新計画では、高さ3メートル以上の樹木の伐採数を124本減らし、4列いちょう並木保全のために神宮球場を約10メートル後退(セットバック)するとしている。
一方で、樹木伐採数は高木だけで依然600本を超えており、2列いちょう並木の保全案やセットバックが新球場に与える具体的な変化は明らかになっていない。
見直し案で変わること
見直し案では、高さ3メートル以上の高木の伐採数を124本減らし、743本から619本とした。また、新計画では新たに植樹する本数を261本増やす。
124本の内訳は下記の通り。
・伐採から保存に変更:66本
・伐採から移植に変更:16本
・枯損と判断したため伐採から外した本数:42本
また、4列いちょう並木の根を保護するために、新しい神宮球場を約10メートルセットバックさせて、歩道縁石から球場までの距離を、当初の約8メートルから約18.3メートルに拡大する。
神宮外苑は100年前に市民の手で作られた歴史ある場所で、伐採で樹木が失われることや、新球場の建設でいちょう並木がダメージを受けることなどに対して、市民や専門家から懸念の声が上がっている。
こういった声を受けて、東京都は2023年に樹木の保全に関する具体的な見直し案を示すよう事業者に要請していた。
2列いちょう並木はどうなる?
事業者は新計画で更なる樹木の保全をし、新たなみどりを創るとしている。
一方、地域の子育て世帯と近隣住民からなる「明治神宮外苑を子どもたちの未来につなぐ有志の会」は9日、この見直し案に対する新たな要請書を発表した。
有志の会は、4列いちょう並木だけではなく、港区道に植えられている18本の2列いちょう並木の確実な保全も求めている。
2列いちょう並木は、4列いちょう並木と同じ苗木から成長した「きょうだい木」で、4列いちょう並木と秩父宮ラグビー場をつなぐ、港区道に植えられている。
事業者は元々、この2列いちょう並木を伐採するとしていたが、2022年に「移植検討」に変更した。
ただし、今回の見直し案も含め、移植で確実に保全できることを裏付けるデータや保全案などはこれまで示されていない。
有志の会は「区民の財産でもある18本のいちょうも一体の並木として確実に保全されるよう、説明会で計画を示してほしい」と要請書で求めている。
この2列いちょう並木について、事業者の代表である三井不動産は「港区道の18本のいちょうは街路樹で植栽帯が狭い樹木であることもあり、移植を慎重に検討しています」とハフポスト日本版の取材に回答した。
事業者は「今後、樹木医等専門家の意見を聞きながら関係行政とも相談の上、根系調査等の詳細調査を行い、移植可否を検討する」としている。移植不可と判断した場合は伐採される可能性もある。
新神宮球場はどうなる?
今回の見直し案で、伐採数とあわせて大きく変わったのが、4列いちょう並木保全のための新球場の10メートルセットバックだ。
事業者はこのセットバックにより、いちょうの根の保護範囲は当初計画から2倍以上に拡大され、いちょう並木沿いの歩行者空間やオープンスペースが増大するとしている。
ただし、この変更により新球場の広さが変わる可能性がある。
すでに、事業者が発表している新球場のイメージ画像や動画に対して「外野の席が狭い」などの懸念がソーシャルメディア等に投稿されている。
「セットバックする分、球場は狭くなるのか」というハフポスト日本版の質問に対し、事業者は「従来計画とは一部変更となるが、野球を見る人・プレーする人双方にとってよりよい新球場になるように引き続き検討してまいります」と回答。
球場の広さや作りなどに与える影響についての明言を避けた。
市民や専門家との対話を
神宮外苑の再開発に対しては、さまざまな国際機関や専門家からも懸念の声が相次いでる。
ユネスコの諮問機関であるイコモスは2023年9月に、ヘリテージアラートを発出。環境アセスメントの世界的な学会「国際影響評価学会(IAIA)」日本支部も同年6月に工事の中止などを勧告した。
国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会も2024年5月「人権に悪影響を及ぼす可能性がある」と懸念を表明した。
中でも日本イコモス国内委員会は、何度も現地調査を実施した上で、調査報告書や要請書を提出している。
しかし、問題を指摘してきたこれらの専門家と事業者が直接対話をする場はこれまで設けられていない。
有志の会は、誰もが参加できる住民説明会に加え、専門家や研究者の問いに、事業者が直接回答する場所を作るよう求めている。
事業者は、住民説明会の開催について「検討を進めており、詳細については、決まり次第知らせる」としている。
一方、イコモスを含めた専門家との対話の場については「個別団体への対応については、回答を控えさせていただきます」と述べた。
事業者は今後の予定について「アセス図書をとりまとめて東京都へ提出し、アセス審議会総会にて報告をしたうえで、樹木の移植伐採を進めます」としている。
有志の会代表の加藤なぎささんは、見直し案について「計画の大きな枠組みは変えず、数字を合わせるための微調整に長い時間をかけて苦慮された印象です」とハフポスト日本版の取材に述べた。
また、事業者が植樹数を増やすとしていることについては、「環境保護の世界的な動きは、今ある樹木を生かすことが前提であり、切るけど代わりに新しい木を植えるという考え方ではないはずだ」とした。
国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会は、神宮外苑再開発について、広く市民や関係者の意見を募る「パブリック協議」が不十分だと指摘している。
加藤さんは、「専門家の方々の疑問や異論に対して、真っ向から理論的・科学的に論証していただくことをもってしか、私たち住民や心配を寄せる国民はこの開発の未来にわたる影響を判断できません」として、専門家を含めた対話の場を設けるよう改めて求めた。
「樹木の本数ばかりに話題を向けてめくらましをすることなく、この街が未来に渡ってどのように繋がれていくか、しっかりと説明責任を果たしていただきたいです」