 CEOのジョン・プルバーさんは「医療の発展や専門家の知識に加えて、日々の生活にあたって、患者の方々の経験や感情についても実際的な知識として知っていかないといけません」とコメント。患者のウェルビーイング推進に向けて、多角的なサポートが求められることを強調した。

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