WOMAN
2020年02月21日 05時50分 JST

【佐藤優】女性活躍、甘い言葉に騙されないあなたは正しい

【佐藤優のお悩み相談室】「女性活躍とか言われるのウザイ」って思ってる私ってダメなのでしょうか。“かっこいいワーママを目指して、家事をしてお洒落をしよう”と巷で言われていますが。

Jun Tsuboike / HuffPost Japan
佐藤優さん

「女性活躍とか言われるのウザイ」って思ってる私ってダメなのでしょうか。
“かっこいいワーママを目指して、家事をしてお洒落をしよう”
などと巷では言われています。政府も2015年に女性活躍推進法を施行しました。
主婦の人は、キャリアウーマンに対して、「キャリア持っていいな、私は主婦の狭い世界でやるしかないのに」という、なんとなくの不安がある。一方で、子供を持って働いている人は、「子も家庭も仕事もやっている自分は大変だ」と思っているし、子供がいないキャリアウーマンは、キャリアのために子供を産むチャンスを失ったりして「こんなに頑張ってるのに何よ」と思っているところもあります。皆それぞれ不満を何らかの形で抱えていて、女性たちの中でぶつかり合っているように思います。
ある友人は、日本の企業で働いている夫を持つ専業主婦の女性ですが、結婚を機に塾の受付の仕事を辞めて、夫の財布で生きています。「映画館は一人だと怖くて行けないの」と言う彼女。仕事で忙殺されている夫は彼女にも働いて欲しいらしいのですが、会社の家族手当てが充実しているので、彼女としては「安泰」なのだそうです。
そういことを聞くと、人はそれぞれだなどと思いつつも、気持ちがざわざわするのです。この気持ちどう整理したら良いでしょうか。
(パートタイム30代の都内在住の女性。家族は子供2人と夫 )

 

女性活躍ってみんな言ってるんだけどそれをウザいと思う私ってダメかしらという話だとしたら、それは普通の感覚だと思います。ウザいと思うの当然だと思います。

ある人は、専業主婦というアイデンティティを持ってる。ある人は、プロフェッショナルとしての自分のアイデンティティを持っている。ある人は、子育てにアイデンティティを持っている。ある人は、親の介護を一生懸命していて、そこに自分のアイデンティティを見出している。

それぞれが抱えている問題はぶつかる必要がないのに、ある一つの価値が絶対だということになるとぶつかってしまうわけです。“世界は存在しないが、それぞれの人にとって意味のある場が存在する”と哲学者のマルクス・ガブリエルが著作の「なぜ世界は存在しないのか」で説いていますが、それぞれの人にとって価値は異なる。自分にとって絶対的に大切なことが他の人にとっては違うかもしれないのです。そう理解して、価値の対立が起きないように「鈍感力」を発揮しないといけないわけです。

うざいと思うのは僕は気持ちはよく分かります。
要するに女性活躍というのは裏返すと「活躍していない人がいるんですか?」と。こういう意味でしょ?

みんな活躍しているのです。その形態が違うだけです。「政府は活躍の形態を勝手に決めないで。これはむしろ女性活躍というより女性活用。だからそれはうざい」そう思うあなたの感覚に私は非常に共感します。これはだから「もっと働け」って言われるのと一緒ですね。当事者たちは「ふざけるな、十分働いてる」という話なのです。

Jun Tsuboike / HuffPost Japan

◆差異に価値ある時代にナンセンスなキャッチコピー

ところで、今は「アイデンティの政治」の時代です。
冷戦時代、共産主義か資本主義かという強力なイデオロギーがありましたが、今、そのイデオロギーが崩壊しています。例えば、共産主義というところに入っている人はその中の小さなアイデンティティの差異を我慢していました。反共主義だったら共産主義を避けること以外の問題はすべて二次的でした。冷戦の時代ですね。

そんな中、フランスの哲学者ジャン=フランソワ・リオタールが「ポストモダンの条件」(1979年)を著しました。実は、この本を電通や博報堂など広告業界の人々がこぞって読んでいました。なぜか。差異に価値を生み出そうとしたのです。

広告業界の文脈で言うと、キャッチコピーでちょっとした違いに価値を見出した。(有名なキャッチコピーの)「おいしい生活」のような感じです。1980年代と70年代とで広告代理店の機能が変わったのは、共産主義という大きな物語が力を失ったからです。

元に戻って、この女性活躍という言い方は、「活躍する場をもうちょっと広げましょう」という表現ですが、実態は「活用」です。女性の労働力を活用したいという政府の意図に砂糖をまぶして甘い言葉に置き換えています。

この相談者の方は、それを敏感に読み取ったわけですね。活躍の背後には何か使っていこうという、使い倒そうとしてるなと。この言葉には、ポストモダンの差異に配慮していない。それぞれの価値を認める意味も含まれていないのです。

残念なキャッチコピーな上に、政府の隠れた意図が見透かされてしまっている政策の典型です。

(編集・構成 ハフポスト日本版 井上未雪) 

 

 「知の巨人」と呼ばれる佐藤優さんに、モヤモヤした気持ちや悩みをぶつけ、解決の糸口となるアドバイスをうかがいます。今見えている物事の底脈には何があるのか。佐藤さん独自のインテリジェンス視点で、考えるヒントを見つけたいと思います。

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