【独自】都内のレズビアン女性「分娩の受け入れを拒否された」と訴える。産科婦人科学会の理事長「つらい思いをしている人がいる」

女性は最初に受診した病院で断られた後、転院先でも「他をあたってほしい」と言われたという
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東京都内に住むレズビアンカップルの女性が、妊娠中に分娩の受け入れを2つの病院に拒否されていたことがハフポスト日本版の取材でわかった。

女性は、病院側から同性同士のカップルが子どもを持つことを疑問視するような発言を受けたほか、妊娠初期から健診を受けていた病院で、後期になってから分娩受け入れを断られて頭が真っ白になったという。

精子バンクのような第三者が関わる生殖医療については、国が判断を保留して法整備が遅れている間に、実態としては同性カップルやシングル女性などにも利用され始めている。

そういった中、現場の病院では生殖医療の先にある分娩にまで慎重になり、結果として、妊娠した当事者が翻弄されている現実が浮かび上がってきた。

日本産科婦人科学会の木村正理事長は「現実につらい思いをしている方がいるので、この問題について国には早く決めてもらわなければいけません」と指摘している。

女性とパートナーが、病院で受けた対応について語った。

「同性カップルは受け入れられない…」病院での拒否

かおるさんとちあきさんは東京都内に住むカップルで(いずれも仮名)、海外の精子バンクを利用し、2022年にかおるさんが妊娠した。

妊娠がわかり、かおるさんが最初に自宅から近い都内の大学病院の産婦人科を受診したのは2022年11月初め、妊娠初期の時だ。

この時、家族構成について聞かれたので同性カップルだと伝えた。また、妊娠の経緯が重要だとは思わなかったため、「知人からの精子提供」と説明した。

それから約2週間後、かおるさんが再び診察に訪れると、担当医から「同性カップルの場合は、当院では分娩受け入れができないかもしれない」という説明があった。

この対応を受け、次の診察には、パートナーのちあきさんも同席。なぜ分娩を受け入れないのかを尋ねると、担当医は「知人からの精子提供では、うちでの受け入れは難しいかもしれない」と回答した。

理由を聞くと「父親がわからない状態だと、中絶となった場合に訴えられるリスクがある」ということだった。

厚生労働省は「未婚の場合は中絶に相手の同意は不要」との見解を示しているが、医師は訴訟のリスクがあると説明した。

かおるさんとちあきさんは、実際は海外の精子バンクの身元開示ドナー(子どもが一定年齢に達したとき、身元を明かすことに同意しているドナー)を利用しており、ドナーは現地の法律に基づき、提供精子により生まれた子どもの親権に関わる一切の権利を持たず、義務を負わないため、中絶する場合なども「訴えられるリスクはない」と説明。

医師は「それであれば大丈夫かもしれないが、扱ったことのないケースなので、(院内の)倫理委員会で判断を仰ぎましょう」とふたりに伝えた。

そして「精子提供については証明書を提出したら問題ないかもしれない」と述べ、倫理委員会用に証明書を発行するよう依頼。

一方で「かおるさんが妊娠に至った経緯は法的、倫理的な話が絡んでくるケース」であり「戸籍の問題が出てくる可能性がある」とも述べた。

ちあきさんが「シングルマザーで父親がわからない場合などはどうなるのか」と尋ねると、医師は「シングルマザーの場合は経済的な理由でハイリスクの妊娠として扱うが、妊娠自体は問題ない。ただし第三者の精子を使うと話は別で、父親の法的な立場を病院側が確認しないといけない」と説明した。

その後ふたりは精子バンクから発行された証明書を病院側に提出したものの、倫理委員会の結論はなかなか出ず、かおるさんは毎回倫理委員会の回答の結果を確認しながら、診察を受け続けた。

病院から正式に転院を求められたのは証明書を出してから2カ月半経った2023年3月。かおるさんはすでに紹介状無しでは転院が難しい妊娠後期に入っていた。

正式な通知を受け、ふたりは改めて受け入れ不可の理由を尋ねたものの、医師からは「法的な整備がされていない」以上の説明はなかった。

さらにこの時、医師から「今後、胎児の状況が悪化して緊急搬送になった場合でも、うちの病院での受け入れは難しい」と伝えられた。

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2軒目の病院でかけられた差別的な言葉

病院が転院先として紹介したのは近くの個人病院で、担当医はふたりに「相手の病院には同性カップルで、第三者提供の精子による妊娠だときちんと伝え、了承を得た」と説明していた。

ところが、かおるさんが転院先の病院の診察に訪れると、院長は「前の病院で倫理委員会を通して受け入れを断られたことや、精子提供のことは全く聞いてない」と告げた。

さらに同性カップルが子どもを持つことについて「同性で愛し合うことや、結婚自体は全然否定する気はないが、子どもを持つことは果たして良いのかと思っている」と発言。

「法整備がない(中での)受け入れとなると、病院として出生届を発行するのが難しい」とも述べた。

かおるさんが「出生届は未婚で届ければいいのでは」と言うと院長は「ここで議論する気はない」「他をあたってほしい」と言い、受け入れを拒否した。

この時かおるさんは妊娠8カ月。妊娠後期での度重なる受け入れ拒否に頭が真っ白になったという。

かおるさんたちはその足で元の病院へ行き、転院先での扱いを説明。事情を聞いた担当医が、さらに別の病院と連絡を取り、受け入れ可能かを確認。かおるさんたちは前回のように転院拒否をされないよう、その病院の担当医の名前を聞き出した。

