「生きるか死ぬか、戦争みたい」風俗で働くセックスワーカーたち。公的支援の「壁」は【新型コロナウイルス】

「身を張って、感染リスクもあるのに一生懸命働いています。消毒薬をおき、徹底的に手を洗い、換気扇も回しています。だけど、厳しい」と訴える。公的支援に行き着けないし、受けようとしない。それには根深い社会的問題がある
緊急事態宣言の全面解除後の東京タワー
緊急事態宣言の全面解除後の東京タワー
AFP via Getty Images

通勤電車の混雑は戻りつつあり、街にも人が増えてきた。一方、 東京のソープランドなどの性風俗店は自粛要請は続いてきた。集積地である吉原(台東区)では、緊急事態宣言が発令された4月8日ごろから60日あまり一部の営業自粛が続く。「これまでグレーの存在できたからこそ、給付金を申し込むこともできない」と嘆く女性も。ソープランドで働いていた女性が、危険を伴うアンダーグラウンドの風俗に移っていることも危惧されている。

「今日も6時間待ったけど、お茶を引いていた。メンタルに来る」
「生きるか死ぬか。戦争みたい」

お茶を引くとは、仕事がゼロの事をいう。風俗で働く女性たちが漏らす。

ソープランドで4年ほど働く女性のAさんは、指名が絶えず人気だった。だが今「このままでは先が見えない」と取材に対して話す。

新型コロナウイルス感染拡大は、ソープランドにも影を落としている。4月13日から非常自体宣言の延長が決まる5月6日まで、女性の店は完全に閉まり、日払いの収入は約半月の間はゼロに。貯金を崩して生活している。その後、営業時間を短縮して店舗は再開したが、収入は半分以下になった。穴埋めをするため、仕事は6月末まで休みはない。日に数時間の自由時間以外はソープ以外でも働いているという。

同業の女性たちも追いこまれているのではないかと話す。ソープランドで働く女性同士は、実は繋がりは希薄で、孤独だという。個室で対応するため物理的な接点がないことや、風俗業をしていることを周りに秘密にしている人もいるからだ。それでも、ある女性がつてをたどってAさんに「50万円、なんとかならないか」と相談をしてきた。追いこまれて命を断とうとした人もいると耳にした。「新型コロナ後に、吉原で働く女性がビルから飛び降り、自殺をはかったみたいです。命はあり未遂で終わったのでよかったけれど...」と話す。

今までにない危機感を感じている。「新規の客は女性達の間で奪い合いで、生きるか死ぬかの戦争みたいで残酷です」。

Aさんが働いていた店では、1日に2、3人の女性が採用面接に来ているが、おそらく客がいないので採用されても厳しい状況なのではないかと話していた。

別の風俗関係者によると、固定客もおらず、窮地に陥った女性たちが向かうのは、デリヘルや地方への出稼ぎだという。店舗型のソープランドは休業要請に従って営業を自粛しているが、デリヘルは客のところに女性が訪問するため、実態がつかめず、営業が続いていると見られる。デリヘルは、業者によっては危険性が高い場合もある。店舗型では衛生面の管理やトラブルに対処するボーイなどが常駐するが、デリヘルは客の場所に赴くので、場合によってはレイプ、お金のトラブル、病気など危険が伴うこともあるという。

夜間の東京の町のイメージ
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Getty Images

そもそも、ソープランドは、公衆浴場法により「個室付浴場」に分類される。個室付きの浴場で、客と女性が自由恋愛をするという建前だ。女性は、個人事業主のように、店側に雑費などとして一定の額を払い、売り上げを現金で受け取ることが多いという。

個人事業主に準ずるため、Aさんは給付金を受け取る対象になりうる。

国の給付金について、政府は、新型コロナウイルスにより収入が減少した企業や個人に対して支給される「持続化給付金」について、性風俗業界で個人事業主として働く人も支給対象になるとの見解を5月12日、明らかにしている。

だが、Aさんは国の給付金に申請しないだろうと語る。「営業実態がつかめるような書類が残らない現金商売なので、前年の書類も手元になく、そう簡単に政府の給付金にも申し込めないし、申し込まないと思います」。

