『フータくん』のフィルムをデジタル化して修復へ。藤子不二雄Aさんの「幻のアニメ」発見

「フィルムが現存しているとは夢にも思わなかった」「戦後アニメ史における歴史的発見」などと大きな反響を呼んでいます
2003年7月発売の単行本『マネー・ハンターフータくん 第1巻 (藤子不二雄Aランド Vol. 54)』
2003年7月発売の単行本『マネー・ハンターフータくん 第1巻 (藤子不二雄Aランド Vol. 54)』
Huffpost Japan

4月7日に亡くなった漫画家、藤子不二雄Aさん。彼の代表作の一つを原作とした「幻のアニメ」のフィルムが見つかった。

その名前は『フータくん』。テレビ局に売り込むためのパイロットフィルムが数本作成されたという情報はあったが、実際に放送されたかどうかは近年まで不明。幻の作品だった。

個人からの問い合わせを受けて、東京都内の映像関連会社「国映」が調べたところ、倉庫から『フータくん』のフィルム1本が見つかった。SNSで大きな反響があったことを受けて、変色が進んだフィルムをデジタル化して映像が修復されることになった。

■アニメ版『フータくん』とは?断片的な目撃情報だけがある「謎の番組」だった

1960年代に撮影された漫画家ユニット「藤子不二雄」(左は藤子不二雄Aとして知られる安孫子素雄さん、右が藤子・F・不二雄として知られる藤本弘さん)
1960年代に撮影された漫画家ユニット「藤子不二雄」(左は藤子不二雄Aとして知られる安孫子素雄さん、右が藤子・F・不二雄として知られる藤本弘さん)
時事通信社

原作である『フータくん』は藤子不二雄Aさんが、1964年から67年にかけて少年画報社の「週刊少年キング」に連載した。(※当時は藤子・F・不二雄さんとのユニット「藤子不二雄」のコンビ名で活動していた)

100万円を貯金することを目的に、全国をアルバイトしながら旅行する同名の主人公を描くギャグ漫画だ。藤子Aさんの代表作である『忍者ハットリくん』や、藤子・F・不二雄さんとの合作『オバケのQ太郎』の連載と同時期の作品だ。

1965年から始まった『オバケのQ太郎』のアニメがTBSで空前の人気を博したことを受ける形で、日本テレビでも1967年ごろに藤子作品のアニメ化が企画された。それが『フータくん』だった。

漫画雑誌『COM』(虫プロ商事)1967年1月号では、『フータくん』アニメ化の速報が掲載された。15分もの2本で、1回30分の放送を予定するカラー作品。「日本放送映画」(日放映)という会社がパイロットフィルムを完成させたと報じているが、実際にはこの時期に放送されることはなく、レギュラー放送にはならなかったようだ。

1988年に発行された『TVアニメ25年史』(徳間書店)でも、アニメ版『フータくん』を「謎の作品」として紹介。中国・四国地方で「他の番組の穴埋め」として、パイロットフィルムがテレビ放送されたという情報があり、都内のフィルム倉庫を取材班が訪ねたが現物を発見できなかったと記していた。

また、広島県在住の人から「子どものころに『フータくん』のアニメを見た』という情報が『子どもの頃の「大疑問」―こちら、思い出探偵事務所』(大和書房)に寄せられている。

■近年の調査で作品の実態が明らかに

国映の倉庫で発見された『プータ君』とラベルの貼られたフィルム
国映の倉庫で発見された『プータ君』とラベルの貼られたフィルム
矢元一臣さん提供

複数の目撃情報はあるものの、公式な情報が確認できない「幻のアニメ」として藤子ファンの間では有名な作品だった。しかし、「コノシート」さん(@video_vhs)の調査で近年、詳細が明らかになった。

2021年4月発行の同人誌『幻の藤子アニメ フータくんは確かに広島で放送されていた』の中で、過去の中国新聞のテレビ欄を詳細に確認した結果、1972年12月11日午後4時30分から45分にかけて、広島テレビで『プータくん』(原文ママ)という番組が放送されていたことが確認された。

『フータくん』のパイロットフィルムを制作した日本放送映画はすでに解散しているが、母体となった映画会社「国映」は、創業から64年を経た現在も東京・銀座で「TCC試写室」を運営する会社として存続している。

コノシートさんから「フータくんのフィルムは所蔵していますか?」と2022年4月に問い合わせを受けて、国映代表取締役の矢元一臣さんが倉庫を確認したところ『プータくん』(原文ママ)というラベルがあるフィルム缶が見つかった。

矢元さんが4月16日、国映の公式Twitterに「『フータくん』ではなく、『プータ君』もありました」と何気なくフィルム缶の写真を投稿したところ、全国のアニメファンから「フィルムが現存しているとは夢にも思わなかった」「戦後アニメ史における歴史的発見」などと大きな反響を呼んだ。

これを受けて、国映では東京現像所にフィルムを委託して、デジタル化して上映できないか調査することになった。

■作中で「フータ」の文字を確認。デジタル化して補正が可能な状態だった

東京現像所がフィルムの状態を調査したところ、赤く退色しているがカラーフィルムで音声も収録されていた。「多少の収縮と結晶は出ているが、デジタル化は可能」ということだった。

タイトルやクレジットは確認できなかったが、登場人物が持つ看板には「フータ」の文字が確認できたことから、このフィルムが幻のアニメ『フータくん』であることが確実になったという。国映では東京現像所に依頼して『フータくん』のフィルムをデジタル化した上で、色彩を補正して制作当時の状態に近づける修復作業をする意向だ。

矢元さんはハフポスト日本版の取材に「作品を見たい多くのお客様に映像を届けられるように修復作業を先行させて進めています。慎重に権利関係を確認すると共に、作品の需要を計っていきます」とコメント。

デジタル化に関しては、『フータくん』と同様にフィルムが倉庫から発見されたアニメ『戦え!オスパー』の「毒蛾の大群」のエピソードのほか、戦争映画『われ真珠湾上空にあり 電撃作戦11号』全編のデジタル化も進めていくという。

■「宿題が34年ぶりに完成したような思い」とアニメ史研究家の原口さん

『TVアニメ25年史』でアニメ版『フータくん』について執筆したアニメ史研究家の原口正宏さん(@dataharamasa)は、ハフポスト日本版に以下のようにコメントを寄せた。

「自分の調査では果たせなかった宿題が、34年ぶりに完成したように感じられてとてもうれしいです。新しい世代のアニメ研究者の熱心な調査がきっかけで、放送の詳細やフィルムの所在が分かったことを、とても頼もしく思っています。私の大学時代の先輩から『小学生のころ(1971年3月以前)、関東地区でフータくんのアニメを見た』という話を聞いており、いつか真相が分かることを期待してます」

【訂正】コノシートさんを当初、「ビデオソフト研究家」と紹介していましたが、本人からの要請を受けて該当表記をカットしました。(2022/05/05 09:00)

注目記事