「すでに蔓延している可能性も」新型コロナウイルス、“流行”にどう備えれば?専門家に聞いた。

新型コロナウイルスの感染状況がは新たなフェーズに入った。今後はどのように感染が拡大するのか、私たちは何ができるのか。NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長に聞く。

新型コロナウイルスの感染状況が新たな局面に突入した。

2月13日には国内で初めての死者が確認されると、和歌山の病院で院内感染の可能性が浮上したり感染経路が分からない患者も増えたりしている。2月16日に開かれた政府の専門家会議では、現在の感染状況が、流行の手前に当たる「国内発生の早期」にあるとの認識が示された。

マスクを付けて歩く人々のイメージ
マスクを付けて歩く人々のイメージ
Tomohiro Ohsumi via Getty Images

NPO法人医療ガバナンス研究所の上昌広理事長(血液・腫瘍内科)は「適切な情報をもとに、合理的な行動を選択し、正しく怖がることが大事」と語る。

今後はどのように感染が拡大するのか、私たちは何ができるのか。上氏に聞いた。

ーー感染者が日に日に増えている状況です。政府では「国内発生の早期」との見方が出ていますが、現状をどう見ていますか?

わたしは、現時点で既に蔓延している可能性も否定できないと思っています。というのも、多くの人にとっては新型コロナウイルスは風邪にすぎないからです。軽い風邪の症状があっても病院には行きませんし、仮に病院に行ったとしても(新型コロナウイルスに感染しているかを判定する)PCR検査を受けられるわけではありません。

中国では12月中旬には新型コロナウイルスのヒトからヒトへの感染が起きていたとされています。武漢市が封鎖されたのは1月23日。それまでは普通に人の動きがあり、武漢封鎖後も中国からの人の出入りがあったわけですから、感染者をすべて把握できていると考えるのは無理があります。

ただ、現状がどうであれ大事なのは、「感染拡大のスピードを少しでも遅らせること」と「死なせないこと」です。

ーー「感染拡大のスピードを少しでも遅らせる」というのは、どういうことでしょうか?

今後の見通しとして、日本では2月末から3月中旬に感染がピークを迎えると考えています。その後、4月ごろにはいったん落ち着くはずです。

今後は検査体制も整ってくるので、感染者の数はどんどん増えていくでしょう。ただ、感染が拡大するスピードを遅らせたり、感染のピークの山を小さくすることは人的努力でできると考えています。

ーー時差出勤や在宅ワークを推奨する企業も出てきましたが、そういうことでしょうか?

そういうことも大事ですが、一番は「熱はないけど咳や鼻水の症状がある」「なんとなく体調が悪い」というレベルの人でも外出しないこと。何度も言いますが、新型コロナは多くの人にとっては感染力が強い風邪なんです。軽い症状の人が、気づかないうちにウイルスを撒き散らすことになるんです。

みなさん、微熱でもインフルエンザの陽性反応が出たら会社や学校を休むでしょう? 新型コロナも同じです。体調に不安があったら、会社には行かない、外にも出ない。これが大事です。

マスクをして満員電車に乗る人々のイメージ
マスクをして満員電車に乗る人々のイメージ
Tomohiro Ohsumi via Getty Images

ーーなるほど。もう一つの「死なせないこと」についても教えてください。

今回、幸運にも中国で色々な研究が進んでいます。その中で、子どもは発症しにくいこと、高齢者や基礎疾患がある方が重症化したり死亡したりするリスクが高いことが既に分かっています。

つまり、守るべきは高齢者や基礎疾患がある人、そして医療従事者や介護をしている人です。こうした方たちは優先的に検査を受けられるようにした方がいいと思います。

日頃から妊婦や高齢者、基礎疾患がある人と接する機会がある人は、自分が大丈夫だと思っても近づくのは自粛してください。

一方で、基礎疾患がなく高齢でもなく「新型コロナかもしれない」と不安になっている軽症者は、病院に行く必要はありません。

私のところにも、「新型コロナではないか」と心配してやってくる患者さんが増えました。不安が広がっている状況ですが、ちょっと怖がりすぎているようにも思います。

現時点では病院に行っても検査することができないので、不安は消えないのに、そうだった時には医療関係者や重症化リスクの高い方にうつしてしまう可能性があります。

ーー不安が広がっているのは、マスク不足などの現象からも感じます。どうすれば不安は解消されるのでしょうか?

逆説的ですが、軽症でも検査をどんどんすることだと思います。

風邪の症状でも新型コロナで陽性が出た、というようなケースが増えれば、感染者数は増えても不安は軽減できるはずです。データを積み上げないと、いくら説明をしても不安は消えません。

そのためには、クリニックでも医師の判断で検査ができるような体制を整備することが必要です。日本の検査体制には、国内からも不安の声が上がり、海外からも批判が届いているので、もう少し待てば改善されると思っています。

もう一つ。先ほどは「検査ができない現状では軽症者は病院に行かない方がいい」と言いましたが、これを機に遠隔診療をもっと普及するべきです。

現在は初診の遠隔診療は認められていませんが、これも新型コロナウイルスの疑いで受診する場合には例外的に認めていく方がいいと思っています。

ーー夏には東京オリンピック・パラリンピックも控えています。

先ほども言ったように、今後は感染者の数がどんどん増えていき、2月から3月にピークを迎え、4月には、いったん落ち着くと見ています。

ただ、オリンピックで再び感染者が増加し、パンデミックが起きるのではないかと心配しています。その場合でも、現在開発が進められている治療薬が、オリンピックまでに完成している可能性があります。

いずれにせよ、今大事なのは「合理的な行動」と「ちょっとした気配り」です。風邪の初期症状程度でも出歩かないこと。オンラインでできることは、オンラインですること。

これだけで、感染のスピードは遅らせることができますし、ピークを減らすことができるはずです。

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