豚の心臓を移植した患者が死去。「希望の終わりではなく始まりであってほしい」

世界で初めて、遺伝子操作した豚の心臓移植手術を受けた患者が、手術から2カ月で亡くなりました
デヴィッド・ベネット氏(左)と息子のデヴィッド・ベネット・ジュニア氏(2022年1月12日)
デヴィッド・ベネット氏(左)と息子のデヴィッド・ベネット・ジュニア氏(2022年1月12日)
via Associated Press

遺伝子操作した豚の心臓を移植するという世界初の手術を受けた患者が、3月8日に亡くなった。手術を担当したメリーランド大学医学部が発表した。

患者で57歳のデヴィッド・ベネット氏は、1月7日に移植手術を受けた。メリーランド大学によると、その後数週間は拒否反応は見られなかったものの、約2カ月後の8日に死亡した。

大学は死因を発表しておらず、数日前に体調が悪化したと説明している。

メリーランド大学医学部ツイート:世界で初めて、遺伝子操作した豚の心臓の移植手術を受けたデヴィッド・ベネット氏が3月8日に亡くなりました。手術から2カ月でした。ご家族に心からお悔やみを申し上げます

最後の選択肢で受けた手術だった

ベネット氏は末期の心臓病を患っており、2021年10月にメリーランド大学医学部を訪れた時には、寝たきりで体外式膜型人工肺(ECMO)を装着した状態だった。

ベネット氏は人間のドナーによる心臓移植を受けるのが難しく、他に治療法がなかったため、医師たちはアメリカ食品医薬品局から緊急許可を得て、世界で初めてとなる遺伝子操作したブタの心臓を使った移植手術を施した。

大学医学部によると、手術は実験的なものであり、ベネット氏は未知のリスクと利益が伴うことを理解した上で同意した。同氏は手術前日に「これは私の最後の選択肢です」とコメントしている。

人間以外の動物の組織や臓器を移植する「異種移植」は、これまでも行われているものの、主に患者の拒絶反応が原因で成功していない

この問題を解決するため、メリーランド大学の医師たちは、拒絶反応を引き起こす遺伝子を取り除くなど、遺伝子操作したブタの心臓を使用した。

病院は手術から3日後に「患者に拒否反応は見られず、経過は順調だ」と発表。さらに2月には、ベネット氏が理学療法士と病院でスーパーボウルを観戦している動画も公開した。

メリーランド大学医学部は、ベネット氏が拒絶反応で亡くなったのか、それとも他の原因があったのかを明らかにしていないものの、医師たちは「今回の手術が臓器提供を望む患者を救う希望になる」と考えている。

手術を担当したムハマド・モヒューディン医学博士は「私たちは極めて貴重な見識を得ました。遺伝子操作した豚の心臓は、免疫システムが適切に抑えられていれば、人間の体で機能するということがわかりました」「私たちは希望を持ち続け、今後も臨床試験を続ける予定です」とコメントしている。

また、バートレイ・P・グリフィス医学博士は「この手術は、未来の患者の命を救う可能性がある」と述べている。

さらに、ベネット氏の息子も「今回の出来事が、希望の終わりではなく始まりであってほしいと願っています。この手術で明らかになったことが、未来の患者にとって利益となり、毎年多くの人が亡くなっている臓器不足を解消してほしい」と声明で伝えた。

臓器提供はドナーが不足しており、日本臓器移植ネットワーク(JOT)によると、日本では約15,000人が臓器移植を希望してJOTに登録している一方で、希望者の2〜3%しか移植を受けられていない。

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