2019年06月10日 10時37分 JST | 更新 2019年06月10日 10時37分 JST

「漏らしたくない」排尿予測デバイスDFree 前代未聞の挑戦、実験台は自分の体だった

「ユニークな商品で終わらせたくない。高齢者や障がいによって一人でトイレを使うのが難しい方、これらの悩みは解決するべき課題だと感じていました」

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日本全国、累計約200の介護施設・病院で導入されてきた排尿予測デバイス『DFree(ディー・フリー)』。同デバイスを提供するのがトリプル・ダブリュー・ジャパンだ。現在、日本の本社に加え、フランス、アメリカに拠点を開設。累計で15億円の資金を調達した(2019年4月現在)。彼らはなぜ市場から期待を集めるのか。代表の中西 敦士さん、CCO(チーフ・コーポレート・オフィサー)岡本 杏莉さんにお話を伺った。

排尿予測デバイス『DFree』が叶える、人としての尊厳が保たれる社会

排泄のタイミングを事前に予測し、排泄の悩みが解消されるようにサポートしていく。それが排尿予測デバイス『DFree』だ。

なぜ、『DFree』に熱い視線が注がれ、市場から注目されるのか。そこには日本社会が抱える課題、そして「人が人らしく生活を続け、尊厳を保てる社会」を目指すビジョンがある。

「『DFree』が実現したいのは、単に排泄を予測することだけではないんです。その上で、使っていただく方々が人としての尊厳を取り戻したり、豊かな生活を送ったりできる。ここを叶えたいと考えています」(中西)

いまや世界では5億人が、排泄に何らかの悩みを抱えながら生活をしているといわれている。日本でも、2013年には大人用おむつが赤ちゃん用のおむつの売上を上回った(*)。

「高齢者の方の中には、自立排泄が難しく、周囲の手を借りている方たちも多くいます。障がいによって一人でトイレを使うのが難しい方、障害を持つお子さんのトイレトレーニングで悩んでいる親御さんもいる。健康な方でも、頻尿や尿漏れで外出が不安だったり、夜よく眠れないという方もたくさんいらっしゃいます。これらの悩みについて、今までは対処療法しかなかったんです。悩みを抱えるご本人はもちろん、ケアする周りの人にとっても解決するべき課題だと感じていました」(中西)

そして、『DFree』の発想はカタチとなった。2019年には、ラスベガスで開催された電子機器の見本市「CES 2019」でInnovation Awardsを含む4つの賞に輝く。日本ではこれまでに全国約200の介護施設や病院が導入するまでに。

2018年には個人向けの販売も開始。自社サイトやAmazonに加え、2019年春からはビックカメラをはじめとした量販店でも販売がはじまっている。

「”ユニークな商品” で終わらせたくない。社会を変えていきたい。そのためにも、ビジネスとして大きな規模でやっていくことに意味があると考えています」(中西)

社会課題の解決とビジネスとの両立。そして、多くの人たちが尊重され、自立した生活を送れる未来へ。彼らのビジョン、そして目指す先について伺った。

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中西 敦士慶應義塾大学卒業後、新規事業の立ち上げコンサルティングを手がける。その後、海外青年協力隊でフィリピンへ。2013年より、海外のUCバークレーへ留学し、2014年にアメリカで起業。2015年にトリプル・ダブリュー・ジャパンを設立する。日本本社に加え、フランス・アメリカに拠点を開設。2019年1月JMTCキャピタルを引受先とする資金調達に成功するなど、すでに資金調達額は累計15億円を突破した。

 前代未聞の挑戦。実験台は自分の体だった。

『DFree』が排泄を予測する仕組みはこうだ。

超音波センサーが膀胱の膨らみを捉え、尿がどのくらい貯まっているか表示。そして、排尿のタイミングを予測する。世界初のデバイスとして一躍脚光を集めた。

ただ、開発までの道は平坦ではなかった。

「世界初の試み。だから参考にすべきデータも全くないんです。自分の体を実験台にして、繰り返しながら試行錯誤を重ねていきました」(中西)

もうひとつ、大きな壁となったのが法律だった。

「医療、介護などと密接に関わってくる分野です。特に海外に出ていく際には、各国で法規制やルールが全く違う。海外での販売にはかなり時間がかかりました」(中西)

その原点には自身の苦い体験があった。

「実は大人になってから粗相をしたことがあったんです。もちろん笑い話で済ませることもできる。ただ、本当にそれでいいのかなって。本心でいえば、しばらく落ち込んでしまった。こんな想いはもう二度としたくないと」(中西)

この原体験こそが、『DFree』開発のきっかけだ。

「ちょうど同じ時期に、日本で大人用のおむつが子ども用おむつの市場を上回ったというニュースを見て、こんなにおむつで排泄している大人がいることに驚いた。漏らしたくないという想いをしているのは自分だけじゃない。”これは絶対に解決しなければならない課題” だと思いました」(中西)

