アートとカルチャー
2020年03月18日 18時07分 JST

ジブリ美術館、とうとう初めての写真集を発売へ。2人の女性が導いたステキな偶然

素敵な「偶然」が重なり、出版が決まったそう。フォトグラファーは、鈴木敏夫さんの友人で、タイ出身のKanyadaさん。

©Studio Ghibli ©Museo d’Arte Ghibli Photo by Kanyada / 撮影:Jun Tsuboike
「ジブリ美術館ものがたり写真展」より

スタジオジブリの世界観がつまった、三鷹の森ジブリ美術館。3月20日に、同美術館初の公式写真集「ジブリ美術館ものがたり」が出版される。発売を記念した写真展が、3月19日まで東京・渋谷の「hmv museum」(渋谷modi 「HMV&BOOKS SHIBUYA」6階)で開催中だ。

iPhoneでジブリ美術館を撮影。見ているだけでワクワク

写真を撮影したのは、スタジオジブリ代表取締役プロデューサー・鈴木敏夫さんの友人で、タイに住むKanyada(カンヤダ)さん。すべてiPhoneで撮影したという。

美術館を見守るように屋上に佇む『天空の城ラピュタ』のロボット兵、子どもたちの絶好の遊び場となっている『となりのトトロ』のネコバス、たくさん集まったマックロクロスケ...。

眺めているだけでスタジオジブリの世界に浸れるような、ワクワクする写真が並んでいる。一方で、「こんな場所あったっけ?」と、少し考えてしまうような不思議な写真も。

©Studio Ghibli ©Museo d’Arte Ghibli Photo by Kanyada / 撮影:Jun Tsuboike

期間限定で公開された写真展でも、三鷹の森ジブリ美術館の世界観ができる限り再現された。

入り口をくぐると、美術館の“ニセ受付”に座る、大きなトトロの写真が来場者を出迎えてくれる。

ロボット兵のミニチュアフィギュアや、「要石」のレプリカ...鈴木敏夫さんが書いた、「バルス!」の書なども展示されている。

©Studio Ghibli ©Museo d’Arte Ghibli Photo by Kanyada / 撮影:Jun Tsuboike

普段は撮影できないジブリ美術館

ジブリ美術館は、普段は館内での撮影は禁止されている。

背景には「思い出は心の中に大切にしまって持ち帰って欲しい」という、館主である宮崎駿さんの思いが込められているという。

今回出版されるのは、その館内の様子を細部に至るまで記録した貴重な写真集だ。

©Studio Ghibli ©Museo d’Arte Ghibli Photo by Kanyada / 撮影:Jun Tsuboike

3月7日に開かれたトークショーには、鈴木敏夫さんが登壇。

「美術館の公式の写真集が出ていないっていうことは、実は僕はすっかり忘れていたんですよね」と笑いながら語っていたが、「宮崎駿はジブリ美術館のことをすごく大事にしているから、彼も写真集を出すということに簡単にOKはしないだろうと思っていた」と振り返る。

 

写真集は、千尋のモデルになった女性へのプレゼントだった

撮影:Jun Tsuboike
鈴木敏夫さん

では、なぜ写真集が発売に?

鈴木さんによると、きっかけは、出版社のDiscover 21(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から鈴木さんとKanyadaさんの書籍の企画を持ちかけられたことだったという。 

「今まで美術館を撮影した全体の写真はあったんですが、細部を撮った写真はあまりなくて。以前Kanyadaが来日していた時に撮ってもらったら、ドンピシャだったんですよ。そこで、タイからKanyadaが来てジブリ美術館を撮影する、という企画があったら面白いんじゃないか、と思ったんです」

撮影:Jun Tsuboike
(左から)トークショーに登壇した映画監督の中川龍太郎さん、Kanyadaさん、鈴木さん

さらに、宮崎駿さんが首を縦に振らざるを得ない、素敵な「偶然」も重なったという。

「ずっとジブリに協力をしてくれた日本テレビの奥田さんという人がいて、彼の娘が結婚することになったんです。ご存知の方は多いかもしれませんが、その彼女こそ、『千と千尋の神隠し』の千尋のモデル。その彼女が、企画を持ちかけてくれた出版社に勤めていたんですよ。...これが実現したら、結婚のプレゼントになるんじゃないか、と」

「彼(宮崎駿さん)も簡単にOKはしないだろうと思ったんですけど、千尋のモデルだった彼女の会社でやるんだと、それが彼女へのプレゼントだとなったら、彼も納得せざるをえないんですよ。...とかね、そういうことがいっぱい重なったんですよ。(笑)」

 

撮影を担当したKanyadaさんとは?

