2021年04月16日 13時09分 JST | 更新 2021年04月16日 13時09分 JST

「あのカラフルさは、一生忘れない」トランスジェンダーの元就活生が語る、“職場と性のあり方”。パンテーン#PrideHair動画の舞台裏

トランスジェンダーの元就活生が語る体験談が反響を呼び、1週間で2000万回再生を記録したパンテーン「#PrideHair」動画。話題の本動画に出演した合田さんと、LGBTQ+アライで実業家の辻愛沙子さんが職場と性のあり方にについて語りました。

Asuka Ito

あなたの職場にLGBTQ+(性的マイノリティを表す総称の一つ)の同僚はいますか? 日本でおよそ13人に1人(認定NPO法人ReBit調べ 2019)が該当すると言われるLGBTQ+の人たち。その割合はAB型の人と同じくらいで、身近な存在です。

ブランドメッセージとして「#HairWeGo さあ、この髪でいこう。」を掲げ、髪を通して一人ひとりの個性について考えるキャンペーンを展開しているパンテーンは、昨年秋に「#PrideHair」プロジェクトを発足。LGBTQ+の元就活生の体験談をもとに、自分を偽らず自分らしさを表現できる就職活動について考えるキャンペーンが反響を呼びました。

トランスジェンダーの元就活生として「#PrideHair」の動画に出演した合田さんと、LGBTQ+アライ(理解者・支援者)でもある実業家 辻愛沙子さんが“職場と性のあり方”について語り合いました。

「いろんなことを思い出して、涙が溢れた」#PrideHair動画撮影を振り返る

Asuka Ito
合田(ごうだ)さん: 証券会社に勤務するトランスジェンダー男性。パンテーン「#PrideHair」動画に出演

合田さん(以下、合田) 「#PrideHair」動画には多くの反響がありました。嬉しかったのが、LGBTQ+の当事者ではない人たちからの言葉。大病を患って入院中の方に「元気をもらった」と温かい言葉もいただきました。過去の経験が、多くの人の心を動かす作品につながって嬉しく思います。

辻さん(以下、辻) 私はクリエイターとしても消費者としても、一昨年の「#この髪どうしてダメですか?」キャンペーンの頃からパンテーンの「#HairWeGo」に注目していました。美しさが画一的なものとして表現されやすい髪を切り口に、強くリアルなメッセージを届けているのがいい。とくに「#PrideHair」は言葉が素敵。LGBTQ+当事者として人生を歩んできた当事者がご自身の言葉で語っている。それが本当に素敵だと思いました!

Asuka Ito
辻愛沙子(つじ・あさこ)さん: 日本のクリエイティブ・ディレクター、実業家。(株)arca CEOを務める

合田 そんな風に言っていただけて、とても嬉しいです。撮影中には就活時代の気持ちを思い起こし感極まって泣いてしまう場面もあり、1時間の撮影で2度中断になったほど。当時の自分の気持ち、そして親や恋人、教授の気持ち…。いろんなことを思い出して涙が溢れました。動画の中で一瞬泣きそうな表情をするんですが、それは本当に泣く直前を切り取った部分です。

 そのリアリティがみんなの心を打ったんですね…!

「あのカラフルさは、一生忘れない」入社初日に見た光景

Asuka Ito

合田 入社前に遡りますが、内定者インタビューで会社の先輩と話をしました。当時女性の姿をした私は、そこで初めて会社に性同一性障害を打ち明けました。「女性の姿をしていますが心は男性です。男性として入社し、男性として働きたい」と。すると先輩は「とても大切なことだから」と人事に伝えてくれました。人事担当者も「伝えてくれてありがとう。話し合いながら一緒にがんばっていきましょう」と言ってくれ、心からいい会社だと思いました。

 一人の“人”として合田さんと向き合っていますよね。

合田 本当に真摯な対応でした。一方で実際に働く職場については不安もありました。けど、配属先の支店に「初めまして」と入った瞬間、みんなのパソコンがカラフルで! 50人ほどいる支店の社員全員がLGBTQ+アライのステッカーを貼ってくれていました。もし一緒に働く人がLGBTQ+の人について知らなかったら、一人ひとりに一から説明しなければならない。そんなプレッシャーも感じていたので安心できました。

辻 LGBTQ+の存在を理解していたり、連帯を表明しているって前提があるだけで違いますよね。

合田 はい。なので、理想の職場は私の職場、みたいな感じです(笑)! これは後から聞いた話ですが、私の配属にあたり人事が研修を開き「新入社員が不安でいっぱいなので、支店のみんなでステッカーを貼りませんか」と提案してくれたらしいです。あのカラフルさは一生忘れないですね。

辻 本当に素敵です。今もその人事担当者と交流があるんですか?

合田 「#PrideHair」の動画出演の報告に行きました! 

