HIV感染告知は不要、内定取り消しは違法。法人に賠償命令、札幌地裁【HIV内定取り消し訴訟】

この裁判では、服薬していれば慢性疾患と同様に考えられるHIV感染について、陽性者であることを告知する義務があったかどうかが焦点となっていた。

HIVの陽性者であると告げなかったことを理由に内定を取り消したのは不当だとして、ソーシャルワーカーの30代の男性が、内定先の病院を運営する社会福祉法人「北海道社会事業協会」(札幌市)に慰謝料など330万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が9月17日、札幌地裁であった。武藤貴明裁判長は「HIV感染を告げる義務はなく、内定取り消しは違法」として、同法人に慰謝料など計165万円の支払いを命じた。

札幌地裁
札幌地裁
Huffpost japan/Shino Tanaka

HIV感染の告知義務があるかどうかが焦点

HIVは、感染していても服薬治療を続けていれば、たとえコンドームなしの性行為をしたとしても、注射針による“針刺し事故”があったとしても、他人に感染することはない。

この裁判では、そうした事実から慢性疾患と同様に考えられるHIV感染について、陽性者であることを告知する義務があったかどうかが焦点となっていた。

判決によると、男性は2017年12月、病院の採用面接でHIVの感染を伝えずに内定を得た。2018年2月ごろから働き始める予定だった。

年が明けた2018年1月、病院側から過去の受診記録が書かれたカルテを同意なく開示され、感染を指摘されたが男性は動揺してとっさに否定。その後、別の医療機関から「職場で感染の心配がない」という診断書をもらい、職場へ提出したが、面接などで正確に答えなかったことを理由に内定を取り消された。

裁判所は、男性がHIV感染を告知しなかったことについて、「HIVの感染有無に関する情報は原則として収集すべきではないとされている」「男性が病院で働くことで他者へHIVが感染する危険性は無視できるほど小さかった」と指摘。

「病院が男性にHIV感染の有無を確認することは、本来許されないものだった」として、病院側の対応を不法行為だと認定した。

また、男性が病院側からHIV感染を確認されて否定したことについても「今もなおHIV感染者に対する差別や偏見が解消されていない社会状況を考慮すると、男性を非難することはできない」と言及。

カルテの情報を採用活動に利用した病院側の対応について、「プライバシーが侵害されたもので、不法行為」だと指摘した。

原告の男性は2019年6月に行われた本人尋問で「HIVのことを(正しく)知らない人からは、差別的な扱いを受けるのではないかという恐怖感がある」と語っていた。

その上で、防御服を着て診察に当たるなどの差別的な対応をしていた被告の病院に対し「私の人権は、被告の病院に殺されました。私の、人権を返していただきたいです」と訴えていた。

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