「こどもまんなか」の社会を実現するため、こども家庭庁に求められることとは?

2022年を子ども政策のレガシーにするために――こども家庭庁とこども基本法にどんな役割が求められるかを考えます
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〇こども家庭庁の設置法案

2022年5月現在、こども家庭庁の設置法案とこども基本法が国会で審議されています。

こども家庭庁は、これまで大綱や閣僚会議も別々に運営されてきたこども政策を一元化し、こども政策の司令塔機能をこども家庭庁に一本化することで、政府のこども政策を一元的に推進することを目的としています。

その範囲には青少年の健全育成、子どもの貧困対策、子ども・子育て支援、少子化対策、児童虐待、医療的ケア児等が含まれ、内閣府でこども施策を担当してきた部局と厚生労働省の子ども家庭局および障害児担当部門が統合されます。

こども家庭庁に移管される法律は、児童福祉法、母子保健法、子ども・若者育成支援推進法、少子化社会対策基本法等を含めて20にも及びます。

体制としては①成育部⾨、②⽀援部⾨、③企画⽴案・総合調整部⾨の3部門を設けるとのことで、特に③は今までになかった子ども行政の企画立案・総合調整を行う役割に期待がかかります。

また、今後は外務省との協力のもと、こども家庭庁が子どもの権利条約や「子どもに対する暴力撲滅グローバル・パートナーシップ」(Global Partnership to End Violence Against Children: GPeVAC)など、子どもに関わる国際的取り組みにあたるとしており、このように子どもを一元化する国際的な対外窓口がつくられる意義は大きいといえます。

教育については引き続き文部科学省の所管になり、一時期のメディアでは幼保一元化の頓挫がクローズアップされがちでした。

ただし、そもそもこども行政は法務省、警察、外務省等にも及んでおり、全てを一元化することは不可能です。必要なのは一貫した理念に基づいて他省庁に調整機能をもつ組織であり、こども家庭庁がこども政策の司令塔としての役割を果たすという方針は、正しい方向に向かっていると考えます。

一方で、こども家庭庁が持つとされる勧告権がどのように機能するかは今後の課題です。また、単なる省庁再編に終わらず、こども政策に関わる人員と予算を着実に増やし、子どもへのわいせつを防止する日本版DBSや、チャイルドデスレビューなどを実行に移していく事ができるのか、市民社会が見守っていく必要があります。

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○こども基本法について

こども家庭庁の設置法案が提出されたのちに、自由民主党から「こども基本法案」も提出されました。この法案は自由民主党の「こども・若者」輝く未来実現会議で議論され、公明党との協議により与党案として提出されたもので、日本が1994年に批准した子どもの権利条約の理念を書き込んだという意味で、画期的な法律となっています。

こども家庭庁が単なる省庁再編にとどまらず、本当に「こどもまんなか」の社会を実現していくためには、なによりも子どもの権利を基盤とすることが重要であり、こども基本法は、こども施策の魂に位置づけられるといえるでしょう。

今国会では、他にも立憲民主党が「子ども総合基本法案」を、また日本維新の会が「子ども育成基本法案」を提出しており、特に立憲民主党の法案は子どもの権利擁護機関の設立を含め、より子どもの権利に配慮した法案となっています。

国際的にも近年はこどもに関わる政策においては、子どもの権利条約を基盤とする傾向がみられ、例えばヨーロッパ委員会はこどもをEUの政策の中心に位置づけるため、昨年、EUこどもの権利戦略とヨーロッパこども保障(EU Strategy on the Rights of the Child and the European Child Guarantee)を作成しています。

日本は1994年に子どもの権利条約を批准した際に、宮澤喜一首相が国会答弁で「この条約に定められておりますもろもろの権利につきまして、その内容の多くは我が国憲法を初めとする現行の国内法制で既に保障されているものと思います」と述べたとおり、国内法の整備を行いませんでした。

1994年当時の虐待通報件数は1900件程度で、2020年度の20万5400件と比較すると100分の1以下であり、まだ虐待、いじめ、貧困、自殺などの子どもにまつわる問題が顕在化していなかったことを考えるとやむをえなかったのかもしれません。

もちろん当時も専門家や関係者から子どもの権利を明記した法律を制定するべきだとの議論はあり、例えば日本教育法学会は、法案批准前の1993年から子どもの権利条約研究特別委員会を設置し、1998年出版の「子どもの権利―基本法と条例―」にて子どもの権利基本法要綱案を提案しています。

しかし、当時は世論や国会での関心が低く、実現にはいたりませんでした。

日本財団は2020年9月に、子どもの権利を包括的に定める「子ども基本法」の制定を求める提言書を発表しました。

この取り組みを始めたきっかけは、筆者が子どもの事業を担当するなかで、日本の法律や制度が子どもの最善の利益を重視しているとは思えない事例に出会ってきたことでした。

例えば、日本では実親が子どもを施設で養育することを希望して里親への委託を嫌がると、多くの児童相談所は子どもを里親に委託しません。特に乳幼児にとっては、愛情のある家庭で育つことは愛着や発達の観点から重要と考えられていますが、子どもの最善の利益よりも親の意向が優先されてしまうのが実情です。

