岸田首相は法律で差別否定を。秘書官発言にLGBTQの人権を守る署名スタート。2万人以上が賛同

差別発言をした荒井首相秘書官の更迭だけでは「とかげのしっぽ切り」だ――。岸田首相が口だけではなく、法整備で「差別は言語道断」と示すかが問われています
有志団体が立ち上げた、法整備を求めるオンライン署名
有志団体が立ち上げた、法整備を求めるオンライン署名
Change.org

岸田文雄首相の秘書官を務めていた荒井勝喜氏が、LGBTQ当事者について「見るのも嫌だ。隣に住んでいるのも嫌だ」などの差別発言をした問題で、性的マイノリティの人権を守る法整備を求める声が高まっている。

2月5日には、有志団体がオンライン署名をスタート。「更迭によって、この問題を幕引きにしてしまえば、同じような差別がきっと今後も繰り返される」と訴えている。

問題になった首相秘書官の発言

毎日新聞によると、荒井元首相秘書官は2月3日夜、性的マイノリティや同性婚について「僕だって見るのも嫌だ。隣に住んでいるのもちょっと嫌だ」と述べた。

他にも「社会に与える影響が大きい。マイナスだ。秘書官室もみんな反対する」「人権や価値観は尊重するが、同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」という趣旨の発言もあったという。

この発言の翌日、岸田首相は荒井氏を更迭。荒井氏の発言について「大変深刻に受け止めている」「言語道断の発言だ」と述べた

その一方で首相自身も2月1日の衆議院予算委で、同性婚の法制化について「家族観や価値観、そして社会が変わってしまう課題」と答弁し、差別を許容する発言だと大きな反発を招いた

LGBTQの人権を守る3つの法整備

オンライン署名を立ち上げたのは「岸田政権にLGBTQ法整備を求める有志」だ。岸田政権に対し次の3つの法整備を求めている。

LGBT差別禁止法

▼ 結婚の平等(同性婚)

▼ 性同一性障害特例法の改正または新設

「LGBT差別禁止法」は、性的指向や性自認に関する差別的取扱いを禁止する法律だ。

LGBTQ当事者団体や人権団体などは「禁止法がなければ、差別的取り扱いを受けた性的マイノリティを守ることができない」として、法整備の必要性を訴え続けてきた

また、「同性婚」とも呼ばれる結婚の平等をめぐっては、現在30人を超えるLGBTQ当事者が、全国6つの地裁・高裁で国を相手に訴訟を起こしている。

さらに、性同一性障害特例法については、法律上の性別を変更する際の要件である「未成年の子どもがいないこと」「生殖腺を取る手術を受けること」などの見直しを求める声があがっている。

更迭だけでは「トカゲのしっぽ切り」

署名立ち上げ人のひとりで一般社団法人fair代表理事の松岡宗嗣さんは、法整備が必要な理由について、「荒井秘書官を更迭するだけでは『トカゲのしっぽ切り』になりかねず、政権はいつまでも同じような差別を繰り返すだろう」と指摘する。

NHKによると、荒井元秘書官は岸田首相のスピーチライターも務めていた。

松岡さんは「政権の考え方を示す、まさに中枢の人物です。このような人物の“本音”から、政権が差別的な認識のもと政策を実行しているのではと思ってしまう」とハフポスト日本版の取材に述べた。

そう思わせるのは、今回の荒井元秘書官の発言だけではない。

岸田政権は2022年8月の内閣改造で、「LGBTは生産性がない」と発言した杉田水脈議員を総務大臣政務官に起用。野党から更迭を求められたが、岸田首相は拒否した(最終的に、杉田議員は12月に事実上の更迭となった)。

松岡さんは、荒井元秘書官の発言や杉田議員の起用は、差別的な考え方が政権に蔓延していることを象徴していると感じている。

そもそも、今回の荒井元秘書官の発言も、岸田首相の「同性婚を認めると社会が変わってしまう」という発言について聞かれた質問での回答だった。

松岡さんは「首相も口では『差別はあってはならない』と言いつつ、実際は性的マイノリティに関して差別的な認識を持っていて、それをもとに政策を実行しているのではないかと疑問に感じます」と話す。

そして、これまでの経緯を考えれば、「『差別はあってはならない』という言葉や秘書官更迭だけでは、何の解決にもならない」と指摘する。

差別がLGBTQ当事者を危険にさらしている

「LGBT差別禁止法」「結婚の平等」「性同一性障害特例法の改正または新設」はいずれも、性的マイノリティの人権を守るため、当事者や支援者、人権団体が整備を求めてきたものだ。

しかし、これまで実現していないだけでなく、2021年に超党派の議連がまとめたLGBT法案は「差別禁止」ではなく「理解増進」に。

そして、法案をめぐる議論で自民党の議員から「LGBTは種の保存に背く」などの差別発言が飛び出した上、法案は最終的に自民党内で了承されず国会に提出されなかった。

さらに、結婚平等の裁判で、国側は「同性カップルと、結婚した異性カップルを同等の関係と社会が見ていないため同性婚が認められなくても問題ない」などの差別的な主張もしている。

政治家が差別的な発言を繰り返す現状、そして法整備がないことが、LGBTQ当事者を危険にさらしている、と松岡さんは話す。

NPO法人ReBitが2022年9月に実施した調査では、10代のLGBTQの若者の半数近くが、1年間で「自殺を考えたことがある」と回答。7人に1人が自殺未遂をしたと答えた。

「ただでさえ、性的マイノリティの人権を守る法整備がなく、さらに政権中枢の人物がこんな差別発言をするような状況こそ、性的マイノリティの自殺リスクを高めるようなものではないでしょうか」と松岡さんは訴える。

口だけではなく法整備で差別を否定できるか

5日に立ち上げられた署名には、6日午後5時時点で2万人以上が賛同している。
5月には岸田首相の地元である広島でG7サミットが開催される予定だ。このG7で「LGBT差別禁止法」や同性カップルの法的保障がないのは日本だけであり、性的マイノリティの人権保護が大幅に遅れている。
岸田首相がG7サミット開催を前に、口だけではなく法整備で「差別は言語道断」と示すかが問われる。
▼署名サイトはこちら