しかし医師からは「新しい病院でも倫理委員会にかけられる可能性もある」と告げられた上、翌日には新しい病院から連絡があり、予約が取れたものの「担当医は決まっていない」と告げられ、また病院同士の話が食い違っていた。

こういった状況に「また拒否されるかもしれない」と不安を感じたかおるさんたちは、知人に別の病院の医師を紹介してもらい、新たに紹介状を書いてもらった。

その後、新しい病院で診察を受けたところ、受け入れには「問題ない」と言われ、ようやく分娩先が決まった。

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「子どもの権利を侵害することになる」

受け入れ先が決まった後の3月後半、かおるさんたちのもとに最初に受診した病院から分娩受け入れ不可の理由を記した倫理委員会の書面回答が届いた。

病院が理由として挙げたのは▼精子バンクから提供された第三者配偶子による妊娠に関する法整備がなされていない▼学会でも精子バンクに関する議論が行われていない――という点だ。そのため「同様の症例の妊娠・分娩管理の経験のない当院での診療継続が難しい」と書かれていた。

精子バンクのような第三者が関わる生殖医療については、厚生省(現厚労省)の審議会が2000年の報告書で「制度の整備が急務」と指摘。2020年末に「生殖補助医療法」が成立したものの、同性カップルの扱いについては盛り込まれず議論は棚上げされ続けている

そのため、その間に民間の精子バンクや個人間の精子提供が広がったが、日本産科婦人科学会も国の通達以上の指針は示せずにいる。

加えて、今回かおるさんが拒否されたのは分娩であり、生殖医療ではない。通達では第三者提供の精子による出産の扱いには触れておらず、日本産科婦人科学会も分娩受け入れを禁止していない。それでも病院側が慎重になった可能性がある。

当事者にとっては病院側の「父親がわからないシングルマザーは受け入れるが、第三者提供の精子による妊娠は受け入れない」という説明は納得のいくものではなかった。

さらに、提供精子による妊娠・出産の経験がなく診察継続が難しいのであれば、個人病院ではなく、設備の整った然るべき病院を転院先として紹介するのが自然だとも感じている。

東京都は、条例で「性自認及び性的指向を理由とする不当な差別的取扱いをしてはならない」と定めている。

かおるさんは、条例があるにも関わらず、都内の2つの病院から受け入れを拒否された事実を知ってほしいと話す。

また、自身が受けた医療機関の分娩拒否をSOGIハラ(性的指向や性自認に関するハラスメント)だと感じたが、どこに相談すべきかわからなかった。その経験から、国や自治体が、医療に関するSOGIハラの相談窓口を作ってほしいと感じている。

ちあきさんは、医療機関の受け入れ拒否は子どもの権利や福祉をも蔑ろにする、と訴える。

「個人として、同性カップルを受け入れられないという考えを持つ人はいるかもしれません。しかしその個人の感情で医療の提供を拒否するのは、私たちの権利だけではなく、子どもの権利を侵害することになると思います。医療機関に携わる人間として、そのことをどう考えているのでしょうか」

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日本産科婦人科学会の見解

今回分娩の受け入れを拒んだ2軒の病院にハフポスト日本版が取材を申し込んだところ、最初の病院は「個人情報保護と守秘義務があるため、第三者からの照会には答えられない」とメールで回答した。

また、2件目の病院は「新型コロナで取材は一切お断りしている」と説明した。

第三者提供の精子による妊娠での分娩について、日本産科婦人科学会はどう考えているのか。

学会は2023年4月に出した報告書の中で、提供精子による生殖医療のあり方について、早急に明確にするよう厚労省などに求めた。

さらにこの報告書では「性的マイノリティやパートナーがいない⽅から、本医療によって⼦どもを持ちたいとの要望が寄せられている」として、第三者提供の精子を使った医療の提供範囲について、多⽅⾯からの意⾒集約が望まれるとも指摘している。

木村正理事長はハフポスト日本版の取材に、「国は現在(精子提供で子どもをもうける同性カップルなどが)世の中にいないというような姿勢で、まったく宙ぶらりんの状態です」と述べる。

「国の姿勢が定まっていないため、親子関係や出生証明書をどう書いたらいいのか、出自を知る権利の問題にどう対応すべきかがわからず、自主規制する病院が出てきて、現場の混乱を招いている状態だと言えます」

「(今回分娩受け入れを拒否されたカップルのように)現実につらい思いをしている方がいるので、この問題について国には早く決めてもらわなければいけません」

「命の選別をしている」

非営利の一般社団法人「こどまっぷ」の代表理事である長村さと子さんによると、同性カップルが妊娠した際に分娩先で断られるケースは多くはないものの、団体が把握しているだけでもこれまでに3件あった。

いずれもこの時にも、精子が第三者提供だったことが問題になったが、精子バンクの利用で断られたのは今回が初めてだという。

長村さんは今回の病院の対応について「命の選別をしており非常に問題だ。今回の二人は非合法なことをしてるわけではない。 生まれてくる子どもの命にレッテルを貼らないでほしい。そしてこのようなケースがまかり通ること自体、今後もあってはならない」と指摘。

長村さんはこうした問題に対応するため、東京・足立区と連携し、同性カップルの分娩先となる区内や区外の病院を確保する取り組みを実施している。

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