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2020年02月28日 06時53分 JST | 更新 2020年02月28日 07時54分 JST

九州最西端の島、五島で異例の人口「社会増」  都会から注目される離島の「光と影」とは

「郷に入れば郷に従え」だけでは地方を変えられない。

五島市提供
高浜海水浴場(福江島) 緑に囲まれた五島列島を代表するビーチ

九州の最西端の島、長崎県五島市で2019年、合併以来初めて人口の「社会増」が起きたことがわかった。日本の各市町村で全国的に人口減が進む中、異例のことだ。

実は五島は、東京や大阪など都市部で最近注目されている地域。編集者やクリエイターらがこぞって訪れ、ライドシェアなど最先端の経済実験も行われる。2014年から2018年までの移住者(467人)のうち約7割が30代以下の若い世代だ。

しかし実際に五島を訪れ、移住した人の声に耳を傾けてみると、ポジティブだけではない「移住のリアル」も聞こえてくる。

「変わらなければ」と奮闘する自治体や住民と、「変わりたくない」住民との溝。そうした困難を乗り越えながら、美しい島を次世代に残そうという試みも始まっている。今、五島では何が起きているのか。

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明け方の福江港(福江島)

UIターン支援制度により、都会からの若い移住者が増加

五島市は、長崎県の西方100キロメートルに浮かぶ11の有人島と52の無人島からなる。東京からは長崎か福岡で飛行機を乗り継ぎ、最短3時間ほどで到着する。

五島市は2019年、五島以外の地域から市内に転入した人数が、市から転出した人数を33人上回り、人口が「社会増」に転じた。五島市によると、記録の残るなかでは2004年の市町村合併後、初めてのことだ。市は現在3万6千人の人口を40年後の2060年に2万人に維持する目標を掲げている。

社会増は、2017年に施行された「有人国境離島法」に基づく雇用創出事業などにより、島からの転出が抑制されたことや、都市部からの移住者が増えていることが要因と見られている。

移住者の数は、2014年度までは20名程度であったが、その後年々増え続け、2018年度には202人を達成した。東京や大阪での移住相談会の実施や3ヶ月住宅費が無料になるお試し移住、旅費や引っ越し費用の補助など、自治体の努力も実った。

移住者にはエンジニアや看護師など専門職の人もいる一方、五島で新しい事業を始める人も多いという。新規事業への補助金(事業費の3/4、上限450万円)が、そんな起業家の移住を後押ししている。

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八代侑紀さん(左)と八代綾子さん(右)

「これが最後のチャンス」再チャレンジを求めて、大阪から子供2人を連れて移住

私は2月上旬、五島を訪ねて、現地に暮らす人の思いを聞いてみた。

五島列島最大の島、福江島。3年前に大阪から移住してきた八代侑紀さん(40歳)と綾子さん(37歳)夫妻は、数多く出会った人の中で、最も印象に残っている住民だ。島でメロン農家を営みつつ、地元農家の農作物を各地に販売する「いきいきファーム」を経営している。

移住のきっかけは、島で農家を営む綾子さんの父親が病気で倒れたこと。事業を継ぐために中学1年生の息子と小学3年生の娘を連れて五島にやってきた。

両親は五島の出身だが、綾子さんは大阪で生まれ育ったため、島に住むのは初めてだった。

大都会からの移住。夫婦ともに農業の経験はゼロだった。

しかし意外にも、妻の実家・五島への移住に乗り気だったのは夫・侑紀さんだったという。

靴の販売事業をしていた侑紀さんだが、経営に失敗してしまった苦い過去がある。その後は会社員として働いていたが、再挑戦への思いはくすぶっていた。

そんななかでの後継話。

「もう40歳手前だったので、これが最後のチャンスかなと」。転校を嫌がる息子をなだめて、一家は一度も暮らしたことのない福江島へと移り住んだ。

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八代侑紀さん

夫妻が感じた「勝手なことはしないでほしい」という地元の思い

しかし移住後の生活は決して順風満帆なものではなかった。

綾子さんの父親・伊佐己(いさみ)さんは14年以上、地元でメロン農家をする傍ら「いきいき五島」という直売所を経営していた。

そこに突然やってきた若い後継者。「よう来たな」と温かく受け入れてもらった一方で、夫妻が直面したのは、地域で「変化を起こすこと」の難しさだった。

「新しいことに失敗したら『ほらな』って言われてしまう。新しい人は受け入れるけど、『勝手なことはしないでほしい』という思いも正直感じました」と綾子さんは打ち明ける。

