2019年09月30日 12時13分 JST | 更新 2019年09月30日 22時40分 JST

私の人生は、私が決める。周りは気にしない。トランスジェンダーとロリータモデルがつかみ取った「自分らしい生き方」

青木美沙子さんとサリー楓さんが伝えたい、「#しなきゃなんてない」生き方とは

学校を出たら、仕事をして家庭を持つのが「当然」、服装や振る舞いは「年相応」でなければならない…...。私たちは日々、社会から無言の「圧力」を受けて生きている。

こうした圧力を恐れ、いつしか自分の望む人生から離れてしまっている人も多いはず。

トランスジェンダーで建築家・モデルなど多彩な顔を持つサリー楓さんと、ロリータモデルで政府の「カワイイ大使」でもある青木美沙子さんは、社会の押し付ける圧力に「NO」を突き付け、自らの生き方を貫いてきた。

「…しなきゃ」なんてない、自分らしく生きることとは──。2人に語ってもらった(敬称略)。

「服が邪魔」と説教、高身長がコンプレックス…隠れた苦労

 ── お二人は初対面ですよね。お互いの第一印象はいかがですか。

青木 とても綺麗で、モデルさんのオーラを放っていますよね。

サリー ありがとうございます。青木さんは絵本から飛び出してきたような方、という印象です。お洋服も髪飾りも、秋らしいトーンでそろえて素敵です。

青木 そう言って頂けて嬉しいです。

Jun Tsuboike
トランスジェンダーで建築家・モデルのサリー楓さん(左)と、ロリータモデル・看護師の青木美沙子さん=東京

青木 ロリータファッションは社会の偏見が強く、普段は周囲の冷たい目と戦っているんです。

電車の中で、「膨らんだスカートが邪魔だ」とおじさんに説教されたり、酔っ払いに絡まれたり。ロリータの特長である少女らしさを「幼稚」だとか「頭悪そう」と誤解されることも多いです。

サリー 私の方は、背の高さがとてもコンプレックスでした。

「女性になりたい」と思い始めた中学生の頃は、背が伸びないよう自宅にある高さ160センチくらいのくぼみに体を押し込んだり、小さい靴を履いて、ひもをきつく結んで足が大きくならないようにしていました。

でもモデルになって、176センチの身長を「うらやましい」と言ってもらえるようになり、コンプレックスを乗り越えられました。

以前は「でかいね」と言われると傷ついたのですが、今は自信をもって「でかいですよ」と言えます(笑)。

自己表現したがらない日本人

── セクシュアリティとファッションという違いはありますが、お二人は「自分らしい生き方」を選んできました。社会で生きづらさを感じることはありますか。

青木 よくありますね。日本人は元来、目立つことを嫌います。ロリータファッションも、親に突飛な格好だと反対されて着れないという話をよく聞きますし、男性にもモテません。

私も昔付き合った男性に「恥ずかしいから着ないで」と言われたことがあります。もちろん応じませんでしたが(笑)。

でも海外で活動していると文化の違いを強く感じます。

例えば中国では目立つことは恥でも何でもなくて、女性は堂々とお姫様っぽい格好をするし、一緒にいる男性も「自分のために着飾ってくれた」と喜びます。ロリータは「モテファッション」なんです。

日本も「こういう女の子もいていいよね」と、前向きに受け入れてほしいです。

Jun Tsuboike

サリー よく分かります。私は海外で働いた経験がありますが、私たち日本人は、あまりにも自分を表現することに消極的だと感じます。

それを痛感したのが就職活動です。ある国内企業の面接で、担当者にこう言われました。「(トランスジェンダーについて)僕は理解があるけど、君が入社後、所属する部署の人や、取引先が難色を示すかもしれない」。こちらからお断りしました。

採用の可否を決める立場の人が自分の意見ではく、取引先や将来の同僚という、そこにはいない第三者の考えを装って言うのはおかしいと思いました。

ちなみに、外資系や今勤めている会社でカミングアウトした時は「パンツを脱いで仕事するわけじゃないでしょ?」と言われ(笑)反応の違いに驚きました。

Jun Tsuboike

壁を超えた時に見えた、周囲の意外な反応

── これまで生きてきて、自分の生き方に悩むこともあったと思いますが、どのように乗り越えましたか。

青木 世の中には「30代で結婚・出産」など、年齢に応じた「あるべき姿」に当てはめようする人が多いですよね。

私はそれが嫌で、長い間年齢を明かしませんでした。ウィキペディアの自分の項目に、年齢が書きこまれるたびに消していたくらいです(笑)。

2年前、あるテレビ番組で、年齢を公表せざるを得なくなりました。当時34歳で未婚、子なし。しかもロリータの自分は、世間からどんな風に言われるだろうと、とても怖くなりました。

