神宮外苑再開発、新宿区を住民が提訴。「CO2排出の被害を受けない利益を損なう」

神宮外苑の約3000本の低木の伐採を認めた新宿区に対し、住民が許可取り消しを求める訴訟を起こしました

東京・明治神宮外苑の再開発をめぐり、新宿区や周辺地区の住民5人が7月25日、新宿区を相手取り樹木伐採の取り消しを求める訴訟を起こした。

新宿区は2月、事業者が申請した神宮外苑の約3000本の低木(3メートル未満の樹木)の伐採を許可した。

これに対し、原告は許可は民主的なプロセスを経ていない上、住民の「景観権利」や「CO2排出の被害を受けない利益」を侵害する、と主張。

新宿区に対して伐採許可の取り消しと、一人当たり1万1000円の損害賠償を求めたほか、伐採許可の執行停止を求める申立てをした。

提訴の記者会見。(左から)原告の明日香壽川さん、竹内昌義さん、山崎 鮎美さん、大澤暁さん、山下幸夫弁護士(2023年7月25日)
提訴の記者会見。(左から)原告の明日香壽川さん、竹内昌義さん、山崎 鮎美さん、大澤暁さん、山下幸夫弁護士(2023年7月25日)
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何を問題としているのか?

原告らが訴訟を通して問題だと訴えているのは、神宮外苑の風致地区の地域指定の変更だ。

神宮外苑は約100年前に国民の寄付や奉仕活動によって作られた公園で、自然的景観を維持する「風致地区」に指定されてきた。

しかし新宿区は2020年、東京都の要請に基づいて、神宮外苑の一部地域を規制の厳しい風致地区AもしくはB地域からS地域に変更

S地域は規制が緩いため、この変更により再開発での高層ビルの建築が可能になり、樹林地を潰して芝地に置き換えやすくなった。

ところが、この変更がわかったのは2023年2月で、それまで区議会や都市計画審議会にも報告されていなかった。

原告の山下幸夫弁護士は、たとえ新宿区長が決められることだったとしても、憲法は住民自治を保障しており、民主的なプロセスなしでの変更は社会通念に反した裁量権の逸脱だ、と記者会見で述べた。

「区議会で議論する、都市計画審議会で報告して意見を聞く、パブリックコメントを求めるなど、何らかの民主的手続きを経る必要があるべき重要な問題だったのに、一切そういったことをしませんでした。伐採許可申請された段階で初めて、風致地区の変更がわかったのです」

新宿区在住で、原告の大澤暁さんも「文化的、景観的価値の高い場所の風致地区の指定を、新宿区民にも、また区民の代表である区議会にも伝えることなく変更し、その結果樹木を伐採するというのは、民主主義の倫理に反する行為だと考えております」と語った。

工事用の白い壁で覆われた神宮外苑の建国記念文庫の森(2023年4月22日)
工事用の白い壁で覆われた神宮外苑の建国記念文庫の森(2023年4月22日)
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CO2排出の被害を受けない利益

この裁判のもう一つの争点が「CO2排出の被害を受けない利益」だ。

再開発では、神宮球場と秩父宮ラグビー場を場所を入れ替えて建て替えるほか、高さ190メートルや185メートルのオフィスや商業施設を建設し、この過程で大量のCO2が排出される。

原告で環境活動家の山崎 鮎美さんは、新宿区の環境基本条例に「環境の保全は、区民が環境の恵みを享受するとともに、良好な環境が将来の世代に継承されるよう適切に行われなければならない」と書かれている、と指摘。

「10代、20代の若者はただでさえ気候変動の不安を感じている。条例に書かれていることを実行し、将来世代が安心でき、希望を持てる街づくりをしてほしい」と訴えた。

原告で建築家で東北芸術工科大学の竹内 昌義教授は、事業を認可した東京都や事業者は「ダブルスタンダード」だと述べた。

「東京都は2030年のカーボンハーフを目指して、できる限り二酸化炭素を出すのやめようと呼びかけ、新築の住宅には太陽光パネルを設置することを義務化しています。その一方で、こういった再開発で木を切るというのは、ダブルスタンダード以外の何物でもないと思います」

「(再開発を主導する事業者の一つ)三井不動産も、2030年までに事業活動で消費する電力を100%再生可能エネルギーにするRE100にも加盟して、それを大々的に謳っていますが、それとこの再開発はあまりにも矛盾していると思います」

同じく原告で、東北大学大学院の明日香 壽川教授も「この10年間でCO2の排出を減らさなければいけない時に、それと反することをやるのは明らかに温暖化対策を無視している」と述べた。

明日香教授によると、海外では気候変動の問題を人権侵害と捉え、例え法律を守っていても、人格権を損なうと判断された事業が差しどめになった例もある。

今回の提訴について、新宿区は「訴状が届いていないためコメントできません」とハフポスト日本版の取材で答えた。

神宮外苑の再開発を関しては、東京都に対しても事業の認可取り消しを求める裁判が提起されている。

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