辻 エモい!! お互いに嬉しいですよね。

Asuka Ito

合田 とても喜んでくれました! 当時を振り返り「初めてのことで苦労もあったけど、この動画を見て心からよかったと思う」と言ってくださいました。

辻 すごい感動。「初めてのこと」とおっしゃいましたが、言えなかっただけでLGBTQ+の人がいたかもしれないし、今もいるかもしれない。合田さんが勇気を出してカミングアウトしたことで会社が変わった。そのことで新入社員や、偶然その話を耳にした別の会社の人が救われるかもしれない。そんな連鎖が感じられて、私自身もエンパワーメントされます!

500人の前でカミングアウト「生まれ変わっても、またトランスジェンダーがいい」

Asuka Ito

合田 実は私、会社のダイバーシティ研修でカミングアウトしたこともあるんです。というのも、LGBTQ+の人のことをもっと身近に感じてもらいたくて。私が壇上でカミングアウトしますって(笑)。それで本当に「私が女性として内定をもらい、男性として入社した合田です!」と、社員500人の前でマイクを持ってカミングアウトしました。嬉しかったのが、研修後に社員の一人が自分の性のあり方ついて話してくれたこと。声をあげてよかったと思えました。

辻 すごい…! 合田さんのような方が社会を変えていくんですね。

合田 目立ちたがり屋なだけかもしれません(笑)。

Asuka Ito

辻 こういうのって本当に連鎖ですよね。500人の前で堂々と明るくご自身の性のあり方について打ち明けること。一方で辛かった経験は、なかった事にせず時に涙を流して自分の気持ちを大事にすること。合田さんの話を聞いた人がまた他の人に伝え、それが繰り返される…。そうして「多様な性のあり方があることは当たり前」と、ちょっとずつ理解が広がっていくんだなと思いました。

合田 そもそも私はトランスジェンダーに生まれてきたことを、とても気に入っているんです。それは、人の温かみに触れられるから。例えば、就活前に訪れたスーツ屋で店長と話していたら、なんと店長の兄弟もトランスジェンダーで! 後日、晴れて男性として入社が決まり、女性向けリクルートスーツを買ったその店で、今度は男性向けスーツを買いました。すると店長が「こっちの方がお似合いです」と言ってくれて。こういう経験ができるのはトランスジェンダーに生まれたからこそじゃないかなって! だから、生まれ変わってもまたトランスジェンダーがいいですね(笑)。 

辻 めちゃくちゃポジティブ! 強さと明るいお人柄あってこそなんでしょうね。動画出演に合田さんが選ばれた理由がわかりました。人の心を動かす力を持った人だ!

合田 辻さんのような方によく言っていただけて嬉しいです(笑)。

「誰しも完璧ではない」偏見を指摘されたら“ありがとう”を言えるように

Asuka Ito

辻 私の会社ではSlack(メッセージプラットフォーム)を使っているのですが、私は自分の名前の後ろに“アライ”とレインボーの旗の絵文字を入れています。普段から自分はアライだと思っていても、それを見える形で表明しないと、相手からはアライかどうかわからない。いくら自分の中で思っていても伝わらないので、表に出すことが大切だと思います。

合田 素晴らしい! 私の会社のアライステッカーと同じですね。目に見えると伝達速度が違いますよね。

辻 そうですね。とくに小さい会社だと人間関係がせまい分、言い出しづらい場面もあると思います。なので、経営者自らアライであることを表明して、見える化することは大切だろうなって思います。

Asuka Ito

合田 見える化することで、当事者やアライじゃない人がLGBTQ+の人に興味を持つきっかけもつくれますよね。「なんでレインボーつけてるの?」みたいに。会話の入り口にもなるかもしれない。

辻 本当にそう! 見える化の連鎖が広がることで、社会が変わると思います。一方で当事者がご自身の性のあり方について話すかどうかはその人の自由です。カミングアウトの有無に関わらず、周りのアライが連帯してみんなが働きやすい環境をつくることが大切だと思います。

合田 ちなみに、うちの会社にはアンコンシャスバイアス研修もあるんです。最初は私も聞き慣れませんでした(笑)。けど、まず言葉を知ることが大切だと思っています。その上で自分の中の偏見に気づけたら、素晴らしいですよね。誰しも完璧ではない。少しずつ気づいたところから気をつけていけばいいんじゃないかな。

辻 「完璧ではない」って本当にそうだと思います。職業柄、私は会社でもプライベートでも、日常のあちこちでアンコンシャスバイアスについて発信したり学んだりしています。すると同じ意識の人が集まってきてくれる。そんな環境でも、私を含め無自覚な偏見は誰にでも潜んでいる。なので、「私は差別していない」と思わないことが大切。普段から自分にも無自覚な偏見があると自覚できれば、誰かに偏りを指摘されたとき「気付かせてくれて、ありがとう」と自然に受け入れ、学ぶことができると思います。

パンテーン「#PrideHair」動画は、こちらから。

Asuka Ito