また、ある若者は、親が施設への措置に同意しないため閉鎖空間である一時保護所に長期間いざるをえず、学校にも行けなかった経験を語ってくれました。その時は親が親権を持っているからとの説明を受け、本人は自分の権利はどうなっているんだと思ったそうです。

こうした状況について関係者と意見交換をしていくうちに、こどもの権利を規定するこども基本法とこどもコミッショナーの必要性を痛感するようになり、専門家や当事者からなる研究会を立ち上げました(経緯と詳細はこちら)。

提言発表後は、「自由民主党児童の養護と未来を考える議員連盟」「超党派児童虐待から子どもを守る議員の会」の合同勉強会で発表の機会を頂いた他、Children Firstの勉強会、内閣府のヒアリングの機会を頂いたほか、複数の国会議員との意見交換を行ってきました。

また、2021年11月20日の世界こどもの日には、日本ユニセフ協会さんと共催で、スコットランドや子ども・若者コミッショナーやギリシャのこどもオンブズウーマンにオンラインで登壇いただく公開シンポジウムを開催しました(動画はこちら)。

現在は鳥取県、山形市、福岡市などで、こども家庭庁やこども基本法について話し合うシンポジウムを順次開催中です。

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○子どもの権利条約にまつわる議論と誤解

こども基本法にかかわるなかで、子どもの権利条約についての様々な意見を伺ってきました。

例えば、子どもの権利条約は主に途上国の子どものためのものだとの意見を持つ方がいます。しかし、決してそんなことはなく、例えば子どもの権利条約で最も重要とされる4つの一般原則(差別の禁止、子どもの最善の利益、生命・生存及び発達に対する権利、子どもの意見の尊重)だけをみても、日本でもこの全てが守られているとは言い難い状況です。

他にも子どもの権利を認めると子どもがわがままになる、子どもが自分のことは自分で決める権利を持つと宿題をやらなくなる、子どもと家庭が対立して伝統的な家庭が崩壊する、などの見解も耳にします。

しかし、私自身はこうした解釈は子どもの権利条約についての誤解に基づくものだと感じています。

例えば子どもの権利条約の第5条では、国は父母が子どもに指導を与える責任や権利、義務を尊重するべきとしています。このことからも、条約は子どもが自分のことを自分で決めてよいなどとは言っておらず、父母の指導の責任や権利を認めていることがわかります。

一方で一般原則のひとつでもある第12条では子どもが自分の意見を表明する権利を認め、その意見が相応に考慮されるべきとしています。

例えば、離婚や養子縁組、虐待から守るために親から分離される一時保護等の状況においては、子どもも行政や司法の手続きにおいて、意見を聴取される機会を与えられることが必要と考えられます。

また、子どもの権利条約は、子どもにとって家庭が重要であることを繰り返し言及しています。

例えば、まず前文で家族には必要な保護や援助が与えられるべきであり、子どもが幸福で愛情がある家庭環境で成長するべきとしています。

さらに第18条では父母に子どもの養育の第一義的な責任を認めるとともに、国がそれを援助するものとしています。

要するに、子どもの権利条約は子どもだけに権利を認めているのではなく、子どもが育つために家族が大切であることを認め、そして国は子どもと家族を支援するべきとしているのです。

この考え方は、保守派と呼ばれる家庭を大切とする方々の価値観となんら相反するものではないと、私自身は考えています。

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○2022年を子ども政策のレガシーに

日本は国連子どもの権利委員会から、子どもの権利に関する包括的な法律(こども基本法)の採択や、国・地域及び地方レベルで行われている活動を調整するための、十分な権限を有する適切な調整機関(こども家庭庁)の設置や、子どもによる苦情を子どもにやさしいやり方で受理し、調査しかつこれに対応することのできる、子どもの権利をモニタリングする独立した機構(こどもコミッショナー/オンブズパーソン)の設置等を求められてきました。

こども基本法の制定と、こども家庭庁の設置は、こうした国連からの勧告にも応える画期的な動きと言えます。

日本財団の提案した法案では子どもの権利を擁護する独立した機関であるこどもコミッショナーの設置が含まれていましたが、今回の法案でこどもコミッショナー(オンブズパーソン)は含まれず検討事項となりました。

残念ではありますが、日本ではまだなじみが薄い制度のため、引き続き国民的な理解を広げていくことが必要と思います。2022年を子ども政策のレガシーとするためにも、まずはこども基本法とこども家庭庁の設立に期待しています。

<参考>

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