犬が嬉しそうに「勝訴」を運んでくるおもちゃ、ハムスターモナカ...大バズりの企画を生んだのは、どんな人?

マンドラゴラ防犯ブザーやマンモスの氷漬けクッションなど...クセになるアイデアを世に放っています。

〈うれしそうに判決を取ってきてくれる、犬用のおもちゃを作りました。〉

裁判で勝った直後、弁護士らが走って持ってくる「勝訴」の巻き紙。それを犬が咥えて取ってくる“斜め上すぎる”おもちゃが、ツイッターで29万いいねと話題になった。

「勝訴」と書かれたクッションを投げ、犬が咥えて駆け寄ってくる姿が、勝訴判決を喜ぶ弁護士の様子に重なる。仕掛け人は、京都を拠点とする企画デザイン2時(以下2時)のプランナー・楢崎友里さん、田中桃子さんだ。

「犬用勝訴マスコット」の他にも、マンドラゴラ防犯ブザーや動く点Pポーチ、マンモスの氷漬けクッションなど、クセになるアイデアを世に放ってきた。

常人にはとても思いつかない独特のアイデア、でも、何となく親しみが持ててしまうー。どこからその発想が湧いてくるのだろうか?

企画デザイン2時が手がけてきた商品の数々。右上の写真が、プランナーの楢崎友里さんと田中桃子さん。
企画デザイン2時が手がけてきた商品の数々。右上の写真が、プランナーの楢崎友里さんと田中桃子さん。
企画デザイン2時提供 / Yu Shoji

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愛犬がうれしそうに判決を取ってきてくれる... 「犬用勝訴マスコット」に29万いいね

裁判の判決のニュースを見ていると、「勝訴」や「無罪」と書いた巻き紙を持って走ってくる人物をよく見かけないだろうか?この「裁判所から走ってくる人」に、投げたおもちゃを咥えて戻ってくる犬の姿を重ね合わせたシュールすぎる一品。行書体で力強く書かれた「勝訴」と「無罪」が表と裏になっていて、犬がどっちを表に戻ってくるかはお楽しみだ。

「犬用勝訴マスコット」
「犬用勝訴マスコット」
企画デザイン2時提供

「ワンちゃんの一番面白い、ホットな瞬間は、投げたオモチャを咥えて走って戻ってくるところだと思いました。遠くから笑顔で何かを持ってきてくれるーというイメージを膨らませたら、裁判所から嬉しそうに『勝訴』の紙を持って走ってくる弁護士さんの姿を思い出して...。ツイッターにアップしたサンプルは、百均の雑巾を自分たちで縫ってアイロンプリントしてたのを、知り合いの犬に持たせて撮影しました」(楢崎さん)

勝訴マスコットに元々商品化の予定はなく、“ネタ枠”として一点だけ手作りされたが、ツイッターでの大反響を受け、大手玩具メーカー「バンダイ」から発売された。(受注生産のため現在は販売終了)。二人の予想をよい意味で裏切るように、次々と独特のアイデアを反映したアイテムが商品化されている。

倉庫で2ヶ月眠っていた...。シャウトが響き渡る「マンドラゴラ防犯ブザー」に予想外の反響、商品化へ

〈マンドラゴラの防犯ブザーをつくりました。〉

不審者の撃退用にけたたましい音を鳴らす防犯ブザー。そして「マンドラゴラ」は根っこを引き抜くとおぞましい悲鳴を上げ、耳にした人間は発狂して死に至る...との伝説が残る植物だ。映画「ハリー・ポッター」の植物学の授業にも登場し、知っている人も多いのでは?そんな「うるさい」両者を掛け合わせたのが「マンドラゴラ防犯ブザー」というわけだ。

怖い伝説とは裏腹にキュートな見た目。危険を察知した時に根っこを引っこ抜くと、内側のブザーのピンが抜け、マンドラゴラの魂のシャウトが響き渡る。年末に公式ツイッターにアップされると、「かわいい」「欲しい」「引っこ抜きたい」とたちまち話題に。犬用勝訴マスコットに次ぐ、21.4万いいねのバズりアイテムとなった。

ただ、生み出した二人にとっては予想外のバズりだったという。なにせ、ツイッターにアップされた“サンプル”マンドラゴラは、2ヶ月以上倉庫に眠らされていたのだから....。

「マンドラゴラの存在も叫ぶ伝説も、そんなに知られていないと思っていました。サンプルが届いても『ふ〜ん』と、そのまま倉庫に片付けちゃったんです...。元々フォロワーの方に楽しんでもらおうと作ったものだったので、年末にとりあえずアップしたら予想以上にバズり、マンドラゴラがきっかけで6000人もフォロワーが増えています。この子のポテンシャルを舐めていました。ぞんざいに扱って申し訳ないです」(楢崎さん)

「10個買いたい」「呼び鈴にしたい」といった熱いプッシュもあり、今は大慌てで商品化の準備を進めているという。勝訴マスコットやマンドラゴラ防犯ブザーのように、元は商品化の予定がなく、二人の遊び心で作ったものばかりがツイッターで爆発的な人気を呼んでいるのだ。

マンドラゴラ防犯ブザー
マンドラゴラ防犯ブザー
Yu Shoji

「共感を呼ぶけど既視感がない」企画デザイン2時のアイデアはどこから湧く?

