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2019年06月10日 12時38分 JST

帰る選択、帰らない選択。母国から逃れて数年、シリアの子どもたちの本音

ヨルダンにいるシリア難民は約66万人に上ると言われ、さらにシリア難民の子どもの85%が、貧困ラインを下回る生活を強いられているという。

「僕には心から願っていることがあります。朝起きたら、オリーブや、アプリコットや桃の木があったらいいのに、と思います」

12歳の少年が、あどけなさの残る表情で、ささやかな願いを語る。

オリーブや、アプリコットや、桃の木がある家に、街に、帰れないのは理由がある。それは彼がシリア難民だからだ。

「以前のように、シリアで平和に暮らしたいです。戦争が始まって、すべてが壊れてしまいました」

子どもたちが口々にメッセージを語るこの動画は、国際協力NGO「国境なき子どもたち」の松永晴子さんが現地で撮った動画。

松永さんは、シリア国境から約10キロの荒野にあるヨルダンのザアタリ難民キャンプで、学校を運営し子どもたちの支援を続けている。ザアタリ難民キャンプは内戦下のシリアから戦禍を逃れてきた人々が住んでいる世界最大の難民キャンプ。長引く紛争によってキャンプ生活は長期化し、7、8年ここでの暮らしを続けている人も多い。ヨルダンにいるシリア難民は約66万人に上ると言われ、さらにシリア難民の子どもの85%が、貧困ラインを下回る生活を強いられているという。

ジャーナリストの堀潤さんが司会を務めるネット番組「NewsX~8bitnews」5月27日の放送では、「帰る選択、帰らない選択、シリア難民のいま」というテーマで堀さんと松永さんが語った。

ハフポスト日本版
国際協力NGO「国境なき子どもたち」松永晴子さん

2019年初めにザアタリ難民キャンプを実際に訪れ取材をした堀さん。そのときは8万人ほどが生活していたが、徐々にシリアに帰る人が出てきて、今は7万5000人ほどになった。学校でもお別れパーティーが頻繁に開かれているという。 

松永さんは「シリアの状況がある程度安定しているということもあり、3月、4月ぐらいからシリアに帰る選択をする人たちが増えています」と語る。

松永さんは現地の子どもたちの声を紹介した。

「私の名前はアヤート・ムハンマド・サラマート、15歳です。私は、私の国であるシリアから逃げてきました。ヨルダンは、慈愛を持って私たちを受け入れてくれました。私は、シリアのすべてのものが恋しいです。なんと言っていいのかわかりませんが、とにかくすべてのものが恋しいです。私たちの家、私たちの家族、すべてです。戦争を抱えた国々からの難民たち、平和で安全な場所に帰れることを願っています」

ハフポスト日本版
インタビューに答える子ども2

「僕の名前はハーリド・アル・ハティーブです。13歳です。僕はダマスカスの出身です。今から、シリアに起こったこと、そしてどうなったのか、をお話しさせてください。すべての家やプレハブが爆弾によって壊されてしまって、生活状況はとても苦しくなりました。本当のことだけど、夜、飛行機がやってきて、爆弾を落としていきました。以前の暮らしは本当に良かったんです。でも、突然恐怖がやってきました。僕たちは、それがどうして、どうして起きたのか、わかりません。神は存在します。僕は、シリアに戻って、作り直すことを願っています。そして、また良い生活が送れるようになりたいと願っています」

ハフポスト日本版
インタビューを受ける子ども3

子どもたちのメッセージからは、みな故郷に帰ることを願っていることがひしひしと伝わってくる。 

故郷に帰る子どもたちもいれば、それぞれの家族の判断で難民キャンプに残る子どもたちもいる。

松永さんは、シリアも安定したのだからみんな帰ればいいのにという風潮が、実はヨルダン国内にもあると紹介した上で、「どちらに焦点を当てて教育していくべきか、支援をする中で迷いもあった」と心境を明かした。

「結局、帰っても帰らなくても彼らにとって大事なのは、いかにいま自分がいる場所を思いやって、良いものにしていけるかということです。学校の生活もキャンプの生活も。そういう環境を作るにはどうしたらいいんだろうと考えたり、経験的に学べる環境作りが必要なのではないかと思っています」

寄付をしたり、ものを送ったり、様々な形の支援があるが、私たちはシリアの子どもたちに向けて、日本で何ができるのか。

「帰った人たち、いまだに難民としてキャンプにいる人たち。それぞれ彼らがどんな状況にあるのか、こうして彼らが一生懸命発信しているメッセージに関心を持っていただくだけでも、彼らにとっては、見放されていない、忘れられてないというメッセージになります」

シリア難民と聞くと、ミサイルや戦争、政治といったイメージをしがちだが、彼らにも私たちと同じように日々の楽しみ、小さな成長や喜びがある。松永さんが紹介する写真や動画からは、そんな当たり前のことに気づかされる。

【文:高橋有紀/編集:南 麻理江】