でも、実際には放送を見て、多くの人が「私も同じ」と共感してくれました。秘密を明かすことで、人に勇気を与えられることもあるのだと初めて知りました。

サリー 私は大学院時代、どうしても女性として通学したくてカミングアウトを決意しましたが、教授に言ったら研究室にいづらく、「退学しなければいけなくなるかも」と悩みました。

でも実際に話してみると、想定していた反応と違って拍子抜けでした。先生は前日まで男性の格好だった私が、一夜明けて女性の姿で現れたので、さすがに言葉を失っていましたが(笑)。

でもその後はトイレをどうするか、就活のサポートは必要かなど、いろいろと協力してくださいました。

友人からは「明日から何て呼べばいいの?楓ちゃんね」で終わり。考えてみると、私が壁を乗り越えたんじゃなくて、周りが壁を低くしてくれた。感謝しかないです。

カミングアウトしやすい環境をウェルカムとカミングアウトを掛け合わせた言葉で「ウェルカミングアウト(”Wel”-coming out)」といいます。

セクシュアリティだけでなくファッションや宗教、身近なところでは飲み会で「とりあえずビール」ではなく、飲みたいものを注文できる雰囲気づくりなども当てはまります。みんなで「ウェルカミングアウト」な社会を作っていければいいですよね。

Jun Tsuboike

既成概念にとらわれず自分らしく生きよう

── 違和感を感じる社会の価値観や考えから自由になろうと「#しなきゃなんてない」キャンペーンをLIFULLが始めました。お二人が思う「しなきゃなんてない」は、どのようなことでしょう。

青木 ロリータは若い子向きの衣装というイメージが強く、私もよく「何歳まで続けますか」と聞かれます。でも、好きなら一生、着ていいじゃないって思います。

年齢にとらわれず自由に生きた方が人生は楽しい。「年を取ったらロリータを卒業しなきゃ」なんてないんです。

仕事だって「1つを極めなきゃ」ばかりではなく、もっと柔軟に考えていいと思います。

私はロリータモデルのほかに看護師もしています。「どちらも極められず中途半端」という見方をされることもありますが、いろんな世界を見た方が、視野は絶対に広がるはずです。サリーさんも、複数のお仕事をしていますよね。

サリー 私は建築家やモデルのほか、トランスジェンダー当事者としての経験を伝える活動もしているのですが、多くの人が、自分の所属するカテゴリーに囚われ「それらしく」振る舞わなければという考えに縛られていると思います。そうやって肩書の奴隷になるのはもったいない。

「男は男らしく」「建築家は建築家らしく」なんてない。領域を超えて、自分が本当にやりたい事をやればいいと思います。

Jun Tsuboike

◇   ◇   ◇

サリーさんと青木さんは、「周囲が何を言おうと、自分の生き方は自分で決める」という意志の力で、人生を切り開いてきた。その結果、自分らしく、楽しく生きる術を身につけたように思える。

「あらゆるLIFEを、FULLに。」というコーポレートメッセージを掲げるLIFULL(東京)は、空き家問題や廃材問題などの社会課題に真摯(しんし)に向き合い、解決策を打ち出してきた。

そうした中で、マクロな問題だけでなく、人々の生活にこそ様々な課題が隠れていることに気付き、人々がより自由に自分らしく生きられる社会をつくるため#しなきゃなんてないキャンペーンを始めた。

当たり前と考えられてきた常識の中にも、よく考えたら違和感を覚えることがあるはず。多くの疑問の声を集め、それをもとに社会課題に挑む──。それがキャンペーンの狙いだ。 

日々のニュースや誰かから投げかけられた言葉など、生活のさまざまな場面で感じた違和感を、ハッシュタグ「#しなきゃなんてない」を付けてツイッターに投稿してみよう。

あなたにも少しずつ、「自分らしい生き方」が見えてくるかもしれない。

(取材・文:有馬知子 撮影:坪池順 編集:川越麻未)