実際に販売が始まり、ユーザーの手にプロダクトが届きはじめた頃、反応がダイレクトに返ってきた。

「日本中から声が届くんですよ。”障害を持っているお子さんが、生まれてはじめてトイレで排尿できた”。 ”脳梗塞になってからオムツを使っていた方が、『DFree』で一年半ぶりに自分でトイレができた”と。ご本人は自信がついて生き生きとしゃべるようになったと、ご家族も本当に喜んでくれている。使命にも近いものを感じました」(中西)

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DFree世界初となる排尿予測デバイス。超音波によって膀胱の変化を察知・予測。排泄のタイミングを知らせる。すでに世界的にも注目され、問い合わせは世界60ヵ国以上から寄せられる

ビジネスとしての成功を追う

そして、次なるフェーズへ。プロダクトをさらに広め、ビジネスとして成長をさせていくことが重要だと、2019年にジョインしたCCO 岡本杏莉さんは語ってくれた。

「排泄の問題は、まだまだ”仕方ない” と諦めてしまう方も多い。その考え方を根本から変えたいんです。もちろん販路の拡大も重要ですが、認知を広げること、そしてプロダクトに関する理解を深めることも、同じくらい大事です。たとえばお医者様に、どう患者さんのためになる商品なのか、知ってもらう。ドラッグストアさんとも連携すれば、より多くの人に存在を知ってもらえる。専門家のみなさんや専門機関との連携は大きなテーマになります(岡本)」

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岡本 杏莉 (おかもと あんり)慶應義塾大学卒業後、西村あさひ法律事務所にて弁護士として国内・クロスボーダーのM&A案件などに携わる。2015年3月にスタートアップフェーズのメルカリに入社し、日本・アメリカの法務を担当。加えて大型の資金調達やIPOでプロジェクトマネジメントも行い、メルカリのグローバルでの成長ドライバーとなる。2019年2月、トリプル・ダブリュー・ジャパンのCCOに就任する。

理解され、浸透するまでのハードルは決して低いとはいえない。ただ、岡本さんは「だからこそおもしろい」と補足する。

「プロダクトも、市場も、まったく新しいもの。それをリスクと捉える人もいるでしょう。ただ、私たちはそうは思いません。誰もやってこなかったことだからこそ、やる意味がある。多くの人が抱えてきた悩みを和らげていける。すごく壮大ですし、”私たち”がやるべきだと思ったんです」(岡本)

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元メルカリ、IPOの立役者が選んだキャリア

CCO 岡本杏莉さんの前職はメルカリ。法務の主要メンバーとしてIPOを経験したキャリアの持ち主だ。そんな彼女がなぜ、トリプル・ダブリュー・ジャパンにフルコミットというカタチで参加したのだろう。また、なぜこのタイミングだったのか。

「もともと代表の中西とはアメリカ留学時代からの友人で、当時から、アイデア段階のDFreeの構想を、夢中になって聞いていました。理屈じゃないというか。難しいけど、解決すべき課題がある。じゃあ解決しよう、起業してビジネスを起こそう。そのシンプルな話に心を打たれ、中西が起業した後もずっと個人的にリーガルの相談に乗って応援していました。」(岡本)

まっすぐすぎるとも言える中西さんの想い。そこに惹かれた一人だった。

「世の中が少しずつ変わっていく、その様子を感じていたいと思っています。長い時間を費やす仕事だからこそ、ここに賭けてみたいなって。何より今までやったことないものにも挑戦してみたかった。弁護士として、法務として…ではなくて、ファイナンス、リーガルはもちろん、グローバルも含めてコーポレート全般や事業面も見てみたい。それで会社が強くなり、困っている人の人生が豊かになっていったら、すごく幸せなことですよね」(岡本)

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健康という永遠のテーマと、向き合い続けていく

最後に伺ったのが、中西さん自身の想いだ。

「目先の事で満足するつもりはありません。可能性があるなら全てやっていきたい。たとえば膀胱がモニタリングできるなら、他の臓器だって理論上可能です。肺とか胃とか筋肉とか。身体をモニタリングしていけば、例えばリハビリの効果を確認したり、病気や術後の経過観察をしたり、いつか病気の予測だってできるようになるかもしれない」(中西)

そして、取材をこう締めくくってくれた。

「これからどう生きていくのか。特に健康は、高齢化社会を生きる私たちにとっては重要なテーマです。しかし残念ながら、今は寿命が延びることを不安に思っている人も多い。ただ、その不安を和らげたり、長く健康でいられるよう対策したりすることはできると思うんです。そして、私たちがやっていることはそれに貢献できる可能性を秘めている。そのために今後もできることを一つずつ地道にやっていくだけです」(中西)

同社の挑戦は、まだはじまったばかりだ。いつまでも自分らしく、健康に暮らしていきたい。そういった人々の願いがなくなることはないだろう。人生100年時代ーー人々が「心」の側面でもより豊かに暮らしていける社会へ。彼らのまなざしはそういった未来へ、まっすぐと向けられていた。

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参考
(*)大人用おむつが、バカ売れするワケ~市場規模1600億円、高齢者介護は壮絶な闘い~│東洋経済オンライン

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