楢崎さん、田中さんはともに大手通販会社「フェリシモ」で商品企画を担当。おもしろ雑貨ブランド「YOU+MORE!(ユーモア)」でヒット商品「セクシー大根抱きまくら」などを手掛け、2020年11月に独立した。屋号の2時には、時計の方角「斜め上」の発想でモノづくりを行う、との意思が込められている。

京都の老舗和菓子屋とコラボした可愛い見た目の「ハムスターモナカ」、凍った土の中から見つかったマンモスを彷彿とさせる「マンモスの氷漬けクッション」、十二支の動物を一つで賄えるマスコットなどなど....。とにかく発想が一風変わっている。

「ハムスターモナカ」と「マンモスの氷漬けクッション」
「ハムスターモナカ」と「マンモスの氷漬けクッション」
企画デザイン2時提供

中でも特に「あっ!」と思わせられたのが「動く点Pポーチ」。数学の厄介な1次方程式や図形問題で登場する、あの忌まわしき「点P」をモチーフにしている。多くの学生が「動くな!」とツッコんだことだろう...。点Pがスライダーとなり、線分BC間のファスナー上をスイスイと移動していく。

線分ADや線分BC間のファスナー上を移動していく「動く点Pと動く点Qポーチ」も...。
線分ADや線分BC間のファスナー上を移動していく「動く点Pと動く点Qポーチ」も...。
Yu Shoji

思わず「この発想はなかった!」と唸ってしまうアイデアはどうやって湧いてくるのだろうか....?二人に率直に聞いてみた。

「土曜日の昼下がりに、趣味の商品企画で思いついたものがSNSでよくバズっています。たくさんの人が共感するけれど、既視感のない見た目にするのがよい商品を作るコツ。点Pポーチの場合は『動くな!止まれ!』という共通のモヤモヤを商品に落とし込めたら、共感があって世の中にないものを作れるなと思いました」(楢崎さん)

「私はこれとこれが似ているなと思うものを結びつけてアイデアにすることが多いかなと思います。マンドラゴラ防犯ブザーで例えるなら、『ギャーッ』と鳴く植物と同じようにうるさいものってなんだろうと連想ゲームをして、防犯ブザーを思いつくという感じです」(田中さん)

思いついたアイデアはとにかくスマートフォンのメモアプリに書き留めておくという。実際、二人のスマホにはスクロールする手が止まらないくらい、たくさんのアイデアが並んでいる。中にはボツになったアイデアも多いというが...。

「勝ち負けが分かりにくいゲームを作りたい」ボツになったアイデアとは...?

「ブルーレイとDVDのリバーシをずっと前から言ってますけど作っていないですね(笑)ブルーレイとDVDのディスクってよく間違えるじゃないですか。勝ち負けがわかりにくいリバーシを作ってみたいという願望があって...。表がDVD、裏がブルーレイのディスクになっていて、その色で見極めて遊ぶんです(笑)」(楢崎さん)

「ドクターフィッシュのチュール靴下。ドクターフィッシュがいっぱい付いている透けた靴下があったら可愛いなと思いました(笑)」(田中さん)

どっちも二人で「ハハッ」と笑い飛ばして終わったという。同じ奇抜なアイデアでも実現させるものと、させないもの。その線引きは何なのだろうか?

「一定数の共感はあると思いますが、そこからいいビジュアルにできるか、SNSに投稿した時の絵が地味にならないかとか色々考えた時に無意識に外しているのだと思います。DVDとブルーレイのリバーシも面白いと思うんですけれど、そもそも最近の若い子たちは知っているのかなとか。だんだんとふるいにかけられていくので、埋もれているアイデアはたくさんあります」(楢崎さん)

楢崎友里さん、田中桃子さん。※撮影時のみマスクを外しています
楢崎友里さん、田中桃子さん。※撮影時のみマスクを外しています
Yu Shoji

「商品化が前提だったら世に出していないものばかり」次なる一手は居酒屋ポーカー!?

楢崎さんいわく、普通の会社ではSNSでバズった後に商品化しても、売り逃しになってしまうため、商品化を前提にしたアイデア商品しか公開できないという。

一方、2時の場合は「盛り上げ」目的でサンプルを公開し、その反応次第で商品化を進めてきた。商品化にこだわらないことで、売れるか分からない「グレー」なアイデアを惜しみなく出せたという。

「逆に商品化を前提にしていたらマンドラゴラ防犯ブザーは作ることはありませんでした。防犯ブザーもマニアックなアイテムですし、モチーフもニッチだったので。マンモスのクッションも同じ。マンモスを氷漬けにしたいニーズが不明すぎるので(笑)商品化が前提だったら絶対世に出していないアイデアばかりですね」(楢崎さん)

街中で見かけた標語で一時間も盛り上がったり、道端の三角コーンに話しかけたり...。日常のふとした面白い瞬間も存分に楽しめるという二人。些細なことも笑いに変える二人の気風が、おかしな商品につながっているのかもしれない。

今後は「居酒屋ポーカー」なるカードゲームも構想しているそう。ポーカーの手札を居酒屋の壁メニューに変え、最強の「当たり居酒屋」を作れた人が勝ちとか...。次なる一手が待ち遠しい。

※撮影時のみマスクを外しています
※撮影時のみマスクを外しています
Yu Shoji

(執筆・取材:荘司結有、編集:生田綾

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