撮影:Jun Tsuboike
Kanyadaさんも来日した。「みなさんに写真を喜んでもらって嬉しい」と笑顔で感想を語っていた。

撮影を担当したKanyadaさんは、タイとカンボジアの国境近くにあるのどかな村、パクトンチャイで生まれた。

日本に留学した経験を持ち、滞在中にひょんなことから鈴木さんと出会ったことで、国境を超えた友情が生まれた。

Kanyadaさんがタイに帰国した後も交流は続き、その縁は鈴木さんの友人にまで広がっていく。

2018年に発売された鈴木敏夫さんのノンフィクション小説「南の国のカンヤダ」では、自由奔放なKanyadaさんに時に“振り回されながら”も、職探しや家探しに鈴木さんらが協力する様子が描かれる。

明日のことは考えず、過去も振り返らない。「いつも、今、ここを生きている」。書籍の中で、鈴木さんはそう書いていた。その生き方は「貧しかった頃の日本人」の姿も重なったという。

 

「子どもの眼差し」

©Studio Ghibli ©Museo d’Arte Ghibli Photo by Kanyada / 撮影:Jun Tsuboike

Kanyadaさんは、一家の長女として大家族を養わなければならず、お金を稼ぐために、レストランやスパの経営など様々な仕事をしてきた。 

プロのカメラマンではなかったが、Kanyadaさんが撮影したパクトンチャイの写真が鈴木さんの目に止まり、今回の企画に至ったという。

「ジブリ美術館は200人以上のカメラマン、いろんな人が撮ったんですけど、Kanyadaの写真はそのどれとも違っていました」。鈴木さんはそう語る。

Kanyadaが撮った写真を美術館のスタッフに見せたら『面白い』と言ってくれたんですが、その次に言ってたのは『これ、どこなんだろう?』と。すごく小さな展示品を寄りで撮っていて。ローアングルで、光を意識して撮っているんですが、本当に面白い写真を撮ってくれたと思います」

©Studio Ghibli ©Museo d’Arte Ghibli Photo by Kanyada / 撮影:Jun Tsuboike

トークショーに登壇した映画監督の中川龍太郎さんは、「子どもの眼差し」を感じた、と話す。 

「あとがきに書かれていたことをそのまま聞き写しますが、ロボット兵の背中のカットは、まさしく『子どもの眼差し』だと感じました。今はそういう眼差しで見られなくなってしまったけど、自分が子どもの時はそうやって世の中を見ていたな、と改めて気付かせてくれる写真だと思います」

鈴木敏夫さんはあとがきで、「Kanyadaは、もともとカメラマンを目指していたわけじゃない。(中略)彼女の撮った写真を世界はどう評価するのだろうか。Kanyadaは、好きで写真を撮っている」とつづっている。

自由で、優しい空気に満ちた、Kanyadaさんの写真。彼女の眼差しを通して、新しいジブリの世界を発見してほしい。

©Studio Ghibli ©Museo d’Arte Ghibli Photo by Kanyada / 撮影:Jun Tsuboike
「ジブリ美術館ものがたり」写真展

ジブリ美術館ものがたり写真展』は、3月19日(木)まで開催中。開館時間は11時から19時30分まで。写真集『ジブリ美術館ものがたり』は、3月20日(金)にディスカヴァー・トゥエンティワンから発売予定。

なお、東京・三鷹にある「三鷹の森ジブリ美術館」は、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、4月28日(火)まで臨時休館中。

 

(文:生田綾 @ayikuta 写真:坪池順 @juntsuboike