一体、何があったのだろうか。

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八代侑紀さん(左)と八代綾子さん(右)

「生産者の名前が消えてしまう」直売所の閉鎖と地元農家の反発

2人が五島にやってきて取り掛かったことの1つが、直売所「いきいき五島」の経営を立て直すことだった。

直売所は地域の高齢化とともに野菜の売れ残りも目立ち、光熱費や人件費だけがかさんでいた。盛り上げていくための方法を模索したが、辿り着いた結論は直売所を閉じることだった。

これまで農家が個別に持ち込んでいた農作物を買取り、「いきいきファーム」の野菜としてブランド化し、都市部に販路を拡大した方がいいと考えたのだ。

しかし、地元農家からの反発は大きかった。

これまでは「生産者の名前」で販売していた野菜が、他の農家の作物と共に「いきいきファーム」の名前でまとめて売られてしまうことに対する不安だ。これは当然のことだ。「都会の感覚」ではわからない、地域の人の思いがあるからだ。

「農家さんはみんなこだわりを持って野菜を作っている。『自分の名前が消えちゃう』という不安があったのだと思います」綾子さんはそう振り返る。

一方で、新しい仕組みは農家にとってメリットも大きい。

直売所の場合、各農家が販売まで管理する。そのため、売れ残り分はそのまま農家のマイナスになってしまう。しかし新しい仕組みでは、野菜が買い取られるため、農家は持ち込んだ作物の分だけ売り上げを得ることができる。リスクが分散できるのだ。

「みんなのためを思ってやっている、ということをなんとか伝えようと考えました。もちろん大阪から来た自分たちには分からないこともあるので、一生懸命農家の方の話を聞きました」と侑紀さんは話す。 

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八代侑紀さん

「郷に入れば郷に従え」では変えられない

結局、実際に直売所を閉めるまで2年もの月日を要した。

五島で何か新しいことをしたり、これまでのやり方を変えるためには、何度も説明を重ね、一人一人にコンセンサスを取らなければならない、夫妻はそう話す。

これまで、旬野菜の詰め合わせを都市部の家庭に直送する「五島の野菜便」を始めたり、有機メロンの栽培をしたり、売れ行きの良い作物に栽培をシフトしたりと、様々な挑戦を行ってきた夫妻。しかし、その度に周囲の戸惑いはあった。

「郷に入れば郷に従え」を心がけてきたという侑紀さん。だが、限界も感じている。

「初めから地元のやり方を全部突っぱねてしまうと、地元の人もいい気がしないと思います。だから初めは「郷に入れば」という感覚は、崩さないようにはしています。でもどこかで『何を言われようが突き通す』っていうことをしないと前に進まないんです」

地元のことを尊重しつつも、どこかで「昔ながらのやり方」を変えないといけない。そうしないと、都会との格差が進み、人口もどんどん減ってしまう。結果的に、他の地域にはない美しい自然や守り継がれてきた島の文化が失われるのではないか、という思いが夫妻にはあった。

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八代綾子さん

都会からの移住者や観光客の増加。地元民「自分の家の前にでっかいタワーマンションが建ってしまうみたい」

都会からの移住者や観光客が増え、日本の地方の中でも異例の「社会増」に転じた五島市。島が活性化することに喜ぶ声も多いが、移住者や観光客が増えるのを嫌がる島民の声を、綾子さんはしばしば聞くという。

