熊本県合志(こうし)市は、映像制作などを手掛ける株式会社ロボットとともに、「地元サイコゥ!映像祭」を開催。
映像祭は地元の魅力を届けられる映像クリエイターを日本中で育てることを目的にしており、プロアマ問わず、地元に関する映像作品を広く募集している(応募は2023年1月15日まで)。
合志市はなぜ、同市だけでなく全国の地元クリエイターの育成を進めるのか?
映像祭を主催する合志市役所の松本聡一郎さんと、運営を担当する株式会社ロボットのプロデューサー柳井研さんに話を聞いた。
── 地元サイコゥ!映像祭を開催する経緯を教えてください。
株式会社ロボット プロデューサー・柳井研さん(以下、柳井):地元の魅力を市民が発信できるように育成してほしいという合志市の思いがあり、元々「合志市クリエイター塾」をずっと一緒にやっています。
クリエイター塾は8年目で、多くのクリエイターが育ってきています。そのクリエイターがもっと競い合えたり、活躍できたりする場所が作りたいと思い、今回の映像祭になりました。
── 合志市クリエイター塾はなぜ始まったのでしょうか?
合志市役所・松本聡一郎(以下、松本):当初は合志の農産品をPRしたいという目的で始まりました。実は元々は、農家さんをクリエイターにしていこうとしたんです。今は、より多くの方に地元の魅力を発信してほしいということでどんどん門戸が広がり、僧侶の方もいれば中学生もいるような、多様性のある場所になっています。
柳井:合志市長が「地方にしかないクリエイティブ産業を作りたい」「農家とアニメーターの兼業者を作りたい」と言っていたんですね。弊社が拠点にする東京にはない構想で、それはすごいと思って、我々も触発されて参画しました。
── 合志市クリエイター塾も、全国から塾生を集めていますよね。
松本:もちろん合志市が運営する事業なので、合志の魅力を発信する人を育てたいという思いは前提としてあります。一方で、合志が全国のクリエイターの拠点になりたいとも思っています。合志を中心に、同じ思いを持った自治体が全国各地に増えることで、より合志の価値も高まってくると思うんです。
柳井:クリエイター塾では、ハウツーを学ぶより、自分らしさを見つけることが大切という考えで授業をしています。その意味でも、多様性は重要ですし、全国から色々な人が集まってきてほしい。「青森の農家さんは、こんな映像作るんだ」とか、色々な職業の色々な人の目線を見ることは勉強になると思うんです。
── 塾生の多くは未経験者と伺いました。どんな動画ができるのでしょうか?
松本:ある未経験だった卒業生がいるんですが、その方がつくった合志を舞台にしたショートムービー「見慣れたまち」が印象的ですね。10分ぐらいのムービーの中で、合志の魅力をうまく入れ込んでいます。私も合志で育った人間で、とても愛着をもっているんですけど、こういった映像を見るとより合志が好きという気持ちが湧いてきます。
柳井:僕らみたいな東京で映像の仕事をしている人たちが作る、誰が見てもOKを出しやすい作品とは全然違う、私的な目的のために作っている映像はやっぱり面白いですね。
お母さんが自分の息子を撮って、自分でつくった歌をのせている作品とか、自分の息子と一緒にヨーグルトを食べているシーンを使った合志のヨーグルトのCMとか。そもそも僕らとは違うものが絶対にできるし、それこそが面白い。
松本:これまで385名を超える卒業生の方がいますが、活躍する方も増えてきています。そういった方々がさらに全国の舞台で活躍できるような機会を作ることができた今回の映像祭は、8年間のクリエイター塾の大きな成果です。今回の映像祭をきっかけに1人でも多くの方が地元のことをRethinkする機会になればなと思っています。
── Rethinkという言葉が出ましたが、映像祭はRethink PROJECTも協賛し、「サイコゥ」には「再考(Rethink)」の意味も含まれているんですよね。
柳井:そもそも映像制作自体にRethinkっていう作業は必要だと思っています。すべての授業を担当している塾長は、「1人よがりでは伝わらない、客観的になりすぎると個性が出てなくてつまらない。映像制作は、主観と客観をいったり来たりすることが大事」と教えていますがが、まさにそれもRethinkですよね。
みんなでRethinkできるようになろうという意味で、映像祭では映像の作品を提出するだけじゃなくて、審査員として人の映像作品を見ることができるプログラムを実装しています。
── どんな人に映像祭に参加してほしいですか?
松本:地元の魅力を最高と思える作品がテーマになっているので、まずは地元を盛り上げたいって思っている方、かつクリエイターとして今から頑張っていこうっていう方にぜひ参加してほしいですね。
柳井:普段自分が当たり前と思っている見方や固定概念が覆るような、こんなやり方があったかと思えるような作品が集まるといいなと思っています。最近は暗いニュースも多いですし、ちょっとした起爆剤というか、明るい話題を提供したいと思う人たちのエネルギーが集まるような時間にしたいです。最後は、みんなで「地元って最高!映像って最高!」って言いたいですね。
あと、この映像祭は審査員も募集しているのが特徴です。一緒に審査して、頑張っている人同士が繋がれたりする。つまり作品を評価するだけじゃなくて、コミュニケーションが生まれることがポイントだと思っています。映像作品と同じぐらい、地元を盛り上げたいと思っている人が審査員で参加してくれるような場所になったら嬉しいです。
── クリエイター塾も映像祭も、地元クリエイターを増やすことを目指しています。クリエイターが全国に増えることで、どんな社会になると思いますか?
松本:映像は、地元を好きになるきっかけになるのかなって思います。映像を見ると過去を振り返れたり、現状を見つめ直す原点になったりする。そういう意味で、映像によって心動かされる瞬間が要所要所であるんですよね。人生、落ち込んだり迷ったりすることも多いと思いますが、映像作品が後押ししてくれるかもしれない。そういったクリエイターの存在が増えると、もっと日本も元気になっていくんじゃないのかなと思っています。
柳井:都会に出るとか、都会と競争するってかなりエネルギーを使うことだと思うんですが、地元で映像制作を頑張っている人たちを見ると、そんな必死になって都会と競争しなくてもいいというか、マイペースに生きられるんだということを見せてくれている気がします。そういう存在自体がすごく意味があるというか。慣れ親しんだ土地や、好きだなと思う土地があったらそこに根付いて、「地元やっぱり最高だね」と言える人が増えるといいのかなと。もっと気楽に地元で過ごせるムードになったらいいなと思います。
▼地元サイコゥ!映像祭
https://koshi-creator.jp/rethink
▼合志市クリエイター塾
https://koshi-creator.jp/