ある風俗関係者も「書類でのやり取りはないことが多く、確定申告をする文化ではない」と話す。

Aさんは「多くの人は給付金を申し込まないのではないかと思います。銀行口座も持たず、現金で報酬をやりとりします。それは、性風俗で働く履歴を残したくないという人が多いからだと思います」と話す。

SWASH代表の要友紀子さん。 web: https://swashweb.net/twitter: @swash_jp facebook: https://www.facebook.com/swashweb/
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国の支援金を受け取る制度はあっても、申請できない根深い問題背景がある。こう指摘するのは セックスワーカー当事者と支援者による任意団体SWASHだ。
SWASHによると、大半のセックスワーカーは、そもそも申請しづらい現状があるのは、風俗で働いている事を疑われると差別されるため、公の支援に頼ることを恐れるからではないかという。

一方、支援金を申請し、早速、手元に給付金が届いたと報告する風俗で働く人々もいる。大阪市西区の松島新地で働くBさんは、営業が再開しても新型コロナの感染が怖く仕事場に行けていない。1月に約40万円あった収入が4月は約6万円、5月はゼロに。確定申告をしていたため給付金を申請し手にしたという。「家族にバレたくないので多くの人は確定申告もできないし、ママからも『給付金など国や行政に関わることは何もしないで』と言われる。国に書類を提出すると芋づる式にどこで働いているかわかり、さらに、お店が納税していない場合は指摘されてしまうからです。私は交通事故などに遭い労務ができなくなった場合などに備えられるし全体を考えメリットがあると考え確定申告をしていたのですぐに給付金を申請できました」と語る。

SWASHによると、これまで確定申告など税処理をしていなかったとしても、昨年の確定申告をした上で、収入を証明する自分の帳簿や、店に支払い証明を作成してもらうなどの方法で収入が減ったことを証明できる方法があるという。ただ、確定申告をし忘れた場合、無申告加算税などが課される場合があるので、きちんと税の取り扱いをするようにして欲しいとしている。専門家によると、風俗業で働いている人で店と雇用契約がない場合は、確定申告が必要だ。

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SWASH代表の要友紀子さんは、忘れてはならない視点として「公的支援を受けるのに、『覚悟』が必要な人が多いのが現状だ」と話す。それは性風俗に対する社会の意識にあるという。「書類や問い合わせの過程で仕事を特定されないかと不安に思う人が大半です。公の支援にたどり着けない社会的環境があるのです」。

現状では、風俗は社会的に排除されていると指摘する。
3月、セックスワーカーが小学校の一斉休校の影響で休職した保護者への支援制度から一時除外されていたこともあった。結局、SWASHの訴えが届き支援対象になったが、「厳然とした“職業差別”があることが露見した」(要代表)。

前述のAさんは「社会的に性風俗という産業はグレーに扱われてきました。だからこそ、給付金ももらえない社会的構造になっている。胸を張って税金を納めたくてもそうできない」とも語る。 「100万円の給付金を受け取ることで、(会社の払う税がどうなっているのかわからないが)お店に迷惑がかかったとしたらいけないので」。

「私たちは身を張って、感染リスクもあるのに一生懸命働いています。消毒薬をおき、徹底的に手を洗い、換気扇も回し最大限の努力をしています。ですが、客は激減し、厳しい状態にある」と訴える。

女性だけではない。ボーイなどをしていた男性も職を追われている。ソープランドの店舗自体も閉じているからだ。

過去に吉原で店を経営し、新型コロナの影響であるソープランドのボーイだったが失職した男性によると、業界内に回っている話として、吉原にある140数店舗のうち50店舗近くが売りに出ているようだという。持続化給付金はソープランドやストリップ劇場、出会い系喫茶などの性風俗業を営む事業者については支給対象外だ。男性は自力で別の職を探しだし、公的支援に頼ることはなさそうだと話していた。

要代表は、「表に出られず(社会に伝える)“言葉”を発信しづらい人を忘れないで欲しい。社会は風俗を差別しないというメッセージを出して、支援にたどり着けるような環境づくりができれば」と話している。

(ハフポスト日本版・井上未雪)

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