「特に高齢者は『今のままの五島でいい』と話す人が多いです。地元の人からすると『自分の家の前にでっかいタワーマンションが建ってしまう』みたいな危機感なのかもしれないですね」

しかし、過疎化が進む島の行く末に夫妻の「危機感」も大きい。

「現状維持と言って、そのまま放っておいたらもっと違う形で無くなってしまうのに…」と侑紀さん。

綾子さんも「いつまで飛行機と船があるのかな」と不安を口にする。2018年10月にはこれまで福江と佐世保を結んでいた定期便が、運行会社の破産によって、一時停止してしまうという出来事もあった。

五島市提供
江上天主堂 2018年にユネスコの世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の一つ。

移住ではなく「関係人口」を増やすことをゴールに

総務省によると、1970年に過疎地域と認定された市町村は全体の2割程度だったが、2017年は47%に増えた。人口が減ると税収が減り、医療や教育など十分な行政サービスが受けられなくなるリスクもある。人口の「社会増」に転じたとはいえ、構造的には、五島市も同じような悩みを抱えている。

美しい自然、そして2018年に世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」など文化的歴史的な資産がある五島。

そんな五島を次の世代へどのように守り継いでいくべきか。

夫妻は、五島市が推し進める「関係人口」を増やす施策に期待を寄せる。関係人口とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域や地域の人々との多様に関わる人々のことだ。関係人口が増えれば、住んでいる人が支払う「税金」とは違ったやり方で、地域の課題解決に貢献する人が多くなる期待がある。

総務省 地方への新しい入口「関係人口」ポータルサイトより
関係人口とは?

「たとえ移住しても、この土地に骨をうずめるって人はそう多くはないと思うんです。だから移住というよりは、たとえば1年のうち1ヶ月とか五島で仕事をしてくれたり、休みを過ごしてくれたり、そういう人が増えると良いですね」と綾子さん。

島への移住をゴールにするのではなく、五島に頻繁に人が出入りする状態を作り、地域全体を活性化させていく。それが現実的な地域創生だと感じている。

地元住民を巻き込んだ「関係人口」作りを

五島市は2月、「関係人口」を増やすためのアプローチとして、地域課題解決型リモートワーク・プロジェクトと題した「五島ワーケーション・チャレンジ 2020 winter」を開催。普段は都会で仕事をするビジネスパーソンなど約50人が参加し、連日のようにワークショップや交流会などが開かれた。

綾子さんは取り組みを評価しつつ、「地元にはこうした取り組みの存在がほとんど知られていないと思います」と残念がる。

実際に私も約5日の滞在でワークショップや交流会に多く参加したが、来る島民はUIターン移住者がほとんどで、五島で長く暮らす人はほとんど見かけなかった。

「保育園や病院、スーパー、美容室など、島民が集まる場所にチラシを貼ったり、情報を共有するといいと思いました。みんな意外と見ているんですよ。地元の農業や畜産など、もっと地域のいろんな人を巻き込んでほしいですね。島外の人が、自分たちの農業や畜産に注目してくれるのを嫌がる地元の人はいないと思います」と綾子さんは話す。

「移住人口」を増やすことに注力してきた五島市にとって、今回のような「関係人口」へのアプローチはまだ試験的なものだ。今後は綾子さんの話すように、地元への広い「情報発信」と「巻き込み」が課題になっていくだろう。

時事通信社
朝日に輝く半泊湾(五島市の半泊地区)

最近は取り組みを応援してくれる地元の方も増えたと感じているという、八代夫妻。

「八代さん頑張っているね、って声をかけられることも多くなってきています。硬いおじいちゃんの考えがちょっとずつ変わってきているなって。諦めに変わっただけかもしれないけど、認めてきてもらえているような感覚は少し」と夫妻は顔を合わせて笑う。

今後も、亡き祖父が暮らしていた家をゲストハウスに改装するなど、五島で挑戦を続けたいと意気込む。

地方は今後どうあるべきだろうか。ご意見がある方はハッシュタグ「 #地方のこれから 」でつぶやいてみて欲しい。